8話 皆の【スキル】と疑問
気が付くと、俺は森の中に居た。
辺りを見回すと、見慣れた景色が広がっている。
俺たちが住んでいた家、魔法の練習に使っていた木が一つもないスペース、何故か常に浄化されている湖など、俺が少し前まで使っていたものが、すぐそこにあった。
まさか、ここは………
「『輪廻の森』………?」
『そうですよ。お帰りなさい、遊夢さん』
半信半疑でその名前を口にすると、背後から肯定の声が返ってきた。
振り返ると、そこには赤髪ストレートロングで、橙色の目をした俺と同い年ぐらいの女性がいて………
「■■!!………ぇ?」
その名前を呼ぼうとしたが、その名前は声にはならなかった。
───何でだ?分からない?
何でここに俺が居るのかも、何で名前を呼べないのかも、何で■■が生きているのかも、全部だ。
そうしている間にも、話は勝手に進んでいく。
『折角また会えたのに、ごめんなさい』
「なん………どういうことだよ!■■!」
必死に叫ぶ。けれどその叫びは届かずに、虚空に響き渡る。
『もう、ここには居られないんです。私は、死者ですから』
「■■!」
手を伸ばす。けれどその腕は■■の体を通り抜け、空を切るだけに終わった。
『遊夢さん、覚えていますか?あのときの、私自身の願いを』
「!………教えてくれ、■■!お前の願いを!」
俺は、■■に問う。■■のもう一つの願い。それは俺に届くことは無かった。何故なら、伝える前に■■は死んでしまったからだ。何で今ここに居るのかは知らないが、きっと、今なら聞ける。それが俺に出来ることなら、何があってもやり遂げてみせる。
だが、俺の意思と反比例するかのように、■■の体が光に包まれて消えていく。
『私の…願いは………』
「ッ!?■■!」
また、あのときと同じだ。願いを聞く、その直前に■■は完全に消えてしまった。
しかし、俺は諦めきれずに、それでも音にならないその名を呼ぼうとする。
「■■!■■!返事をしてくれ!■■!」
意識が朦朧とし、視界が暗くなっても尚、俺は叫び続けた。
「■■!■■!……………………」
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「鈴音!……あれ、ここは?」
辺りを見渡す。するとここが『輪廻の森』ではないことが分かった。
全体的に白い部屋、何かの石で出来た床、真下を見ると俺はベッドで寝ていた事が分かる。
ここまで来れば、俺でも分かる。さっきの出来事は、
「……夢かよ。クソッ」
俺は軽くベッドを殴り付けた。
そして、誰も居ないことを確認して呟く。
「教えてくれ、鈴音……お前の願いは、何なんだ?」
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「あ、ユウム君起きてたんだ」
「ユートか。ここはどこだ?」
暫くすると、ユートが部屋に入ってきた。
それなりに時間はあったので、夢のことに関しては今は落ち着いている。
「神殿の寝室だって。僕らもあのあと気絶したんだけど、ユウム君よりも早く起きてさ。今は皆さっきの広間に集まってる」
「そうか、ありがとう。じゃあ、行くか」
ということは、ユートたちもアレを喰らったのか。
額に手を当てる。アザなどは出来ていないようだ。全然痛くないし。
部屋から出て、ユートに着いていく。暫く歩くと、さっきの広間に出た。もう皆集まっている。
俺が来たことを確認すると、マリア様が四枚の紙を取り出して口を開いた。
『これで、皆さんは【スキル】を発現したはずです。この紙を体に貼り付ければ、自分の【スキル】が分かるので、調べて下さい』
マリア様がそう言うと、紙がこちらに向かってふわふわと飛んできた。
俺たちはそれをキャッチして、腕に貼り付ける。
そのあとユートたちにも見せ合ったので、ユート、エストレア、セティ、俺の順で紹介しようと思う。
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名前:ユート・ルーメント
スキル:【絶対斬り】
内容:自分が本気で「理不尽だ」と思った事象に対して自動で発動する。その斬撃は、ありとあらゆるものを切り裂くことが出来る。
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名前:エストレア・ワールウィンド
スキル:【絶魔砲】
内容:魔物や自分が嫌う存在に対しての魔法の力が上がる。相手がより強く、より嫌う魔物であればあるほど魔法の力が上がる。
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名前:セティ・セイクレッド
スキル:【慈愛の心】
内容:回復魔法の力が上がる。自分が■■■■に対して回復魔法を使った場合、さらに回復力が上がる。
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名前:青原遊夢
スキル:■■化
内容:変身型【スキル】。別の種族に自身の力を認めて貰ったり、何か衝撃的な体験をすることで、新しい力が手に入る。人間形態の【常人化】含め、現在三種類。
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さて、これで全員の【スキル】が判明した訳だが、色々と言いたいことはあるので、言わせてもらう。
「セティ。この伏せられてる文字は何なんだ?」
「···隠した···隠れてって思えば···隠れる」
………【スキル】の説明って隠すこと出来たんだ。でも何で隠したんだろうか?
俺がそれを聞く前に、エストレアが口を開いた。
「なんで隠したの?何か不都合な事でもあるのかしら?」
「······ある」
セティに質問をするエストレアの目は、疑問のそれだ。
確かに、【スキル】の名前が伏せられてる俺が言うことではないが、【スキル】の内容が伏せられてるというのは、何か変な事があるのだろうと勘繰ってしまうのも当然だ。
まぁ、セティからは悪意を感じられないから、本当にただ知られたくないだけなのかもしれないが。
何を言うべきか迷っているセティに助け船を出したのは、マリア様だった。
『その紙を通して、私が確認しました。大丈夫です。本当に彼女は言いたくないだけですから。それに、貴女たちに害になることはありませんよ』
「……そうなの?」
「······うん···恥ずかしい···から」
「……じゃあ、取り敢えず信じてあげるわ」
「···ん···ありがとう」
どうやらエストレアも取り敢えずは信じてくれるようだ。まぁ、「しょうがないわね」と言いたそうな顔だが。
セティは、今は安堵の表情を浮かべている。さっきまでは戸惑ったり赤面したりと表情がころころと変わってていたが。
セティへの話が終わったせいか、今度はユートが俺に質問してくる。
「伏せられてるっていえば、ユウム君の【スキル】もそうだよね。まぁ、名前が漢字なのも珍しいけどさ」
「あぁ、これか。いや、それが俺にも分からないんだ。残りの二種類も全然心当たりがないし。マリア様は、何か分かりますか?」
この説明を見ると、まず一つはこのままの【常人化】。ではあと二つは何だ?
全く心当たりがない。でも、マリア様なら何か知っているかもしれないので、聞いてみる。
その答えは………
『一応心当たりが無いこともないのですが、正直言って微妙です』
是とも否とも取れない微妙なものだった。