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狂 気 前 夜   作者: Raymond Kobayashi 訳:天野なほみ
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   もはや知識の集積に意味を見出す事が出来なくなり、去年の一月、日本に帰って来ました。殆ど世の中との交わりを断ち、日がな一日、自室に籠もってワーグナーを聴いたり、詩を読んだりして暮らしました。新約聖書も読みました。一読パウロは取るにたらぬ男でした。キリスト教会は、僕の神が住まう神殿で無かった。

   その頃自由が丘のマツバラ・ヤエコ女史の所で再びピアノの稽古をつけて貰っていました。大学に行く以前、四年程通った教室です。マツバラ女史は、課題曲を出すと先ず三週間自宅での練習期間を呉れます。三週間が過ぎると、生徒は練習の成果を自由が丘へ披露しに行く。その日から週一回、二週間の内に計三回の稽古をつけて貰う。初回の日、次の課題曲を与えられ、それはそれでまた三週間後に備えます。つまり、のべつ新旧の課題曲を抱えながら、五週間の周期で曲を入れ替えてゆくのです。課題曲は三四分ずつの短い楽章とは云え大概三曲です;どちらかと云えば骨の折れる仕事と云うべきでしょう。一年以上通っていると以前に習った曲を再び課せられる事があるので、僕の場合重複曲がいくつもありましたけれども(大学に行っていた二年五ヵ月を差し引けば、締めて五年一ヵ月マツバラ女史の指導を受けたことになります)レパートリーが最低でも千二百分間は膨らみました。

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