警察と医大生と作家
「《発光》!」
私は、竹中先輩の合図と同時に目くらましをし、全力で走り出した。
学生警察現二年生の隊長達に逃げると言わしめた相手だ。そうするしかない。
「とにかく奴の視界に入らないことだけを考えろ。とにかく角を曲がれ」
「はい!」
竹中先輩の言う通り、必死で角を曲がり続ける。しかし......
「何!?」
曲がった先に待っていたのは、曲がり角の存在しない長い長い一本道。隠れられる場所もせいぜい電信柱くらいだ。加えて坂道だ。逃げるにも余計に体力を消耗してしまう。
「引き返しますか?」
この道を逃げるのは無理だと思い、竹中先輩に指示を仰ぐ。
「いや、戻って遭遇する方が危険だ。それなら、岸田の能力で姿を消して少しずつ距離を取ろう」
「分かりました。《虚像 透明化 範囲拡張》」
私は、透明化の範囲を自分の周囲から先輩方も入るように拡張した。
しかし、この状態を維持するだけで精一杯だ。ただでさえ負担の大きい技だ。それをいつもの3倍位の範囲でやるとなるととてもじゃないが歩くのもままならない。今日は曇りで、太陽の光の処理がほぼ無いのが唯一の救いだ。
「このままやり過ごす方が良さそうだな」
負担を見かねた竹中先輩が妥協案を提案してくださった。正直、有難い。
しかし、聞き覚えのある声がだんだんと近づいてきた。
「あれ?おかしいな。逃げるとしたらこの道しかないのに」
平本切嗣だ。幸運にもまだこちらには気づいてないらしい。頼む、このまま通り過ぎてくれ。
「なんてね。《無影灯》」
急に新たな光が加えられたことで、透明化は解除され、無意味な疲労だけが残った。
「はぁ、はぁ。何故、透明化が分かったんだ」
「君が光を操る能力者なのはさっきの目眩しで分かった。大方、周囲の光を操作して姿を消してるんだろう。なら、予想外の光で操作に狂いを生じさせれば、姿が浮かび上がるって訳だ」
「くっ。」
「探すの疲れたし大人しくしてもらおうか。《縫合》」
「何!?靴が地面に縫い付けられた。動けない」
「さぁ。遊びの時間だ。思う存分、解剖させてもらうよ」
もう駄目だと思ったその時、凄まじい突風が吹いた。
こちらに歩いてきていた平本は、その風に押し戻された。
「そのあたりにしていただこう」
背後から聞き覚えのない声がした。
「誰?」
平本が声の主に尋ねた。
「貴様のような小物に名乗る名などない。平本切嗣」
「は? ってか僕のこと知ってんの?」
平本は少し苛立った様子で聞き返した。
「平本切継。《サイコパス医大生》と呼ばれる指名手配犯。その所以は人間を生きたまま解剖したいという欲望による言動の数々と実際に数人を手にかけた実績。一方で、卓越した医学の才能を持ち、不治の病と言われていた難病を治した実績もあり、指名手配犯で唯一、生きたまま確保しろと国から警察に圧力がかかっている。異能力は《即席手術室》。その能力は、」
「もういいよ。長い。邪魔するならお前から切るだけだしね。《切開》。っ何だ?急に光が」
「その能力は手術室内で起こる現象を視界内の任意の位置に適用する能力。従って、視界を遮る類の攻撃に弱い。記念にこれをくれてやろう。私のサイン入りだ」
そういって謎の男は一冊の文庫本を平本に投げ渡した。
平本は文庫本を手に取り、適当に開いたページを読み始めた。
「平本切嗣はサヴァに攻撃しようとするが、空が晴れ、太陽の光で視界を遮られ失敗に終わる。その後、サヴァの投げた文庫本を手に取り、このページを開く。最後まで読み終えたところで後ろからゴーレムに殴り倒され、気絶する」
その瞬間、平本は背後からやってきたゴーレムに殴り倒された。文庫本の記述通り、気絶しているようだ。
「《爆裂弾》」
竹中先輩が平本を倒したゴーレムを一撃で粉砕した。
「魔子。足、頼めるか?」
「まかせて」
竹中先輩の指示で夢想先輩の鎌が縫い付けられた足を開放する。
私は結局、時間稼ぎにしか役に立たなかった。仮にも進級すれば、竹中先輩と同じ、202小隊の隊長になるはずなのに。
私が無力感に苛まれていると、竹中先輩が謎の男に話しかけていた。
「助けていただいたのは有難いですが、どちら様ですか?」
「申し遅れました。私は、名も無き有名作家ですが、我が主からはサヴァとお呼び頂いております」
「どうして助けていただけたのですか?」
どうやら、竹中先輩に自己紹介をツッコむ気はないらしい。
「私の目的は我が主の御父上の保護と宿敵の抹殺。これを同時に達成するためには学生警察の味方をするのが良いと考え、実行しました」
「ということは、その御父上という方は学生警察の関係者ですか?」
「はい。皆様もご存じの雷鳴徹様です」
雷鳴君が?この人の関係者?




