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狂 気 前 夜   作者: Raymond Kobayashi 訳:天野なほみ
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   最後まで僕を憂えさせたのは、しかし、彼女の大きな見つめる目たちでした。それらが最も追い払いにくかった:ぼくの恥ずべき行為の前、ほかの全ては忘却しつつあった時も。僕はそれらが行ってしまうまで必ず待ちました。

   しかし後ろめたさ、からは、決して逃れられなかった。それを持ったまま、僕は『喜びの島』の二回目のレッスンへの途上にありました。ただマツバラ女史の所へ行くか行かないかの問題のみが未決定でした。僕は電車の中で滋子にばったり出会うのを恐れて遠回りをしました。わざわざ渋谷まで行って、そこから東横線に乗るのです。もちろん、これはあまり意味がなかった、と云うのも、僕は彼女がどの方向から来るのか知らないのですから。でもその時は、そうするのが完全に論理的なように思われました・・・渋谷に到着するまでは:そこで急に自分の行為の非合理性が思われたので。僕は結局マツバラ女史の所に行かない決心をしました;いずれにせよ時間に間に合うようには行くまいと。僕は山手線を一周、旅しました。それから僕は予定通り渋谷で東横線に乗り換えました。都立大学で降りました。レッスンは直ぐに終わる筈ですし、僕は彼女が駅に現れるのを待ち受けるのです。これもやはり無駄かも知れない、なぜなら彼女が都立大学駅を自由が丘駅に優先させる保証は全く無いから。(言い忘れましたけれども、マツバラ宅は都立大学駅と自由が丘駅のほぼ中間に位置しますが、後者へ行くには道を何度も曲らなければならないので、前者を優先させると徒歩で約二分の節約になるのです。)事実、僕は常に自由が丘駅の利用客でした。更に、自由が丘はナントカ線と云う別の路線〈天野注。東急大井町線〉の乗客の駅でもある為、彼女の交通手段が電車だと仮定しても、僕が空振りに終わる可能性は、そうでない場合に三倍しました。でもやはり、その時はその事が頭に浮かびませんでした。その週は一夜も安眠を得なかったのです。彼女の目を追い払うのに忙しかった。多分僕は発狂しつつあったのです。そして彼女は来ました。駅の出口に立った途端、彼女が真っ直ぐ僕の方へ進んで来るのが見えました。

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