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ただ一つ心残りなのは、あの小さな濃い青の布切れが外れたか外れなかったのか、知らずじまいです。多分知らない方が良いのでしょう。もし外れた事があるとしたら、とそう考えるだけで、僕は今にも狂い出しそうです。あの美しいもの ─ それにしても何と美しい創造物でしたろう!結局彼女は天使ではありませんでした。彼女は人間でした。彼女は人の肉と人の毛のにおいがしました、その味がしました、その手触りでした。ああ、しかしそれは何と美しい創造物でしたろう!夢で見たものの対極をなす存在でした。正にそれは清らかさと同時に稔りの象徴 ─ それは僕一人の所有でなければならないのに、もし外れたのだとしたら!僕は知らない方が良いのです。
それと僕の信仰告白。あれは出鱈目でした。僕にあったのはイエスでは無くて、イエスが一緒になってくっついて来た滋子でした。黄金の子牛に祈って与えられなかったものを、彼女が与えて呉れました。僕はそこに神殿を築き・・・築き掛けた;それで善しとします。惜しむらくはバートランド・ラッセルの長寿に恵まれず、僅かながらの知識も得ず、他人の苦しみに対しては極めて冷淡な利己主義者として死ぬことです。しかし、彼の五分の一の時間で彼の三分の一になり得ました。悪くはありません。
貴方の弟子にして甥
レーモン・コバヤシ




