ふぇんごくふぃふぇい隊
現在位置。位置というやつの定義は人の情報共有の根幹を成している。
次の曲がり角と言ったら、進行方向を維持して進んで最初の曲がり角だ。最初に進行方向を維持するのは暗黙の了解だ。道を聞いたほうも教えたほうもそこには触れない。
隊列を組むなら前は頭、後ろは尻。右手は箸を持つし、左手は悪いことしてる。
きっと、彼らの中に人倫にともるような(あるいは神社の境内で脱糞するような、神仏を敬う心が欠落した最近の私の友人のように)行いをした輩がいるのかもしれないが。
どっちにしろ前後左右もあいまいなまま彼らは進んだ。右の方に話しかけると左から返事が来たり。返事をしてから話しかけられたり。奇妙なそれでいてあいまい。
そこがどこだったのか誰にもわからないがそこは一つの位置であると言えた。始めに言葉はなかった。此処が在った。すべての原点。観測基準。絶対ゼロ点。すべてに対して静止した位置。なぜか破綻しない不思議なしかし曖昧さの無いそんな位置であった。
「隊長、現在位置不明です」
「そうか」
彼は困惑していた。このようなひどく心細いことは自分の名前がDQNネームであると気付いた時以来だ。
佐藤 光宙それが彼の名前である。
しばらく歩くと普通科第072連隊第2中隊第3小隊は森の中に出た。植生が富士のそれと違う。熱帯の森のようだ。昆虫もいつも見るものより幾分か大きいしグロテスクに見える。
「隊長、民家が見えます」
「洋風だな。石造りか。西一士ちょっと行ってこい」
「はい」
小隊が最初にコンタクトをとったのは領主の圧政に苦しむ寒村だった。
村人は大変彼らに同情し、彼らをもてなした。
「義を見てせざるは勇無き成り」
光宙は命令する。
「領主宅を襲撃!男は殺せ!女は奪え!」
「隊長我々は自衛隊です!そんなことはできません!」
「そうだ。そうだ」
いいや違う。そう違う。
「俺たちはもう日本には帰れないもう。シビリアンコントロールから外れれば自衛隊という組織ではない」
「しかし」
「もう自衛隊ではない。そうだな。おれたちは」
「ふぃふぇい隊だ。 ふぇんごくふぃふぇい隊だ」
ピカチュウは部下に銃殺された。銃器オタクの隊員が密造した銃弾を数発持ち込んでいたのだ。
そして私は飽きた。