天使の翼
「あ~あ。また隠れるところが少ないところに連れてこられたよ」
僕は、夢想天子に辺りに何もない野原に連れてこられた。どこだよここ。
「さて、珍しく妹の頼みですから頑張りましょうかね」
そう言って、夢想は僕の正面に降り立つ。
「やあ、夢想天子。直接会うのは初めてだね」
「お手柔らかにお願いします」
「あ~。猫被らなくてもいいよ。君は《シャドウ》じゃ有名人だからね」
「へぇ、そうなんですか」
「ああ。裏社会に足を突っ込んだばかりの人間がよく依頼に来てたよ。あの美女を落としたいから情報を集めてくれってね。僕とかはいいんだけど、《シャドウ》の新人はそんな仕事でも受けちゃうんだよね。そして、新人たちは仕事を通して君を発見し一目惚れ。自らが君のことを知りたい欲求に駆られ、すぐにボロを出してしまって君に殺される。もはや恒例行事さ」
「確かにやたらと情報を聞き出そうとしてくる男性は絶えませんでしたね。能力者だと発覚した時点で殺しましたけど」
「まあつまり、僕ら元幹部は君の本性を知ってるから猫被らなくてもいいよって話なんだけど......」
やべー。次の話題を何とかして見つけないと。流石に初対面じゃあんまり思いつかないな。
とにかく、戦闘までの時間を出来るだけ稼がなくてはならない。
僕の異能力は夢想の異能力と相性最悪だ。
僕の異能力は《物体透過》。あらゆる物理的干渉をすり抜けることが出来る。物理攻撃しか不可能な者も多いから素の戦闘能力がそこまで高くない僕でも一方的に攻撃して勝利することが出来る。
しかし、物体透過状態の僕に攻撃を加える方法が存在する。それが夢想の異能力、《天使》をはじめとする《幻想種》の異能力だ。《幻想種》の異能力者は、体の一部、主に異能力で顕現した部位を幻想状態にすることが出来る。幻想状態の部分は物理的干渉を行えない代わりに非物理的干渉を行える。つまり、物体透過状態の僕にも干渉できる。
そのまた逆もしかりではあるが、《幻想種》の能力者にとって僕は少し戦闘の上手い無能力者に過ぎない。
「じゃ、遠慮なくズタボロにさせてもらうぜ!!!」
夢想の翼が薄い虹色になり、その後、夢想は姿を消した。
「ぐはっ」
強烈な回し蹴りをお見舞いされた。夢想の翼は顕現状態のときはその大きさで物理的に可能なレベルの飛行能力しかないが、幻想状態の翼は本人自身に飛行能力が与えられる。つまり、羽ばたく必要すらなく、その飛行スピードは人間が視認できるレベルを超えている。
しかし、人間の体はその高速飛行に長くは耐えられないはずだ。
物体透過状態のオンオフを上手く切り替えて少しでも多く攻撃をいなしつつ、夢想の体が根を上げるのを待てば勝つことすら可能だ。
こうして地獄の耐久戦が始まった。




