表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
85/125

84話 因縁の爺?

 二日後。

 迎えに来たリエイトに連れられて王都から出ると、そこには一台の馬車があった。


 何時ものごとく、ライドさんが連れていってくれるのだろう。

 そう思いながら馬の騎手を見ると、やはり見覚えのある顔があって───。


「久しぶりだな、ユウム」

「お久しぶりです、ライ……ラック!?」


 気さくに手を上げて挨拶してきたラックに、思わず悲鳴のような声を上げてしまった。

 俺の声を聞いて、ようやくユートたちは気が付いたのだろう。


 皆が皆、ラックを指差して驚いたように目を見開いた。


「え、ラックさ…ええ!?」

「ライドじゃないの!?というか、なんでアンタがここに居んのよ!」

「···ラック、馬に、乗れたの?」

「何言ってるんだ。馬くらい誰でも乗れるだろ?なぁ、アグニ」

「いや、私は乗れるけどさ…。誰でも乗れるっていうのは流石におかしいんじゃないかな?」


 一気に場の空気を独占したラックを見て、リエイトが小さく笑う。

 どうやらこの展開は予想済みだったらしい。


「あ、案の定こうなったね。

 ……因みに、ライドが居ない理由は簡単だよ。

『危ないから』。この一言に尽きるんだ」

「そういう訳だ。馬乗りとしてはライドの方が上だが、巻き込まれて死んだら意味がない」


 リエイトの言葉に反応しながら、ラックは馬の頭を撫でる。

 馬は抵抗しなかったものの、ライドさんがやっていた時のように上機嫌という訳でもなかった。


「運転は幾分荒いだろうが、我慢してくれ。

 流石に、命には換えられないからな」


 ---------------


 ラックが引く馬車は彼の宣言通り、ライドさんのものと比べて幾分か荒かった。

 馬がどのような状態なのかは分からないが、車に乗っている俺たちの下に揺れがよく来るのだ。


 しかし、それにも慣れた。

 慣れてしまえばどうってことなく、皆と他愛ない話をしたり、眠ったりして時間を潰すことが出来る。


 それをすること、約5日後。

 ある山の入口で、俺たちは馬車を降りた。


「登っていくぞ。ここの魔物は───多分、この国で一番強い連中が集まっている。

 魔族に比べると少し劣るがな」


 馬車の前にアグニ、右に俺、左にユート、後にセティとエストレアが立つ。

 鬼の村に行くときもやった、あのポジションだ。


 幾らここの魔物が危険だとは言っても、馬車を置いていく訳にはいかないだろう。

 その為、必然的にラックは馬に乗り、本人の機動力は殺されている。


「お手並み拝見って奴だな。どれだけ変わったか、見せてくれ」

「言われなくても。武器も、それを扱う自分も。かなり強くなったぞ、俺たちは」


 ラックの軽口に返事をしたその瞬間、四方から魔物が飛び出してきた。


 蛇に羽が生えたような奇っ怪な形をしたその魔物たちは、目の前に居る俺たちに向かい、火を出しながら飛びかかってくる。


 それは、あの山のゴブリンよりもかなり素早く。もしかすると、『輪廻の森』の猪の突進力に次いで、かなりの突進力を有していたのかもしれない。


 しかし、


「たぁっ!」


 突進力があるということは、正面以外での力はそこまで多くはないことも表している。

 ユートに向かっていった魔物は、普通に叩き付けられるように斬られ、そのまま絶命。


 アグニは目眩まし代わりに魔法を放ち、魔物が怯んだ瞬間に【狩人の誇り】を起動し急接近。

 魔物の頭を短剣で突き刺してから、そのまま縦に切断した。


 エストレアは風の魔法を起動して、辺りの木ごと魔物の破砕し、吹き飛ばす。


「【妖人化】」


 そして俺は、【妖人化】を起動しながら常世刃を弓に作り替え、《金の矢(メタルアロー)》を事象具現で発動し、つがえる。


 それでも迫ってくる、蛇の魔物。

 口から漏れているのが火の魔法だけでなく、涎もあることを鑑みると、こいつは尋常ではないくらいに腹を空かし、耐えきれなかったことを察することが出来る。


 しかし、そんなことは知ったことではない。

 俺は狙いを定めてから、容赦なく手を放した。


 俺の手を離れた矢は、抵抗を無視したかのように魔物の口に入り込み、貫いていく。


「…かなり上達しているな、お前たち」


 魔物を貫通した矢が消えるのを確認してから、【常人化】を起動。

 常世刃の形を剣に戻す。


 一連の攻撃を見たラックは嬉しそうにそう言ってから、ゆっくりと馬車を進めた。


 ---------------


龍義(リュウギ)様。客人が来られました」

「客?例の、勇者を名乗る者共か」

「ええ。リエイト、という神の名を挙げております」


 清潔感漂う畳と、埃一つない襖。

 置物どころか掛け軸一つ無い、無味乾燥なその部屋で、一組の男女が話をしていた。


「ふむ…。辰乃(タツノ)は居るか?」


 龍義と呼ばれた初老の男性は、蛇が比較にならない程の眼光を宿しながら、傍に座っている女性に問いかける。

 彼女は慣れているのか。鋭い眼光を受け流しながら、まだ年若いであろう女性は、龍義の問いに答えた。


「はい、辰乃様はずっと、ティナ様に掛かりっきりですから」

「それはそれは。余程あの娘を気に掛けておるようじゃ。善きかな善きかな。しかし、それだと客人の案内は無理かの。

 ……仕方あるまい。儂が行こう」


 そう言ってから、龍義は立ち上がった。

 刺々しい緑の髪に、血のように黒赤い双眼。

 老体ながらも衰えていないしなやかな筋肉に、激しく自己主張している緑の顎髭。


 そして何より目立つ、緑の鱗に覆われた右腕。


「『アザーファル』、と言っておったか。精々、その手並みを見せて貰うとしようか」


 老人はギラついた笑みを浮かべながら、部屋を後にした。


 ---------------


「───下がってろ」


 集落の前にある、関所。

 そこに居る門番に止められ、俺たちは許可が降りるのを待っていたのだが、急にラックが小さく、そう警告をして前に出た。


 何のことは分からないまま、馬の制御をアグニに頼む。

 そして得物に手を掛けて【獣人化】を起動。両手に鉤爪をセットして、周囲に意識を張り巡らした。


 同時に前方から感じ取る、強大な殺意。


 俺が《電光石火》を起動し、腰を深く落とすのと、ラックが動き出すのは殆ど同時だった。

 それはつまり、ラックが一人で、殺意の元に飛び出したこととなる。


「な、貴様、押し通るとは何ご───!?」

「なにやってるんだ、ラッ───?」


 門番と二人でそれを止めようとしたが、もう遅い。

 殺意を発している存在は、俺たちの直ぐ傍まで近付いていて……。


 何の迷いなく、ラックへ向けて突撃したのだ。

 その生物───人間らしき男性の一撃を短剣で難なく受け止めたラックは、彼にしては珍しく鬱陶しげに吐き捨てた。


「ったく、まだ生きてんのか、ジジィが!」

「───ハ、言うようになったのぉ、小僧が!

 久し振りの客かと思えば、よもや貴様が勇者に…な、ど?」


 それに同調するように、叫び散らす初老の男性。

 彼は言葉を続けようとし、漸く俺たちに気が付いたのか。俺たちを見て、首を傾げた。


「……ぬ、これはどういうことじゃ?」

「どういうことも何も。勇者はこいつらだよ、リュウギ爺」


 説明を求める老人に、呆れながら説明していくラック。


 理解に時間を要しているのか、暫くの間固まる男性。

 そして数秒後、男性はニヤつきながら、俺たちに頭を下げた。


「これは失礼したの。儂は翡翠滝(ヒスイダキ)龍義(リュウギ)じゃ。

 お主たちの神から話は聞いておったが───まさか、倅と同年代とは思わなんだわい」

「初めまして。『アザーファル』のリーダーを務めている、青原遊夢です」


 俺も同じように頭を下げて、自己紹介する。

 すると龍義さんは笑いながら、俺の手を取った。


「おお、その名前。もしや漢字を使う名か?鬼以外じゃ見たことないわ!面白い者もいるものじゃのう!」

「え、あ、はい。ありがとうございます?」


 そのまま腕をブンブンと振る龍義さん。

 勢いが強すぎて軽く悲鳴を上げているのだが、彼はそんなこと、お構い無しらしい。


 そして、ユートたちも自己紹介した後、ラックが口を開いた。

 龍義さんに恨みでもあるというのか、その口調は少し刺々しい。


「それじゃあ村に入れてくれ。ついでに、倅とやらも紹介しろ」

「言われんでも分かっとるわい。

 …それじゃあ勇者たちよ。着いてこい。お主らの寝床と、同年代の倅を紹介しよう」


 妙にニヤつきながら、龍義さんは俺たちに背を向ける。

 それを見計らったように、ラックが俺たちに小声でこう伝えてきた。


「皆、明日以降は油断するなよ。あのジジィ、何を仕掛けてくるか分かったもんじゃないからな。

 毒物や倒壊以外の罠には、概ね気を遣え」

「───え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ