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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
76/125

75話 説明

「あー、アホらし」


 小屋から屋敷に戻っている途中。

 今まで悩んでいたことが急に馬鹿らしくなったのか、遊夢は思わずそう呟いた。


 木々の間を抜けてから、太陽の眩しさに目を細める。

 丁度雲の切れ目から顔を覗かせていたらしく、その光は直ぐに陰っていったのだが。


『いやはや、お恥ずかしい限りで。俺としたことがこんな簡単なことに気付かないなんてな』

「本当だ。ユートには感謝してもしきれない」

『…ま、俺としてはまだまだ致命傷だけどね。暫く眠らせて貰うわ』


 何でもないようにそう言って、狂夢の気配が薄れていく。

 それが本当に自然な発言だったせいで、遊夢はその言葉をスルーしてしまう。


 彼自身、さっきまで悩んでいたのもあって余裕が無い。

 そう言った意味では、狂夢の発言を聞き流してしまうのも当然といえた。


 だからこそ、分からなかった。


 屋敷に着くまでの間、いつも騒がしい彼が一言も話さなかったという事実が。


 ---------------


「正座!」

「「……」」


 玄関に待ち受けていたのは、当然ながらエストレアだった。

 もう学習済みなのか、二人は何も言わずに座り込む。


『アザーファル』のリーダーは遊夢ではあるが、発言力が最も大きいのはエストレアである。


「それで、二人でどこほっつき歩いてたのかしら?」

「ちょっと村外れの小屋まで…」

「何しに?」

「悩み事の相談を。俺がユートを連れ出した…と、思う」


 狂夢が残した書き置きを見せつけるエストレアではあったが、生憎遊夢にそれを書いた記憶は無い。

 遊夢が狂夢に身体を受け渡した時、眠りに入っていたのだ。

 そのせいで、最後の言葉が消えそうな程小さい音となったのだが、エストレアがそんな事情を考慮してくれる筈もない。


「最後、何を言ったの?」

「…色々あって、その時俺は眠ってて、代わりに狂夢が出てきてたんだ。と言うわけで、説明はユートがしてくれ」

「え、僕!?」


 あっさり事情を話した遊夢は、その一切をユートに丸投げした。

 褒められたことでは無いし、頑張れば予想くらいはつく筈だが、それを指摘する者はこの場に居ない。


 ユートもどこからどこまで話せば良いか分からず、小屋での出来事を話すのにそれなりの時間を要した。


「えっと、どこからどう話せばいいか分からないというか」

「…まぁ、もし話しにくいことなら誤魔化してもいいけど。わざわざユート(男子)を連れ出すってことは、アタシたちに言えない類のものかもしれないし」


 エストレアも、理由無しに遊夢たちがこんなことをするとは思っていない。

 然るべき理由はあるのだろうが、それはそれこれはこれ。


 こちらの用件も大事なものであるために、怒らないという選択肢も存在しない。


「端的に言えば、お悩み相談だよ。朝、顔を合わせた時にユウム君の調子が悪そうだったから、何があったか聞いたんだ。そしたら色々あって、誰も居ない場所に移動して、話をして終わった。それだけだよ」

「…。ユウムが何を思い詰めてたのかも気になるけど、それは置いておくわ」


 ユートから聞き始めたとは言っても、遊夢は悩みを打ち明けたのだ。


 ───アカツキの時よりはマシってことにしましょうか。


 そう判断して、エストレアは遊夢に一つだけ訊ねることにした。

 場合によっては、さっきの言葉を撤回し、どんな悩みを抱えているのか白状させるつもりで。


「ユウム」

「なんだ」

「悩みは解決した?」

「…少なくとも、話す前よりは。これ以上は俺が解決しなきゃならない所だから、仕方ない」


 煮え切らない答えを返してきた遊夢はしかし、どこか晴れやかな顔をしていた。

 言っていることはこの前と同じだが、その表情に免じて、これ以上の追及は止めることにする。


 この話はこれで終わりと自己完結して、エストレアは遊夢たちに手を差し伸べた。


「それじゃ、そろそろ行きましょう。レンキやセティたちが待ってるわ」


 ---------------


「···ユウム」

「ああ、おはようセティ」


 居間に入って最初に、セティと目が合った。

 俺の不調をどこかで悟られたのか、彼女の瞳はどこか不安げだ。


 だから、心配ないと伝える為に、笑顔を浮かべて挨拶した。


「······」

「どうした?」


 すると、今度は驚いたように俺を見てきた。

 一体俺の何が変だったのか。もしかすると、笑顔の形が歪なものになってしまったのかもしれない。


「···あ。なんでも、ない。───おはよう、ユウム」


 顔の前で手を振ってやると、直ぐに意識が戻ったらしい。

 一呼吸置いてから、笑顔で挨拶してくれた。


 それを可愛らしいと思ってしまうことで、若干自虐的な気持ちにもなってしまうのだが、それは仕方のないことだと割りきる。

 簡単に出来ることでもないのだが、その内慣れるだろう。


「錬姫さん」

「なんだい?」


 お馴染みの酒器を手に持った錬姫さんに頭を下げる。

 本人は全くと言っていい程いつも通りだが、大事な話をすっぽかしたのだ。


「あー。すっぽかして済みませんでした」

「気にしなくていいよ。何か理由があってのことだろう?」

「…はい」

「なら良いって。アンタたちはまだ若いんだから、アタイたち大人に迷惑掛けてナンボだ。…ああ、それも計算に入れて動くガキは嫌いだけどね。いけ好かない」


 酒器にお酒を入れながら、けらけら笑う。

 最後の言葉は少し不穏な空気を感じさせられたが、多分大丈夫だろう。


 そうこうしている間に、居間に全員が集まった。

 遅れて居間に入ってきたのは、ユートとエストレア、アグニと玄鬼さん。

 元々居たのが俺とセティ、錬姫さんだから、今この居間には七人集まっていることになる。


「…全員集まったね。それじゃあ、始めようか」


 話の始まりを告げる合図は、酒器を机に叩きつける音だった。


 ---------------


「まずはじめに。アンタたちに集まって貰ったのは他でもない、武器が完成したからだ。それは玄鬼から聞いてるね?」


 錬姫の確認に、全員が頷く。

 それは朝一番に、部屋の前で玄鬼に伝えられたことだ。

 それを聞いて驚いた者、感心した者、悩んでいた者が居たが、その出来事は別の話だ。


「よし、それじゃあまず、武器の説明をしようか」

「説明?」


 本来ならここでは不適切だと思える言葉に、ユートが首を傾げる。

 それも当然といえるだろう。


 今ここに居るのは、それぞれの武器の特性を理解している者たちだ。

 確かに、それぞれの分野の達人には及ばないだろうが、それでも他人から武器のレクチャーを受けるほど初心者でもない。


 そうユート、あるいは『アザーファル』の面々は思っていたのだが、それは的外れである。

 彼らが倒すべき相手は、運命の加護を受けた邪神。


 間違っても、普通の範疇にある武器で殺しきれる相手ではないのだから。


「ああ、説明と言っても普通の説明じゃない。というか、普通の武器なら玄鬼が作るもので充分だよ」


 全くもってその通りだ、と玄鬼が頷く。

 錬姫には及ばないものの、玄鬼も立派な武器職人だ。

 もし普通の武器で問題無いのであれば、そもここに訪れる意味はない。


 ここへ来たのは、常識から外れた武器を創るためなのだ。

 運命を打ち破るには、【スキル】の解放では事足りない。

【スキル】の存在は一般的な物ではないものの、それでも世界のルールとして普通に存在している。


 だから、もう一段階上の非常識を用意してやっと対等(・・)だ。


 その為の武器が、説明と理解無しで扱える程簡単な訳はない。


「だからこそこの武器は例外なんだ。わざわざあのレベルの神様が、アタイに頼みに来るくらいの事態だろう?その為に創った武器。下手すると───武器が暴走して担い手が死ぬよ?」


 あのレベルの神様と聞き、遊夢にはリエイト、他の皆にはマリアが脳裏に浮かぶ。

 正解は前者なのだが、それは知らなくてもいいことだろう。


「武器が、暴走…!?」

「多分だけどね。あんなことやったのはアレが初めてでねぇ。正直、原型留めてるのが驚きというか。何度も失敗して死にかけたというか。武器作ってて死ぬなんて笑い話だね」


 なんて事を言いながら、あはははははと大声で笑う錬姫。

 エストレアは若干釣られ笑いしているが、他の面子は苦笑いである。

 実際に「失敗作」を見た玄鬼としては、笑うことすら出来ずに冷や汗をかいていた。


 ───いや、笑い話な訳無いだろう。普通に死ぬぞ、アレは。


 暫く笑い続け、落ち着いてきた錬姫は、説明を続けた。


「…まぁ、壊れた武器から斬撃が飛んできたり、魔弾が飛ばされたり。なんかハイになると同時にアタイの耳に犬耳が生えたりしたことは置いといてだ」

「何があったんですか…」

「置・い・と・い・て、だ。

 …武器の分類だけど、アレは間違いなく神器の部類だね。神話とかで神様や英雄が使ってても違和感が無い。それで言うならユートとエストレアは英雄、セティは聖女。遊夢は───化物?」


 先程まで釣られ笑いしていたエストレアが、遂に吹き出した。

 同時に遊夢が頭を押さえて天井を仰ぐが、錬姫はお構い無しに話を続ける。


 ユートは少しそわそわしていて、セティは聖女という単語に少し反応していた。


「神器の特徴は、何を言おうとその能力にある。アタイは昔話には疎い方だけど、“投げれば必中する槍”、“壊れない鎚”なんかがメジャーかい?それらは恐らく架空の存在だけど、似たようなものを創れたんだよ。だから、神の器を名乗るに相応しいと判断したんだ」


 遊夢は「グングニル」と「ミョルニル」を思い浮かべたのだが、こちらの世界では神話はあまり広まっていないのか。

 ユートたちは考えることを放棄したように、ぼうっとしている。


 その反応を見た錬姫は、少し困ったように頭を掻く。

 自分なりに分かりやすく解説したつもりだったが、例えの元が分からないのであればどうしようもない。


「───まぁいいや。それじゃあ武器を渡すから、外に出てくれ。玄鬼、野次馬どもは蹴っ飛ばしな」

「乱暴だな…。了解した」


 ここからの話は現物を見てから。

 そう目で言ってから、錬姫は立ち上がり、一足先に出ていく。


 それから少し遅れて、遊夢たちは玄鬼の指示に従って外へ向かった。

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