仲間割れ
「K様の仰せのままに」
Kに洗脳された万屋は俺達に襲い掛かってきた。
「隼人、魔子、近接戦闘を頼む。俺は援護しながら策を練る」
「了解」
「了解」
二人の返事と共に戦闘が始まる。
さて、まず決めなければならないのが、洋平の洗脳を解くのかそれとも倒してしまうのかということだ。いきなりかつての仲間を倒せなんて俺にも魔子達にも荷が重い。洗脳を解く方向で話を進めよう。
洗脳を解く方法だが、よくあるケースだと強い衝撃を与えるか親睦の深い者が目を覚ますように呼び掛けるというのがある。強い衝撃なら隼人にやらせれば簡単に達成できるだろう。目を覚ますように呼び掛けるのは正直難しいだろう。正気の人間でさえ、話を聞く気が無ければこちらの声が届かないのにこちらを殺しにかかってくる者に声を届けるのは困難を極めるはずだ。
よし。
「魔子、隙を作ってくれ。隼人はその隙に洋平の頭部に最大火力の殴打を入れて目を覚まさせろ」
魔子は洋平の右肩に視線をやり、洋平が右肩の守りに入ったところでノールックで足払いを掛けた。
「視線フェイントに絶対引っ掛かるのは相変わらずね」
洋平は尻もちをついた。
その頭上に隼人の拳が振り下ろされる。
「《倍速行動 三倍速》! これで目を覚ませ!!」
加速能力による速度を上乗せされた拳は洋平の頭に大きな衝撃を与えた。
「? ここは?」
「洋平! 戻ったのか?」
「戻る? そういえば御劔君が見当たりませんが......」
喜びも束の間。答えづらい質問にみんな黙ってしまった。
操られていた時の記憶は無いのか。
パチパチパチパチ
崖の上から拍手が聞こえた。
拍手の主は、崖の上に座ってこちらを俯瞰しているKだ。
「かつての仲間の洗脳を解いてあげるなんてとても素敵な絆ですね。方法は少々手荒でしたが。ですが、無意味です」
「何?」
「催眠術というものは、かかればかかるほどかかりやすくなります。何度も繰り返し催眠をかけられた者であれば、その催眠術師の声を聴いただけでまた同じくらい......いや、もっと深くまで催眠にかかってしまいます。そうでしょう? 万屋」
「はい。K様」
「何!?」
振り返るとさっきはいつも通りだったはずの洋平が元の催眠術にかかった状態に戻っていた。
「催眠をいくらといたって無駄です。例え、催眠を解いて連れ帰ったとしてもテレビやラジオなど僕の音声を聞かせる方法なんていくらでもあります。その度に催眠が深くなり、解けなくなるのも時間の問題でしょう。あなた方に残された方法は一つ。その手で万屋を殺すことです。深く考えることはありません。万屋も異能力者です。死ぬ代わりに異能を失うだけです」
だけと言われても、致命傷を与えることに変わりはない。そう簡単に割り切れるものでは......
その時、ある人の言葉が脳裏をよぎる。
「お前は充分に優秀だ。お前に弱点があるとすれば、いざという時に非情になれないことだ。僕は目的の為に必要なら、うちの隊の連中であってもこの手で殺す」
こういう時、あの人なら迷わず洋平を殺せるだろう。
今、最も合理的な選択が仲間を殺すことなら、例え嫌でもやらなきゃ駄目なんだ!
俺は引き金を引いた。
しかし、その弾丸は刀に弾き飛ばされてしまう。
「隊長......何で万屋を撃った? あいつの言うことを信じるのかよ! まさか、今ので催眠術にかけられちまったのか?」
隼人は俺に突き放したような目線を向ける。
魔子は急な出来事に戸惑っているようだ。
「違う! 俺は......」
言いかけたが言葉に詰まる。
本心では間違っているとは思っていても、学生警察として自分より圧倒的に優秀なあの人の言葉通りの行動をすることが正解かのように感じられてしまう。
このどっちつかずな気持ちを整理出来る程、俺の頭は冷静ではなかった。
「何黙ってんだ。見損なったぜ。万屋を殺すなら俺を殺してからにしろ」




