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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三題噺

三題噺②まさかの、パワースポット、効果

作者: 優凛

 神様。どうかどうか。良いご縁をお結びください。


 二礼、二拍手、お願い事はただ一つ。それから一礼。

 一月一日になった瞬間に全身全霊を込めて願う。


 去年は好意を持った男にはふられ続けて、寄ってくる男は変態ばかり。パワハラ上司に、男尊女卑、変質者にストーカー。

 挙句の果てには詐欺師に引っかかり、貯金を全て持っていかれてしまった。

 今年で三十。女の大台。

ダメ元で地元でも有名な縁結びの神様に懇願するしか、もう道はないと思ったわけで。


「神様ぁ……どうか! どうか!」


 大願成就。心願成就。

 願わくば良い出会いを。出来ることなら人生の最後まで共に生きれる伴侶を下さい。


「やめてください!」


 後ろで控える次の参拝者達が引くほど真剣に祈り終えた私の前に、高校生くらいだろうか、薄いピンクの可愛いコートを着た女の子が酔っ払ったオッサンに絡まれていた。

 新年迎えて浮かれすぎた人間はまぁ、毎年のこと。

 それに対して許す許さないは特にない。しかし、である。


「こら、オッサン。新年早々、女の子に絡むんじゃないわよ」


 べたべたと年頃のお嬢さんに触る禿げ散らかしたオヤジの手首を掴んで、体を後ろに引き剥がす。

 可哀想に。少女は目を真っ赤にして、見ても分かる程に小刻みに震えていた。


 何故、男と言うのは、若くて可愛い女の子の前では理性を保てないのか。

 別にナンパをするなとか、アプローチするなとは言わない。

 もちろん、若さに対しての妬みでもなんでもなく。


「許せないのはなぁ……アンタみたいな奴のせいで、この子の新しい一年の始まりが最悪なものになっちゃったってことよ!」


 酒は飲んでも飲まれるな!


 他人に迷惑をかけた時点で、酔っ払っていたからという免罪符は効かない。


「なんだよぅ。ババアが嫉妬かよぉ? あんたも触って欲しいってか? まぁ、無理だろうなぁ。モテない女の僻みは嫌だねぇ~」


 よし、殺そう。殺意と言うのは冷静な時こそ沸き上がってくるものらしい。

 とりあえず、この禿げの申し訳程度に残った、数少ない髪を引きちぎろう。


「ま、まあまあ、落ち着いて」


「あんた、ちょっと飲みすぎだよ。ほら水飲め、水」


 あー、くそ。最悪。何も出来ずに有耶無耶にされた。

 いや、髪なんて引きちぎろうとしたら、こっちが犯罪者になってしまうわけなんだろうけど、それでも……何も言い返せなかったのは、悔しい。


「あ、あの……ありがとうございました……」


「ううん。大丈夫だった? 怖かったでしょ?」


「っ……すごく……こわかった……」


 寒さのせいでは無い震えた体を少女は自らの両腕で抱きしめて、ぽろぽろと涙を零してしまう。

 そりゃそうだ。見ず知らずのオッサンに絡まれて、べたべた触られて嬉しい女が何処にいる?

 それがイケメンでも無理な話だ。


「こんな夜中に一人で初詣に来たの?」


「と、友達と……はぐれて」


「そっか」


 温かい甘酒を貰い、二人で並んで飲んでみる。

 少女は少し落ち着いたのか、泣き腫らした大きな瞳で私を見上げ、「ありがとうございました」と再度、小さく可愛い声でお礼を述べた。


「その……嫌な目にあったけど、今ので、きっと一年分の嫌な目に遭ったってことだから。明日からはずっと、いいことあるよ」


「……」


「ね?」


「……はい」


 よかった。笑ってくれた。

 この子の一年が本当に良いものであるように願っておこう。

 神様もきっと、私の欲にまみれた願いより聞きやすいと思うから。


 さて、それで私と言えば、あれから一月。なぁーんも男が寄ってきてくれないわけで。


「ぐ……ぅ。やはり初詣だけでは無理だったか」


 ならば、この一年。津々浦々。東西南北。東奔西走。縁結びで有名な神社に駆けずり回ってやる!


「あの……」


 今日は珍しく朝の情報番組での占いが良い結果だった。

 仕事は順調。定時で退社。

 同僚からは頼りにされて、上司からはお褒めの言葉を頂いた。

 これはもしかすると、もしかするとだ。運命の出会いと言うものがあるかもしれない。


「あの」


 風に吹かれて、ふわりと揺れるは紺色の少し短めの膝丈スカート。薄いピンクのコートにふわふわの白いマフラーなんて、こんなの若くて、可愛い子じゃないと似合わない。


「せ、せんじつはどうも……」


 ぺこり、と頭を下げ、上げたその顔には見覚えがある。


 初詣の時の子だ。


「ど、どうしたの?」


「お礼、ちゃんと言いたくて」


「なんでここが」


「この前、偶然見かけて……その……」


 ずっと外で待っていたのだろうか。頬がまるで熟れた林檎みたいに染まっている。


「お礼なんて別によかったのに。あの時もちゃんと言ってくれたし」


「ん……」


「だから」


「まって、あの、まだ、話が」


「え?」


 ひゅるりと冷たい風が通り抜け、周りの音まで攫っていく。

 聞こえない。と、小さく口を開閉させる少女の近くに寄って、耳を近づければ、


 甘くて、可愛い、お菓子のような声と香りが鼓膜の奥へと染み込んだ。


『あなたが、すきです』


 ああ、神様。これは一体、どう言うことなのでしょう。


 私の望んだ恋愛とはかなり掛け離れたものなんですが?


「わたしと、つきあって……ください……」


 ふるふると震えた華奢な体と、か細い声。健気に普通ではない想いを伝えに来たことを思えば、無理! なんてはっきり言えるはずがない。


「ぅ、うう……」


 神様、神様。あなた、なんてことをしてくれましたか。

 確かに恋愛運は上がりましたが、どうして男運ではなかったのですか?


「あー……」


 でも、もしこれが、私の願った良いご縁と言うならば、


 まぁ、いや、べつに、


 やぶさかではないな、と思うわけです。

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