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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
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86話 大切な人だから

 村に着いてから二日目。

 俺たちは、ラックの言っていたことを理解した。


「疲れ、た」


 そもそも、俺たちがこの村に来た理由は、修業と実力把握の為。

 だから、紙を見せて「この魔物を狩ってこい」「この花を摘んでこい」という雑用もとい依頼が出されるのは当然のことだ。


 だが、行く先々で幾重もの罠に掛けられるとは思っていなかったので、予想以上に体が疲労を訴えている。

 罠の種類はそれなりに多かったが、致命的なものが無かったのが救いか。

 注意すれば見分けられる落とし穴、糸で吊り下げられていて遠心力で飛んでくる丸太、地面を踏めば網に捕らわれるトラップ、足下に仕掛けられたロープなどなど。


 注意して避けた───その先に、更に綿密に作られた罠なんかも多々あり、依頼よりも罠の方が余程悪辣だったと言っていい。


「お疲れさん、勇者どの。

 …これ、お茶だ。ティナ。エストレアとセティ、アグニに持っていってくれ」

「ありがとう、辰乃」

「分かった!」


 少し皮肉げに勇者と言ってくるのを無視して、お茶を受け取る。

 辰野からお茶を三つ受け取ったティナは、エストレアたちの方へ歩いていった。


 ちゃっかり持っている自分のお茶を飲みながら、何か思い付いたように辰乃が問いかけてくる。


「遊夢、ユート。お前たちって、どうして勇者なんてやってるんだ?」

「………?どうしたのさ、急に」


 本当に、何の前触れも無かったその質問に、俺の隣に座っているユートは辰野を見る。

 今、俺たち三人は旅館の縁側で座っているのだ。


「急っていうか、なんていうか。

 いや、ただ単に、お前たち見たいな若い奴が、神様を殺しに行くなんて変な話だなと」

「………言われてみれば、そうだね。普通なら、大人がこういうのはやるんだろうけどさ。

 実際、勇者になった後、他の冒険者たちに喧嘩申し込まれたし」

「ふーん。それで今ここに居るってことは、勝ったんだな?」


 少し懐かしい話をするユートに、辰乃は適当に相槌を打つ。


「まあね。それがきっかけでアグニさんが仲間になったから、一概に悪い出来事とは言えないかな」

「……意外だな。元々は敵同士だったのか、お前たち」

「敵って程でもないけどな。アグニはアグニで、他の冒険者に呆れてたし」


 その時のことを思い出しながら、俺も話に入っていく。

 エストレア一人相殺された、十人分の魔法。

 俺とユートに呆気なく倒された、複数人の冒険者。


 もしかしなくても、彼らは冒険者の中でも低い位置に居る人たちだったのかもしれないと、今になって思う。

 幾ら俺たちに【スキル】があったと言えど、あの人数相手に一方的な戦いが出来るとはあまり思えないからだ。


 そんなことを考えていると、辰乃から声が掛けられる。

 申し訳なさそうに、けれども真剣に、話を戻してきた


「………悪い、話を戻すぞ。

 お前らはどうして、勇者なんてものになったんだ?」


 冗談は許さない、という真剣さを瞳に込めて、問い掛けてくる。

 まるで龍義さんのような鋭い眼光に、真正面から即答したのは、ユートだった。


「頼まれたから、だよ。

 世界を救うって言われて、協力しないわけにはいかないでしょ?」

「俺は……ある神様と約束したからな。世界を救う───邪神を倒すっていう目標は前々から持ってたんだ。

 それがたまたま、王都に居る神様の目的と一致しただけ」

「………二人とも、頼まれたから乗ったんだな。

 因みにそれって、報酬とかあるのか?」


 理由を聞いた辰乃は、直ぐ様言葉を接ぐ。

 一体何の為に聞くのかは皆目見当がつかないが、別に黙るようなことじゃない。


 俺は素直に答えることにし、口を開いた。


「報酬は、願いを一つ叶えること、だそうだ。

 俺はある神様の甦生を願ってるけど、他の皆は保留」

「つまり───お前の神は、死んだのか?」

「ああ」


 何でもないように返事をする。


 この話をするのは、果たして何度目か。

 あんまり話していない気もするし、飽き飽きするほど話した気もする。

 俺にとってこの事実は、それだけ記憶にこびりついているし、常に考えることでもあるのだ。


 ………一瞬の沈黙の後、辰乃が口を開く。

 それは今までに聞いたことが無かった、確かな否定の言葉だった。


「遊夢。お前のその行動、間違ってるぞ」

「どういうことだ?」


 辰乃の言っていることが分からなくて───分かろうとしなくて、問い返す。


 辰乃の表情は変わらない。ただ無表情のまま、淡々と、「それは悪だ」と言っているように見える。


「あったことを無かったことには出来ない、死者は甦らない。こういうの、常識って言うんだろ?」

「それをどうにかするのが、神の報酬だ」

「それは知ってる。だけど、人を生き返らせるっていうのは、死の価値を下げることに繋がるだろ?

『神様の力で生き返らせられる』なんて思ってたら、人死にはこれまで以上に悪化する。そういうこと、考えたことがあるか?」


 辰乃の目は冷たいまま、俺が考えたことのない死の価値を問い掛けてくる。


 だから、俺もそれに対抗する為に。目を、閉じた。


「【廃人化】」


 思考を高速回転させる。

 青原遊夢としてではなく、人類としての視点に切り替えて、辰乃の言葉を復唱する。


 導き出された結論は、『辰乃は正しい』という事実のみ。

 彼の言うことは至極全うで、遊夢(オレ)が間違えているのでは無いかと思ってしまう程だ。


 次に青原遊夢の記憶を回想する。

 殆ど記憶の無い前世から、今この一瞬まで。


 ───人は死んだら、甦らない。


 こんなの、大昔から決まっている法則だ。

 前世では覆しようが無かったし、この世界でも、それをねじ曲げるのは困難を極める。


 でも、ならば。

 どうして遊夢オレは、それをねじ曲げようとしたのか。


 脳裏に浮かぶのは何時だって、血液いのちを顕すような紅い髪に、太陽のように綺麗な瞳。


「知ったことか」


 だから、こう返した。

【廃人化】はさっきの一瞬で解除した。今ここに居るのは、紛れもなく青原遊夢で、口から放たれるのは俺自身の意志だ。


「ん?」

「だから、そんなこと、俺の知ったことじゃない。死の価値が下がろうが、生を侮辱しようが。

 そんなことすらどうでもいいと感じるくらい、大切な人なんだよ、その神様は」


 口調は知らず乱暴に。

 まるで、狂夢に口だけ明け渡したみたいだ。けれど、それは違う。


「正解だとか間違いだとか、正義だの悪だのなんて、俺からすればどうだっていい。

 ただ、俺は俺が大事だと思う人を守るだけ、救うだけだ。それが悪だっていうのなら、勝手にそう思ってくれいい」


 意を決して告げた言葉に、辰乃は満足そうに目を瞑る。

 一秒後に目を開けて、やれやれといった具合に返事をしてきた。


「………そうか。ならいいよ。それだけ大切な人なら、仕方ない。

 俺だって、多分、そうするから。でも、覚えておいた方がいい。たった一人を救おうとするのは、救われない人からすれば悪だって。それに……死んだ人の頑張りとか、生きてきた人の苦悩とか、そういうのも台無しになるからさ」

「分かった。忠告ありがとう、辰乃」


 湯飲みを持って、立ち上がる。

 話は終わった。自分の望みがおかしいことだと指摘されたのは初めてだったが、お陰で真剣に、色々考えることが出来た。


 蔑ろにしてきた前世のこと、『輪廻の森』のこと、王都のこと、仲間のこと。

【廃人化】を使ってしまったせいで、えらく機械的な回想になってしまったから、今度は今の状態で、じっくり想いを馳せるのも良いだろう。


 それに、


狂夢(・・)

『お呼びと聞いて即参上。いやー、久々のシャバの空気は美味いねぇ』

「開口一番がそれかよ」


 久しぶりなのにいつも通りな狂夢に呆れつつ、湯飲みを台所に持っていく。

 後ろから辰乃が呼び掛けてきているが、今は歩きたい気分だ。このくらいは許して欲しい。


『で、何の用だ?』

「用なんか無い」


 俺が呼んで、お前が応えた。

 今ある事実として、それだけでいい。


『………なんだ、気付いたのか』

「ああ。………やっぱり、浮気とかは宜しくないよな」

『全くだ』


 付き合っている訳でもないから、厳密に言うと浮気ではないのだが、咎める者も居ないのでこのまま通す。

 俺の言葉に呆れた様子で賛同した狂夢は、それが当然であるかのように。


『久しぶりの表だ。ちょっと体貸してくれ』

「断る。お前、ろくなことしないだろ」


 ---------------


「何独り言言ってるんだろ、あいつ」


 そういうタツノ君の視線は、湯飲みを持ったユウム君に向いていた。

 彼は誰かと話すように、一人喋っている。


「久しぶりだね、あの光景」

「なに?今までもあったのか、ああいうの」

「まあね。かいつまんで説明すると、ユウム君は【狂人化】っていう人格を持ってて、会話することが出来るんだ。便宜上、僕らはキョウムって呼んでるけど」


【狂人化】という単語を聞いて、タツノ君の顔が少し強張る。


「二重人格って奴か。へぇ」

「そんな感じかな?

 ………あ、台所ってどこかな?これ持っていきたいんだけど」


 少しだけ笑うタツノ君に、台所の場所を聞く。

 すると彼は僕から湯飲みを取り上げて、ユウム君の方へ歩いていった。


「おい遊夢。湯飲み、渡せ。

 お前、台所どこか分かってるのか?」

「………あ」


 どうやら、ユウム君は分かっていなかったらしい。

 その反応を見たタツノ君は、あからさまに呆れたながら湯飲みを取り上げ、歩いていった。


「さて、それじゃあ」


 折角なので、村を見て回るとしよう。

 そう思い付いた僕は、ユウム君も誘おうと彼に向かっていった。

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