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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
93/125

92話 イレギュラー

 俺の問いに、魔族は沈黙していた。歯は固く食い縛られていて、いつまで経ってもその口から言葉が紡がれそうな気配は無い。


「答えられないのか?」

「……違ぇよ。痛ぇんだよ、刺された傷が」


 魔族の視線の先にあったのは、俺が放った矢によって貫かれた足。貫通はしているが、矢が抜けていないために出血は少なめだ。


 それがどうした、このくらいじゃ死なないだろう。

 そんなことを言いそうになるのを堪え、俺は魔族の表情を見る。


 俺が見てとれる感情は、苦痛に歪んだものだけ。恨みも、怒りも、哀しみも、俺を出し抜こうとしている狡猾な様子も浮かんでは居なかった。

 しかし、だからと言って簡単に解放する訳にもいかない。解放したあと、こいつが襲ってこないとも限らないからだ。

 ………俺を、じゃない。脱出した先で合流するであろう、仲間をだ。


「………仕方ない、か。痛みが無かったら、洗いざらい吐くんだな?」

「当、然」


 声を絞り出した魔族は、それきり黙ってしまう。

 だから、俺は即座に行動に移した。彼の言葉が信じられるにしろ、信じられないにしろ、何かしなければならないことに変わりはない。


「痛むぞ。こんな方法でしか拘束出来ないからな」

「は?───痛、いでででで!?傷口絞まってるぞグレートにィィィ!?」

「ホントに好きだな。“グレート”」


 乱暴に矢を引き抜いて、即座に《金の輪(メタルリング)》で固定する。イメージが出来るだけで魔法が発動出来るのが、この世界の便利なところだ。

 その際、簡単には抜けられないようにするのと、血を止めるようにするために、少々きつめに固定させて貰った。


 それを足に三ヶ所程施した後、腕にも同様のことをする。羽や尻尾も同じように固定して、一切の身動きを制限した。魔法は打てるだろうが……そんなことをしようとすれば、躊躇なく殺す。

 生憎、【狂人化】の恩恵で、殺人への忌避感は無に等しいのだ。


「それじゃあ……【狂人化】。【狂え】」

「………おいおいおい。痛みが消えちまったぞ」


 後は【狂人化】を起動して、【五時間、魔族の痛覚を遮断】すれば処置は完成だ。傷を治すことも考えたが、それで無理して拘束を脱されたら困る。

 痛みなら……軽く麻痺した感じになって、上手く力が入らないはずだ。きっと。


 急に痛みが消えたことに、魔族が目を丸くする。

 同時に、こちらへ意識を向けなかったので、頭を小突いて意識をこちらへ向けさせ、問いかける。


「これでいいだろ?」

「はいはいはい、分かったよ」


 まるで話を受け流すような返事をしながら、魔族は一つ、咳払いした。


「えーと、ここは、ある魔族の【スキル】によって創られた異空間だ。確か【決戦場創成】とかいう奴で、各部屋ごとに脱出条件があるとかないとか」

「例えば、部屋の主を殺すとかか?」

「ああ。この部屋の場合はそうだな。他の部屋も概ねこんな感じだと思うぜ。魔族ってのは、皆が皆戦いしか頭にねーからよ」


 原則、こいつを殺さないとここから出られない、と。


「じゃあ次。脱出したら、どこに出る?」

「消えた場所と同じだ。部屋の主が勝った場合、負けた奴を好きな場所に送れるけどな。勝利条件も、主が決めるんだが………俺の場合は、相手を気絶させることだ。グレートな俺は、無闇に殺したりはしねぇのさ。

 勝手に死ぬのは知らねぇけどよ」


 脱出した場合、村の裏口前へ出る。


「じゃあ次。シリアスな質問はこれで最後だ。邪神の目的はなんだ?」

「魔族の娘を拐うのが目的って言ってたな。なんでも、テメェが龍の力を手に入れる前に調べときたかったんだと。野郎じゃなくて娘なのは………ま、色々やれるからだろうな。そいつが駄目になっても子を作ればいいってことよ」

「なるほどな………」


 魔族が聞いている限りなら、邪神の目的はティナの誘拐で間違っていないらしい。彼女に限った話ではないだろうが。


 これでとりあえずは……聞きたいことは聞けた。

 あとは興味本意で──結構謎であるものについて、聞くだけである。


「おい。

 ………お前のその服って、どこから仕入れたんだ?自作か?」

「おおおおおお!やっぱり気付いたか、この服のオンリーワンな魅力によ!

 これはだな………俺の【スキル】で手に入れたものなんだよ」

「へぇ、【スキル】………【スキル】で!?」


 納得しかけて、慌てて問い返す。【スキル】で手に入れたとはどういう意味か。皆目見当がつかない。

 大声で聞き返した俺を笑いながら、魔族は詳細を答えた。


「俺の【スキル】は戦闘向きで無くてよ。【衣類模倣】って奴だ。衣類っていうが、その規模は他の【スキル】の比じゃねぇ。グレートなこの能力は、異世界の服(・・・・・)も調べて作ることが出来るんだ」

「───なんだ、その」


 ちょっと楽しそうに語る魔族の傍ら、俺は頭を抱え、内から湧き出る言葉を押し戻していた。

 彼の言っていることが真実かどうかは知らないが、こんな服を着ている以上、ほぼ真実と見ていいだろう。


 ───なんだその、能力の無駄遣いは。


 そういう【スキル】を言われればそれまでだが、異世界に干渉しておいて出来ることが服の模倣だけってなんなんだ。それって高度なネットショッピングじゃないのか。服しか入手出来ないなら差し引きしてプラマイゼロじゃないか。

 そんな突っ込みと言えるかどうか分からない突っ込みをしてしまいそうになるが、ネットショッピングのくだりは言っても伝わらないと思うので、言わない。


 それよりも、“異世界の服”も作れると言うことは───。

 俺が着なれていたパーカーとか、かつて着ていた制服とか作って貰えるかもしれない。

 もしかしたら、誰かにコスプレさせることだって可能かも………。


「って何考えてんだ俺!?」

『似合いそうだよなー、鈴音に制服とか、体操服とか』

「声に出して言うな馬鹿野郎!」

「………おー、これが邪神様が言ってた、裏のイレギュラーって奴か」


 俺と狂夢が不毛な口喧嘩をしている手前で魔族が何か言うが、特に耳へは入ってこなかった。


 ……確かに、思わなくもなかったというかちょっとだけ考えたけども。普通に言うんじゃない!


 ---------------


 ───炎が走る。


 知らない者から見ればそれ自体が怪異の一つである緑の炎は、標的に食らい付く獣のように、少年へと駆けていく。

 ──否。それは最早炎ではなく、炎を纏う人間か。でなければ、炎が一人でに走ることは有り得ない。


『中々楽しい追いかけっこだね。直撃したらちょっと危ないかな?』

「《龍炎》!」


 炎を纏った人間は、高圧の炎を噴出する。周りの木々を払う聖火は、闇の化身たる少年を焼き尽くさんと雄叫びを上げるが───。


 しかし、それは届かない。

 聖火は少年に届く寸前で速度を落とし、少年の手一つに握り潰されてしまった。

 先程からこれの繰り返しだ。


 そのままの状態では勝てないと判断した人間──辰乃は【龍神化】を起動したが、それでもこの差は埋まらなかった。むしろ、起動してから先程のような怪奇現象が起こっている。


「───チッ」

『【スキル】を起動しないほうが良かったかもね。それなら、運良く俺を殺せたかもしれないよ?』

「ふざけるな」


 ──素の状態なら、お前に地力が届かないだろ。


 自分の中にある、冷静な判断を表に出さないように歯を食いしばりながら、辰乃は更に【龍神化】の出力を上げた。

 村を出て、山に出た辰乃は、山への被害を極力減らすために【龍神化】の出力を制限していたのだが、それでは届かないことを悟った。ならば、更に強くなればいい。


 根本的な間違い(・・・・・・・)をしている彼はそれに気付きもせず、神として自分の力を底上げしていく。


『うっわ。まだ上がるんだ。そろそろ、普段の俺に届くんじゃない?実力』

「言ってろ!」


 少年から放たれる十の闇を、緑の聖火が焼き払う。

 彼が放つ闇に、形容しがたい嫌な予感を感じている辰乃は、闇に直接触れないようにしている。でなければ、この闇は右腕だけで十分に払える程に弱い。


 カウンターとして炎を放つ。槍の形を模した聖火は、遥か上空にある雲を裂く勢いで少年へと飛んでいく───。


「どうだ!」

『もったいない。もったいないよ、君』


 呆れたような声が響くと同時に、聖火の槍が霧散する。槍が向かっていくべき場所にあるのは、突き出された少年の右手。


 その腕には傷一つすらなく、槍が文字通り“届かなかった”ことが窺えた。

 そうでなければ、相殺すらせずにあの槍を防ぐことは不可能だと、辰乃は判断したのである。


「だったら」

『いやー、今のは危なかったよ。いつもの俺なら一回くらいは死んでたね』


【龍神化】をもう一度起動する(・・・・・・・・)

 そう自分が錯覚する程に、辰乃は全身に力を込め始めた。


 ……実際には、それは不可能である。変身の形をした【スキル】に出来るのは、変化と解除のみ。唯一、遊夢の【■■化】のみが、【狂人化】状態で【獣人化】等を起動し、【狂獣化】を演出することが出来るがそれだけだ。


 全く同じ【スキル】を重ねがけで起動するためには、全く同じ【スキル】を二つ所持する必要があり、辰乃はそれを持っていない。


 ───しかし、全く無駄という訳でもない。こと、【■神化】の異能を持つ者にとっては。

【■神化】を起動した場合、人間から神に種族が変更され、人間離れした力を手に入れることが出来る。しかし、それではただの“神の力を借りた人間”だ。神そのものではない。


 借り物の剣技では上れる高みにも限界があるように、在り方が人間である故に、彼らは神の力を使いこなせない。

 だからこその重ねがけ(おもいこみ)。より神に近付こうとすることで、場合によっては、更なる力を引き出せることもある。


「【龍神化】───。



 ───行くぞ、魔神。殺される準備は出来てるか?』

『……天才って奴かなぁ、君は』


 そして辰乃は、それを実行出来る程の幸運と実力を持っていた。


 ───それが、最大の不運であることも知らずに。

【スキル】解説


【決戦場創成】

簡易的な異空間を作り出し、そこへ任意の対象を放り込む【スキル】。

放り込まれた対象は、ホストとゲストの二陣営に分類される。ホスト、ゲストの勝利条件はホスト側が設定出来る。ホストが勝てばゲストを半径10km以内の好きな場所へ転移させ、ゲストが勝てばゲストの傷を癒した上で、転移前の場所へ戻ることが強制される。

決戦場の風景はホストのイメージによって形成される。


【衣類模倣】

衣類と認識したものを創造する【スキル】。

また、衣類の知識を得る【スキル】でもある。


このような創造系【スキル】には、名称が同じでもある程度段階があり、今回の魔族が使った【衣類模倣】は最上に位置する。

通常の【衣類模倣】が、“これまで見てきた服や文化から衣類をイメージ、創造する【スキル】”とするなら、最上の【衣類模倣】は“この世界や別の世界の衣類を無意識に刷り込み、術者のイメージに沿った衣類を創造する【スキル】”となる。


もし、最上位にある創造系【スキル】が武器を創るものであった場合、伝説の剣や未知の兵器を創ることも容易になる。

しかし、彼が持っているのはあくまで衣類限定の創造能力。言ってしまえばネットショッピングの上位互換だ。自分の周りにある服に満足出来ない人間や、それこそ完全な異世界からの転生者でも無い限り、宝の持ち腐れとなる可能性が高い。


【龍神化】

元々は【龍人化】であるが、ある条件を達成した時にのみ【龍神化】へランクアップする。

龍神の力を身に宿し、身体能力、魔法能力が急上昇。【上限決め】と【神徒契約】を取得し、神と同等の存在へと変化する。


【龍神化】の取得条件は様々だが、辰乃の場合は、“種族:龍人が【龍人化】を得る”ことを達成している。

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