蹂躙タイム
「さて、そろそろ蹂躙の時間ですね」
「何!?」
Kが蹂躙を宣言してから戦況は一変した。
緋ノ宮さんの攻撃が全く当たらなくなった。いや、緋ノ宮さんが攻撃を全く当てられなくなったと言った方が正しいかもしれない。
「どうかされましたか?」
「くっ。駄目だ。何度攻撃しても手ごたえが無い......お前、俺様に何をした?」
Kは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら質問に答える。
「催眠術ですよ。本当は、あなた方を戦わせるのも一興ではありましたが......残念ながら他人を意のままに操れるほどの深い催眠は、どこかに縛り付けて数時間......人によっては数十時間かけて暗示を刷り込ませなければならないので、今この場では行えません。しかし、私の居場所を多少錯覚させる程度の浅い催眠なら戦いながらでもかけられます。特に僕の目の前にいるあなたにはね」
「ふんっ。だったら範囲攻撃だ!」
緋ノ宮さんは自分の周囲に炎を生み出す。しかし、その制御は精彩を欠いていた。
「あなたは今、催眠状態。頭が少しボーっとしているはずです。その状態では異能を使っても全力は出せませんよ」
「ちょっと不調になってるだけだろ。そのくらいじゃあ俺様は負けねぇ」
「分かってませんね。今後の運命を分かつとき......特に生死をかけた戦の場ではそのちょっとの不調も命とりになりますよ」
Kはそう言うと、上手く戦えずに隙が出来た緋ノ宮さんのみぞおちに強烈な突きをいれた。
「ぐはっ」
緋ノ宮さんは倒れた。だが、強烈な痛みで動けないだけで意識はまだあるようだ。
「次はあなたです! そこにいるのは分かっていますよ、竹中ァ!」
Kは左腕を射抜かれた恨みと言わんばかりに、一直線で竹中先輩の下へ向かう。
「くっ」
竹中先輩は身を守る態勢に入ろうとするも、間に合わない。
「遅い!」
近接戦闘能力がずば抜けて高いKに近寄られたスナイパーが戦闘不能になるのに時間は殆ど必要なかった。
「あと二人」
Kはそう呟くと石を拾い上げ、吹雪さんに向かって投げつけた。
「《氷の壁》!」
吹雪さんは咄嗟に壁を作り、石を防いだ。
しかし......
「自ら視界を絶つのは感心しませんね」
「!!」
壁の裏からKが吹雪さんに襲い掛かる。
「俺が受ける! 《花澤流剣術 水芭蕉》!」
俺はKと吹雪さんの間に割って入り、カウンターの構えを取る。
「同じ手が二度も通用すると思わないことです」
「攻撃してこない!?」
カウンター技の構えに集中していた俺は、他の技に瞬時に切り替えられず、ただKが横を通り過ぎるのを見過ごすことしか出来なかった。
振り返ると、吹雪さんは地面に倒れていた。
Kは、そのすぐそばで俺を見ている。
「これで終わりです」
Kが俺に近づいてくる。
俺は女の子の前で強敵を倒してモテたかった。だが、実際は仲間の女の子一人守れず、敗北は一寸先。
同じ学生警察の斉木君は、殉職してしまったけど、格上相手に一度は糸川さんを守って見せて、次に戦った時は相打ちまでもっていったそうだ。きっとかっこよかったんだろう。
「俺は最期までカッコ悪いままだったな。せめて一回くらいは女の子にカッコいいところ見せたかったな」
完全にあきらめかけたその時、目の前を業火が包んだ。
「くっ。熱い」
その温度にKも一旦、退いた。
業火の中から赤い仮面をつけたヒーローが現れた。
「え? 誰?」
言ってしまえば、変な人が唐突に現れたので、こんな言葉しか出てこなかった。
「......ファイアマン。お前を助けに来てやった。《発火能力》」
「ぐあーーーっ!!」
ファイアマンの能力で、Kは燃え始めた。熱さに苦しんでいる。
ファイアマンはこちらに向き直り、こう告げた。
「お前を助けるのも、こんな格好するのも今回だけ。そんなにカッコよくなりたいなら諦めずに最後まで戦え。いつかは女子が見惚れる程のカッコいい成果が出せるはず。引くべき時でない時はどんなに苦しくても諦めないあいつに惚れた私が保証する」
俺がファイアマンの言葉に感銘を受けていると、ファイアマンの後ろにKが忍び寄っていた。
「!! まだ動けたの!?」
「僕を燃やすとは言語道断! 処罰する! 《刑罰絶技》!」
ファイアマンはKの格闘術に滅多打ちにされ、崖まで突き飛ばされた。
「ごめん、油断した。私みたいな被り物の偽物じゃなくて、本物のヒーローになって」
ファイアマンはそう言い遺して、崖の下に落ちていった。
しかし、ファイアマンの言葉は俺の闘志に火をつけた。




