モテを求めし者
「ぐうぅぅぅ......少し無茶をしすぎたようですね」
Kは、激しい連続攻撃による負担がかかった左手の傷口が開き、痛みに苦しんでいる。
一対一になってしまったが、左手の負傷はチャンスだ。
「ふぅーーー」
俺は大きく息を吐きだし、Kを見据える。
その様子を見たKは俺に言葉をかける。
「さっきよりずいぶんマシな面構えになりましたね。僕を倒してヒーローとやらにでもなるつもりですか?」
「ああ。どうやら最後まで諦めずに戦うヒーローはカッコいい。斉木君やファイアマンがそう教えてくれた」
格上相手に、自分を含めた何人もの犠牲を出しつつも、相打ちまで持ち込み、一人の女の子を守って見せた斉木君。
俺のピンチを救ってくれて、やられてしまっても最後の最後まであきらめかけてた俺を鼓舞してくれたファイアマン。
どちらもカッコいいと感じた。
「それに......カッコいいヒーローはモテるに違いない」
それを聞いたKは失笑した。
「いいですね。実にくだらない。僕だって皆がひれ伏す王様になりたい。そういうのは好きですよ」
「ありがとよ」
俺はそう言ってKに向かって走り出す。
「《花澤流剣術 山茶花》!」
俺は自分の持つ技で最も速い技、抜刀術の山茶花で勝負をかけるが、躱されてしまう。
何度も追い打ちをかけるが、結果は変わらなかった。
「あなたにはスピードが足りませんね。その剣術の取柄は剣筋の隠蔽能力の高さとトリッキーな動きのはずです。ですが、あなたは高度な技は修得していないようですし、そのスピードでは隠蔽された剣筋もある程度予測する余裕がある」
まさにその通りだ。実際、ここまで攻撃が当たらないのは初めてだ。
スピードか......
まぁ、体裁を気にしてる場合でもないし、あいつに頼るか。
「トール」
俺は、自らの異能力人格、トールと交代した。
「それがあなたの異能力人格ですか......羨ましい限りです。僕は自分の異能力が何かすら覚えていませんからね」
「それがどうした? 俺は誰が相手でも最初から全力だぜ! 《帯電》!」
俺は落雷から得た電気エネルギーを纏い、Kに斬りかかる。
「これはこれは......僕でもついていくのがやっとな程のスピードですね。ですが......」
俺の斬撃はことごとく防がれてしまう。
「何で俺の方が速いのに当たんねぇんだよ!」
「確かに素晴らしいスピードですが......あなたの剣はあまりに単純すぎる。今までの相手ならそのスピードで攻撃を押し通せば勝てたのかもしれませんが、スピード自体にそこまで差が無い僕相手ではその子供のような剣では通用しませんよ」
「はっ。随分余裕な口ぶりだな。その割には体は悲鳴を上げてるぜ」
Kの体がふらつき始める。
「何!?」
「俺からあふれ出る電気エネルギーがお前の体にダメージを与え続けてたってことだ。至近距離で攻防している間ずっとな。いくら俺の剣が防げようがこのままだと最終的には俺が勝つ」
「あなたは主人格とは考え方が全然違いますね。ヒーローらしさの無い勝ちにこだわった陰湿な戦法ですね」
(そうだそうだ。そんな勝ち方じゃモテないだろ!)
「お前は味方だろ」
俺の番に徹が話しかけて来るなんて珍しいな。
(でもこのままじゃ駄目だ)
「は? まさかお前がやらねぇと勝ってもモテないとか言い始めるのか?」
(それもある)
あるのかよ。
(けど、少しずつ削っていく戦法じゃKが捨て身の覚悟で大技をうって来た時点で押し切られて負ける)
《刑罰絶技》ってやつか。確かにあれを受けきれるかっていうと厳しいだろうな。
「じゃあ、どうするつもりだよ」
(簡単さ。俺にはスピードが足りない。トールには剣の技術が足りない。だけど、お互いの足りないものはもう片方が持ってる。二人の力を合わせれば......)
「確かにな。でも、どうやって? 俺とお前は同じ体に宿った人格同士なんだぞ」
(今、トールの力で俺の体は高い電気エネルギーを帯びた状態だ。そのまま俺が出ていって剣を振るう)
「バカ! このまま出ていっても制御できずに能力が暴走して自爆するのがオチだぞ」
(でも、このまま大人しくやられてくれる相手じゃない。一か八か賭けに出るべきだ!)
「ちょ、やめ......」
徹が体のコントロールを奪いにくる。抵抗するも、元々は徹の体。抵抗しきれずにコントロールを奪われた。
「内輪もめは終わりましたか?」
「ああ。......ぐっ、ぐあーーーっ!!」
全身を激痛と共に稲妻が駆ける。やはり俺では制御が効かないらしく、能力が暴走したようだ。
(バカ! 今すぐ変われ!)
「嫌だね。このまま何か一回でも攻撃出来たら勝てるはずだ」
(コントロールを渡せ! お前から渡されねぇと出てこれねぇ)
「大丈夫だ。体は何とか動く。邪魔しないでくれ」
(ちっ。そっちが無茶するならこっちだってしてやるよ! コントロールをよこせぇ!)
「うぉぉぉ!! 俺はKを倒してモテるんだぁぁぁ~!!!」
(うぉぉぉ!! コントロールをよこせぇぇぇ~!!!)
その瞬間、辺りはとてもまぶしい光に包まれた。
光が収まり、目を開けるとKが驚愕していた。
「そんな...まさか、あり得るのか? こんなことが......」
様子から察するに、俺に何かとんでもないことが起こったらしい。
確かに、さっきまで暴れていた電気エネルギーが嘘のように自分の体に収束している。少し頭が痛むことを除けば、とても調子が良い。
今なら、Kにだって簡単に勝てる気すらする。
俺は剣を構えた。
すると、一つのイメージが脳裏をよぎる。
「《花澤流剣術 型破り 雷花 紫電》」
その花のように儚く、雷の如き速度の剣は、Kを一瞬で切り伏せた。




