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僕はずっと欲しくて仕方がなかったものを、漸く手に入れたのでした。父に六色のペンを貰って以来、ずっと欲しくて仕方がなかった、あの完全な何かを。それを手に入れた暁には、僕はその万古不易・金剛不壊の巌の上に魂の神殿をしっかと建て、雨降り、流れ[みなぎ]漲り、風吹いて倒れず、何人の侵入をも許さぬ心の桃源郷に憩う筈でした。滋子に初めて会った時分、其の[ひづめ]蹄に[さび]錆を見付けた、人知と云う名の黄金の子牛を、神に祭り上げる事が出来そうも無いと悟った僕は、自殺する手前の崖っぷちに立っていました。いったい僕は真の憩いを知り得るだろうか?僕の魂に安息の場所はあるのか?
あるのでした。全ては公案の一種に過ぎなかった。




