旅人の冒険者
妄想を詰め込みました。
宗教の勧誘というものを受けたことはあるだろうか?私は、とある街の入り口で経典の押し売りをされかけたことがある。詐欺紛いの値段だったからその分厚い経典を教主のおっさんの禿げ頭(あれは剃髪じゃあなかった)に投げつけて逃走したけど。
数か月後、噂でその教団は詐欺集団として捕まったことを耳にした。あたしの判断は間違っていなかった…。
さて、なんで突然こんな話から始めたというと。
「ですから、貴女こそ浄化の神子様なんです。なので俺と一緒に」
「だーかーらぁッ!!人違いって言っているだろうがッ!?」
現在進行形で、私が謎の男から勧誘を受けているからだ。何だよ”浄化の神子”って。私はただの冒険者だっつーの!!
* * *
私の名前はアキラ。男みたいな名前と喋り方だけど、一応女だ。冒険者業で稼ぎながら一人旅をしている。旅の目的は特に無く、単純に色々な地域を見て周るのことを趣味としている。
さすがに人が生きるには過酷な砂漠や雪山などには行かないが、これでも色々な場所を巡ってきた。今は山の中腹の小さな人里で、旅費を貯めるため簡単なクエストをこなしながら一カ月ほど留まっている。小さな人里だけど、この山を越えれば大きな街があるため宿場”里”としてそこそこのにぎわいがある、いいところだ。小規模ながらも冒険者ギルド支部もあるし!本当助かった。
今日とてギルドに顔を出し、クエストボードを見つめている。腕っ節には少しは自信があるけれど、不相応なクエストを受ける気はない。”生きていくために必要なこと”は、「あの人」からしっかり教わっている。
「…ねーちゃん、なぁねーちゃん!!」
「ん?ああお前か、クロノ」
さてどのクエストを受けようかと悩んでいたところ、まだ幼いながらも気の強い少年、クロノに呼ばれた。こいつは村に来てから”ちょっと”色々あって、それ以来懐いたのかよく私の後を着いてくる。
「今日は何すんだよ!あっ、この毬猪狩りとかどうだよ!」
「ばーか、それは銅級3位が4人以上の受注条件だろ。…あたしならこれらかな」
べり、べり、べりっと、3枚の依頼書をクエストボードから剥がす。『角兎5匹の狩猟』『羽葉の蜜球根10個採集』『燈鉱石の採掘』だ。
「またそんな簡単なクエストかよー。でも、一度に三つも受けるとか、さすがねえちゃんだな!」
「ふんっ、わざとらしいお世辞だな。…蜜根余ったらやるから、またお菓子作ってくれない?」
「きひひっ!!世辞も言ってみるもんだな!よし、ならば母ちゃんにこないだのジャムクッキーを頼んでやるよ!」
「えっ、ほんとに!?」
以前クロノのお母さんから貰ったクッキー、すっごく美味しかったんだよね!……うっかり素が出かけた、危ない危ない。
私たちの会話はもう日常に溶け込んでいて、受付のお姉さんや在住冒険者が微笑ましそうにこちらを眺めている。…あ、これなんか恥ずかしい、とっとと受注して山に行こう。
「これとこれとこれ、お願いします」
「はい、承りましたアキラさん。ふふっ、今日もクロノくんと仲がいいですね」
受付のお姉さんは優しく笑っている。くっ、公共の場で騒ぎ過ぎたか……恥ずかしいぃ。
「角兎は一体ずつはそこまで脅威のある魔物ではありませんが、群れで一度に襲われると危険ですので注意してくださいね?角を5つ以上お持ちいただければクエスト達成ですが、お肉も持ってきていただいた場合、ギルドでも買い取り可ですので」
「はいはい、うまく狩れたら兎肉のシチューお願いね!」
「ふふ、では食堂担当者に申し伝えておきますね。羽葉の蜜球根、アキラさんなら探しだすことは難しくはないでしょうが、その球根を狙って虫系の魔物が湧く可能性がありますのでこちらもご注意ください」
そこでお姉さんはいったん言葉を区切り、最後の依頼書を確認すると思案顔になる。
「最後の、燈鉱石の採掘ですが。この件で『追加クエスト』を発注させていただいてもよろしいでしょうか?」
「は?」
突然言われたことを理解できず、私は間抜けにも口をぽかんと開けて呆けてしまった。追加クエスト?
「ご存じでしょうが、燈鉱石は魔力を帯びた、発光する鉱石です。純度の高いものであれば魔術の媒体になり、低ければ砕いて魔光燈の原料になります。まぁ、こんな田舎のギルドには魔光燈なんて高級品は支給されませんが」チッ
あー、確かに大きな国のギルド支部や教会の明かりは、魔光燈の所もあったなぁー。…あたしは思い出したと素振りをして、お姉さんに一瞬漂った黒い何かには気付かないことにした。綺麗な笑顔から舌打ちなんて聞こえてませんヨー?
「すみません、脱線しましたね…。それで、山中に昔は燈鉱石がよく採れた坑道があったのですが、そこで鉱石を探してもらうことになります」
「”昔はよく採れた”?ってことは、今は廃坑ってこと?」
「まだ正式には決定していませんが、実質そうですね。もうほとんど人は入っていない”ハズ”です」
…おいおい、まさか…。
「人が来ない坑道…、盗賊や魔物は隠れ住むには、丁度いい住処に成り得ます。アキラさんには追加クエストとして、『坑道の生態調査』をしていただきたいのですよ」
* * *
「はああああっ!!」
ザシュッ!!
「キィィィィィ……ッ!?」
おっと、帽子がずれかけた。クロノがくれた布帽子だ、大事にしないと。
私の最後の一太刀で、角兎は致命傷を負ったようだ。周りには他の角兎の死体が4つ、計5匹。よし、クエスト終了!!ついでに角を採り、首を切る。バックから紐を取り出し、兎を木から吊るして血抜き作業を済ませる。蜜根は採集済みだし、最後のクエストが終わったら兎肉(血抜き済み)を回収しよう。
そう、最後のクエスト…、『燈鉱石の採掘』兼『坑道の生態調査』である。
ま、『調査』だけだから、危険な奴ら居たって倒したりしなくてもいいんだけどねー。何か討伐しないといけない奴がいて鉱石が採れないってことになっても、クエスト達成扱いにしてくれるし。
魔光燈ではない普通のランプを手に、私は坑道に入ることにした。
……………うん、結論から言うと”何も無い”。
此処、ホントに元・燈鉱石の坑道?お姉さんが改めて説明してくれたけど、燈鉱石は光るものだ。その光の色々種類があって、魔力の属性によってまったく違うものらしい。ま、くわしいことは知らないけどね。
でも、いくら寂れて多少年月が経ったとはいえ、―――――暗すぎる。
欠片の燈鉱石でも、仄かに光るものだ。でも、この坑道は、暗くて、黒い。
人や魔物らしき気配は感じれないどころか、…蝙蝠とか虫とかも、まさか生物が何も居ない?
「あの人」に教えてもらったことは、魔物の倒し方、旅の仕方、他にも色々あるけど。
”危険なものに対しての直感力”。私の予感は「あの人」ほどではないけれど、よく当たる方だ。
「………ッ!!」
戻ろう。踵を返そうとしたそのとき。
ぞわりと。
なにか、
暗闇よりも、更に、
黒い何かが
足に
―――――――――――――――――――― パァン !
「はッ……!?」
私は息を吐いた。一瞬の間だけど、呼吸の方法を忘れてしまったかのように、私は息を止めてしまっていたようだ。
何が、起きた? ……何に、遭遇した?
「大丈夫ですか?」
突然の呼びかけに、私は驚き、振り向いた。反射的に、剣の柄に手をかけた。
声の主は、不思議な光に照らされていた。
青みかかった短髪に、縁のない眼鏡をかけた男だった。歳は、私より少し上ぐらいだろうか。
その服装は特徴的なものだった。このときの私は気が動転していて気付かなかったけど、それは深い青を基調にし、所々銀で装飾された”法衣”だ。
そして、男を照らすモノ。それは、先端にランプの形状をした魔光燈が付いている、長い杖。
杖の先端の魔光燈からは、淡く、美しい青色が溢れていた。