7話 三人の願いと【スキル】
マリア様がユートたちに話したのは、俺に話したのと同じ内容だった。
目的は邪神の討伐であること。神は邪神を倒せないこととその理由。報酬のこと。
まぁそんな感じだ。今、願いを聞くために、マリア様が口を開く。
『それで、貴方たちの願いを言って貰えますか?』
「えっと、マリアさん。参考までにユウム君の願いを教えて欲しいんですが……良いですか?」
『……………』
ユートが質問する。どんな願いにするべきか考えてるのだろうか?
マリア様が俺を見る。言っても良いか、ということか。
別に言われても構わないのだが、出来れば自分で言いたい。
だから俺は、小さく頷いて、ユートに話し掛ける。
「じゃあ、俺が自分で言う。俺の願いは、とある神の蘇生だ。少なくとも、俺が調べた限りでは、死者を生き返らせることは人間には出来ないからな」
名前は出さなかったが、まぁ別に問題ないだろう。
別に今「環司鈴音という神の情報」を流しても、意味なんて無いしな。
………なんとなく、ポケットから鈴を取り出す。相変わらず青の鈴は俺の魔力を帯びて、淡く光っているが、赤の鈴は色が錆びによってところどころが茶色くなっている。
……そう、この鈴の状態こそが、鈴音がこの世界に居ないことを表している。
もし、鈴音がまだ生きていたとしたら、この鈴はきっと美しい赤の光を放っていることだろう。
「ユウム···それ···大切なもの?」
「あぁ、大切なものだな。俺の大切な………って、何でもない。忘れてくれ」
気が付いたらセティが話し掛けてきていた。余計なことを話しそうだったので、内心慌てて撤回する。
………集中って恐ろしいな。
改めてセティを見ると、セティの視線は俺の手の上にある鈴に向いていた。
「これ、気になるか?」
「うん···この青いの···きれい」
「そうか。本当なら、この赤い鈴も綺麗に光ってる筈なんだけどな」
眺めていると、また別の方向に思考が飛んでしまいそうだったので、鈴をポケットに仕舞う。
「あ·········」
「ごめんな。また今度見せてやるから」
セティが残念そうな顔をしたので、謝る。
そのあと周りを見ると、皆がこちらを見ていた。
なんのことか分からず、戸惑っていると、ユートが声を掛けてきた。
「あ、ユウム君。やっと気が付いた。さっきからずっとその鈴見てるからさ。声かけにくくてね」
「あー、ごめん。それで、願いはどうなったんだ?」
俺はそんなに長い間鈴を眺めていたのか………。
そんなつもりは無かったのだが、セティ以外は全員呆れているようだ。
因みにセティは今は無表情である。
誤魔化すように俺はユートに質問する。
すると何故かユートではなくエストレアが答えを返してきた。
「ユートもアタシもセティも、思いつかないって答えたわよ。それに、邪神討伐してから考えても良いみたいだし」
「まぁ、そういうことだよ。ユウム君。僕たちは、君みたいに大きな願いを持っていないから」
どうやら全員後回しにしたらしい。まぁ強制はされてないし、それでもいいと思うが。
これで、話は終わりの筈だ。なので、次はどうすればいいか聞くことにする。
「マリア様。これで話は終わりですよね?だったら、このあとはどうしたら良いですか?」
俺としてはユートたちと直ぐに邪神討伐に行きたいが、それは無理だろう。
準備も相談も無しに運命すら定めてしまった神に挑むとか自殺行為だし。
というわけで、俺は「冒険者ギルド的な場所に登録して、修行する」という予想をしてみる。
………まぁ、意味は無いけど。
『そうですね………では、一人ずつ私の前に来てください。【スキル】の発現を行うので』
「マリアさん。【スキル】って何ですか?」
聞き慣れない言葉を聞いた。【スキル】?少なくとも俺はそんな物は知らないな。
と思っていたら、ユートが質問していた。エストレアは訳が分からないという顔をしているし、セティは僅かに首を傾げている。どうやら人間たちの間では【スキル】という存在は普遍的では無いらしい。
『【スキル】とは、言わば個人の内に秘められた潜在能力です。少なくとも普通の修練では習得することはまず不可能なので、魔法や体術などと区別をつけて【スキル】と呼んでいます』
「因みに俺のは【危機察知】で、ウォールのは【ジャストカウンター】だな。俺の【スキル】は常時展開されているが、ウォールの【スキル】は任意で発動させる類だ」
マリア様が概要を言って、ラックさんが補足してくれた。
つまり、【スキル】はそいつだけの固有能力ってことか。でも、誰かと被ることはありそうだな。
では、質問するとしよう。
「マリア様。邪神の【神殺し】は【スキル】なのですか?」
『はい、そうです』
「【スキル】を二つ以上持つことは出来ますか?」
『出来ますね。ですが、それはその個体が二つ以上の【スキル】を宿していた場合のみです。後天的に得ることは出来ません』
「【スキル】にはどのような物があるのですか?」
『大きく分けて三種類ですね。即ち、常時発動型、任意発動型、自動発動型です。因みに常時発動型でも自分の意思で【スキル】を使わなくすることは出来ますよ。更に細かく分けると、攻撃型、防御型、回復型、強化型、察知型、変身型など色々あります。ラックの【危機察知】は常時発動察知型、ウォールの【ジャストカウンター】は任意発動防御型ですね』
「分かりました。ありがとうございます。じゃあ俺から………」
【スキル】についての疑問は無くなったので、俺は歩いてマリア様の前に行く。
手を伸ばせば届くぐらいの距離まで近づくと、マリア様が口を開いた。
「結構衝撃が来るので、気を付けて下さいね」
「え?」
そう言って、右手人差し指を俺の額に当てて………
声を発する間もなく、俺は吹き飛ばされて気絶した。