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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
77/125

76話 銘

 俺たちが広場に出てから数分後。

 錬姫さんが、如何にも重そうな木箱を抱えてやって来た。


 俺たちの前まで歩いて来ると、乱暴に木箱を地面に放り出した。

 鈍い音を発てて地面に落ちたその箱は、それ自体が凶器になりそうな程重くて硬いらしい。


 箱を落としたことで少なからず驚いている俺たちを尻目に、錬姫さんは淡々と、箱を開封した。


 その中に入っていたのは、幾重の布に包まれた何か。

 さっきの話からすると中身は武器だと察しがつく。しかし、外見だけでは武器と分からない程、それらは厳重に保護されていた。

 これなら、さっき箱を落としたことも頷ける。異常なまでにぐるぐる巻きになっているのだから、この程度の衝撃は問題ないと思ったのだろう。


「……よし」


 一体何を確認したのか。

 小さくガッツポーズを取った錬姫さんは、布で巻かれている武器を取り出した。

 俺から見れば見分けが分からないそれらを素早く仕分け、俺たちに配っていく。


 彼女から武器を受け取ったが、布が厚すぎるのか中身の感触がさっぱり分からない。

 それは皆も同じようで、首を傾げたり布の質感を楽しんだりしていた。


「それじゃあ開けてくれ。布が剥げないなら、破ったり燃やしたりしてもいい」


 指示に従って、布の包装を外していく。

 かなりの布が下に落ちていくが、そんなことは今更というものだ。



 ───そして、それらは姿を現した。



「っ!?」


 布を外し、武器の全体像を把握した瞬間に、言い様のない感覚を覚える。

 それは皆も同じなのか。エストレアに至っては、何歩か後ずさっていた。

 武器を持ったまま後ずさっているので、意味なんて無いのだが、それはそれだ。


「それじゃ、説明を再開するよ。さしあたっては、その神器の仕掛けをね」


 それが思いの外面白かったのか。

 けらけら笑う錬姫さんは、その話を始めた。


「アタイの【スキル】は三つある。これは覚えてるね?【鑑識】と【概念憑依】、【異能模倣】だ」


 指を折り曲げながら、錬姫さんが彼女の【スキル】について確認する。


「【鑑識】は視る力だ。火加減や打ち加減なんかを見たり、使い手の技量に合った武器を作ったりするために使ってる。アタイが一流の鍛冶屋で居られるのは、コレの恩恵だね。

 【概念憑依】は移す力。宝石に魔法を込めて爆発させたりするのが主な使い方らしいけど…アタイはこれを鍛冶に使うことにした。杖なんかに魔法を込めて、魔力を通すだけで魔法を使えるようにしたのさ。───まぁ、王都には似たような物があるらしいがねぇ」


 錬姫さんの説明を聞きながら、王都の家にある蛇口やクーラーボックスなんかを思い出す。

 言われてみれば、アレだって不思議なアイテムだ。


 魔力を込めるだけで魔法を発動出来る。

 つまり、イメージする過程が必要無いのであれば、自分とは合わない魔法も自由に使えるというのに。


「───ここまでなら、苦労すれば一部の奴らにはやれる。【鑑識】での鍛冶は普通のプロにも再現出来るかもしれないし、魔法を込めるだけなら、どっかの大魔術師が出来ただろうね。でも、それじゃあ足りない」


 受け取った武器に視線を落とす。

 武器から放たれる気配は、明らかに魔法なんてものを超えていた。


 荒々しさ、静けさ、狂おしさ、冷徹さ、豪快さ。


 どこかで感じた事のある気配たちが、同時に渦巻いている。

 明らかにおかしい。こんなもの、武器が放っていい気配ではない。


 それらはまるで呪いのように、俺を取り込まんと───。


「だから、その為の【異能模倣】さ」


 錬姫さんの声が、一気に俺の意識を現実に引き戻す。

 もう一度武器に視線をやるが、あの変な気配は鎮まっていた。


「エストレアとアグニは見ているだろうけど、【異能模倣】は【スキル】とかの写し取りだ。これを使うことで、二つの利点が生まれる。遊夢、分かるかい?」

「え、ええと…」


 恐らく、一つは【スキル】を武器に込められることだろう。

 俺の【■■化】はどうなるか想像出来ないが、セティにアグニ、エストレアの武器がどうなるかは大体想像がつく。


 要は、能力が上がるのだ。

 セティの【慈愛の心】が武器にも宿り、更に回復力が高まる。アグニの【狩人の誇り】では、恐らく切れ味が上がる。エストレアの【絶魔砲】では、更に威力が上がる。


 …だが、二つ目がどうしても分からない。

 俺が咄嗟に思い付いた利点はそれだけであり、他には何も無かった。


 それに、こんなことで【廃人化】なんか使ってられない。


「一つは、【スキル】を武器に込められること、だと思います。けど、もう一つについては…」

「ま、そんなとこだろうね。仕方無いさ。…もう一つの利点は、この【スキル】が写し取り(コピー)だってことだ。それはつまり、大本の【スキル】を失わずに、武器へ【スキル】を入れられるってことだよ」


 聞いて、ハッとする。


 先程自然に考えられていたことではあるが、錬姫さんの【スキル】を使うことで、俺たちが持っている【スキル】を重ねがけすることが出来るのだ。

 それは、強化魔法重ねがけなんか比較にならない程強力となる。


 言ってしまえば、そのキャラクターの許された力(固有スキル)の効果を二倍にしたり、他キャラクターにもその恩恵を与えられるということなのだ。

 しかも、それによるデメリット。例えば、基礎能力の低下や【スキル】の消失等が存在しない。


 確かに、それは誰にも出来ない事であり、最大のメリットだろう。


 それを理解した俺たちは、全員が息を飲んだ。


「…いやぁ、理論上出来ると分かってたんだけど、やるとなると勝手が違うねぇ。何度も失敗したよ」

「質問、良いかしら?」

「なんだい、エストレア」


 その中で、エストレアだけが真っ先に手を挙げる。

 錬姫さんはそれに感心しながら、手でエストレアの質問を促した。


「まず一つ。武器に込められた【スキル】は、全部自分自身のモノなの?」

「ああ、エストレアの武器には【絶魔砲】っていうふうに、武器にはアンタらが慣れ親しんだ【スキル】が入ってる。残念ながら、この村で【スキル】を持ってるのはアタイだけだし、そもそも他人の【スキル】だとアンタたち用に武器を創れなかった。ユートの【スキル】は使い勝手が悪いから、アタイの【鑑識】でも入れようとしたんだけどね。見事に失敗さ」


 ユートから呻き声が聞こえてきた気がしたが、無視する。

 確かに、理不尽がある時にしか斬れない【絶対斬り】は使い勝手が悪いモノだが、俺たちが殺そうとしているのは運命を定めた邪神だ。

 アイツと戦う時には理不尽が付きまとうだろうから、ユートの能力は必要不可欠だろう。


「分かったわ、ありがと。もう一つの質問だけど…この武器、銘はあるの?」

「はっ!?…あ、何でもないです」


 エストレアの質問を聞いて、目を見開く。

 相変わらずゲーム脳というかなんというか。武器の銘という言葉に反応してしまって、少し恥ずかしい。


 錬姫さんは、エストレアの質問を待ち望んでいたかのように笑う。

 そして、心底嬉しそうに───。


「ああ、あるさ。彫っては無いから、変えたければ変えていいけどねぇ」


 ---------------


 そう言ってから、錬姫はエストレアの前に立った。


「その武器の名前は“神杖ゲイルジャッジ”。安直だけど、暴風の裁きだ。魔物を殺す【絶魔砲】とその担い手であるエストレアには相応しいだろう?」

「アタシが裁く、ねぇ。実感はないけど、貰っておくわ。ありがと、レンキ」


 笑みを浮かべながら、エストレアが強く神杖を握りしめる。

 それを確認してから、今度はユートの前に立った。


「それの名前は“聖剣ヴォーパルキラー”、必殺殺しだ」

「必殺、殺し?」


 いまいちピンと来ていないユートは、言われた事をそのまま復唱する。

 何を思ったか苦笑いした錬姫は、その名前の捕捉を始めた。


「アンタにぴったりの銘だよ。ユートの能力は、「必ず殺す」をねじ曲げる【スキル】だ。これ以上合ってる名は無いさ」

「そう、なのかな?…とにかく、ありがとう。錬姫さん」


 それを聞き届けてから、今度はアグニの下へ。

 アグニはそれを待ちわびていたのか、少しワクワクしているようだった。


「アグニの短剣の名は、“魔剣ブレイフォーズ”だ。本来なら炎の力、だけど、今回は力を燃やすって意味で捉えて欲しいねぇ」

「うん、いい名前だよ。ありがとね、レンキ」


 内心では、自分も神剣とか聖剣なんて名前がよかったと思うアグニだったが、自分の【スキル】を考え、直ぐに諦めた。

 体力を喰って能力を上げる【スキル】なんて、間違っても聖剣の類ではない。


「セティの杖は、“聖杖アマテラス”。天を照らす、つまり太陽だね」

「···ありがとう。···大事に、する」


 少し仰々しい名前が照れ臭いのか。

 セティはそっぽを向きながら、それでも錬姫に礼を言った。


 そして、最後に錬姫は遊夢の前に来る。

 二人は少しの間見つめ合って、先に錬姫が、その事実を告げた。


「まず始めに。遊夢の持ってるそれは剣じゃない」

「え?」


 予想だにしていなかった指摘に思わず、聞き返す。

 それを聞き届けたのか、それとも先程までと同じ説明か。

 錬姫は、その武器の名前を告げた。


「遊夢の武器の名前は、“霊器常世刃(トコヨノジン)”だ。その武器を持って、【スキル】を起動してくれたら分かる」


 常世刃、と木の棒で地面に書き記してから、遊夢に【スキル】の起動を促す。


 遊夢は錬姫の言うことを理解しようとしないまま、言われるがままに、【■■化】を起動した。

【スキル】解説


【鑑識】

モノの力を視る力。モノに宿る力だけではなく、物を扱う為に必要な力加減や、者の技量なども推し測ることが出来る。

【スキル】を視ることも可能であり、使用者の技量が高ければその【スキル】所持者よりも深く【スキル】を理解することも出来る。


要錬姫はこの【スキル】を、鍛冶職人の技術として利用した。


【概念憑依】

魔法や呪い、【スキル】を、それらが宿っていない物に移し変える【スキル】。

移す能力であり、写す能力ではないため、【概念憑依】使用後、大元の能力は失われる。


要錬姫はこの【スキル】を、武器に加護をかけるために利用した。


【異能模倣】

【スキル】をコピーする【スキル】であり、一度に模倣出来るのは一つまで。

コピーした能力は自力で解くか、上書きするか、一時間経過すると消滅する。


要錬姫はこの【スキル】を、戦闘のために使っていたが、今回は神器創造のために利用した。

【鑑識】と合わせることで、血液などからも【スキル】を読み込み、模倣することが可能となっている。


用語解説

○器...何らかの加護を受けた武具の総称。「神」なら人を超えた創造、破壊を生み出せるモノ。「聖」なら英雄に匹敵する力を出せるモノ。「魔」なら怪物に匹敵する力を出せるモノ、もしくは何らかのマイナス要素が付きまとうモノ。

「霊」はそれらに分類されない、もしくは全てに分類されるであろうモノを指す。

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