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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
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69話 電子の遊撃者

 広間に出て、一度深呼吸する。

 数歩前には、刃渡り2m弱の長刀を持った玄鬼さんの姿があった。


「持ち運びにくいな、これ」


 身の丈程の刀。その鞘を掴んで顔をしかめている彼に、違和感を感じる。

 何をどう言えば良いのかは分からないが、彼が長刀を持つということが、妙に見慣れないのだ。


「一応、練習ではそれなりに使えたが…さて」


 鞘から刀を抜いて、構える。

 まるで突くことに特化した構えは、まるで槍を相手にしているような感覚を感じさせられる。


 俺は剣を構えて、玄鬼さんを見据える。


「来い、遊夢」


 彼も俺を見て、それだけ呟いた。


 飛び出す。

 刃の潰れた剣を手に、玄鬼さんへ向けて駆け出した。


「《サンダー》!」


 牽制代わりに《サンダー》を放って、彼の注意を反らしながら接近しようとする。

 しかし、その行動に意味は無かったらしい。


 彼はその身一つで《サンダー》を弾きながら、俺に急接近してきたのだから。


「…っ!?」


 咄嗟に体を捻って、刀の一撃を避ける。

 少し地面を転がり、体勢を整えてから躊躇いなく【獣人化】を起動した。


 …因みに、だが。

 今回俺は、自分にあるルールを課している。

 それは、【狂人化】を使わないということ。


 使ったら脳に負担が行くだけの【廃人化】とは違い、【狂人化】は使った瞬間に気絶が確定する。

 他の力を使うと更に気絶に近付くので、そもそも、ほいほい使うべきではないのだ。


 …最近、ずっとこの能力に頼りきっていたのもあるが。

 自分の力とはいえ、やはり狂夢に任せている感じがして癪だ、というのも理由の一つである。


 だから、今回の戦いで使うのは【常人化】、【獣人化】、【妖人化】、【廃人化】の四つで、【廃人化】も少ししか使わない。

 とりあえず、【廃人化】に関しては三十秒程度を目処に使っていこうと思っている。


「…む。獣の姿か」


 玄鬼さんが目を細める。

 彼が構え直す前に、駆け出す。


 獣人になったせいで身体能力───特に速さが強化される。

 その代わり魔力行使はしにくくなるのだが、元々近距離での戦いがメインだ。

 《身体強化》なんてものを使う魔法剣士ならともかく、《電光石火》と普通の攻撃魔法くらいしか使わない俺にはそこまで大きなデメリットでもない。


 彼が構え直す頃には、彼の胴体を蹴飛ばせる一歩手前まで来ていた。

 たかが一歩、されど一歩。


 一歩手前ということは、逆に言うなら一歩足りないということ。

 このままの状態で後一歩踏み出せば、俺が玄鬼さんの手痛い反撃を喰らうことになる。

 刃を潰した刀で殴られても死にはしないだろうが、痛いものは痛いし、実戦なら一発アウトだ。死ぬ。


 だから、加速する。

 《電光石火》を使って、玄鬼さんに突撃。

 無理矢理ぶつかって彼をよろめかせた後、強引に回転して回し蹴り。

 彼を吹き飛ばした。


「…っと、思ったより手荒いな」

「【妖人化】」


 それだけでは終わらせない。

 玄鬼さんの実力がろくに見られていない以上、一瞬で倒される可能性だってあるのだ。


 そして、邪神を殺せる武器を創って貰うためにも、負ける訳にはいかない。


 だから畳み掛ける。

 剣を仕舞ってから【妖人化】を起動して、両腕に魔力を込めた。


 右手で電撃を作り出し、左手には泥を溜めていく。


 雷の魔力で剣を形作り、泥は槍のように固める。

 今回やるのはただの力押し。


 未だ体勢が崩れている玄鬼さんへ向けて、二つの魔法を撃ち放った。


「《雷の剣(サンダーソード)》、《土の槍(マッドランス)》!」


 槍は玄鬼さんへ真っ直ぐ、剣は弧を描いて回転しながら飛んでいく。

 それの着弾を待つことはせず、俺は《電光石火》を起動して駆け出した。


 ---------------


 二つの魔法がほぼ同時に玄鬼に迫る。

 体勢を崩した彼に、両方を避ける術はない。


 だが、それでも彼は足掻く。

 雷の魔力で出来た剣を持っている長刀で弾き、土の魔力で出来た槍を手で受け止めようとする。


 …結果だけで言えば、彼は槍を掴むことには成功した。

 しかし、勢いがある物体を安定していない体勢で掴んだせいで、彼は地面に倒れ込んでしまう。


「ぐっ」


 そして、転がって起きた彼の目の前には、腕を突き出している遊夢の姿があった。

 瞬間、弾けるように三つの魔法が発動する。

 攻撃力を持たない光魔法は玄鬼の目を眩ませ、残る魔法───《炎の弾(ファイアショット)》と《風切》は彼の胸と腹目掛けて飛び出した。


 その片方に、玄鬼は見事反応してみせる。

 鬼としての勘か、それとも遊夢の動きを予測していたのか。

 彼は胸に着弾しようとしていた《炎の弾》を、力任せに長刀を振ることによって消し去った。


 しかし、そんな雑な扱いに只でさえ長い刀が耐えられる筈もなく。

 少しだけ、刀が曲がった。


 刀が曲がるという事実を認識すると同時に、《風切》が彼の腹部を穿つ。

 急な衝撃に、彼は呻き声を上げながら吹き飛ばされた。


 その後、遊夢が追撃しようとしたタイミングで視界が蘇ってくる。

 彼の手にあるのは、僅かながらも曲がった刀。


 遊夢から見れば分からない程の微妙な変化だが、刀の使用者からすれば致命的な欠陥だ。


「…これも駄目だったか」


 呆れたようにそう呟きながら、彼は遊夢目掛けて刀を放り投げる。

 そんな攻撃を予測出来る筈もなく。

 遊夢は咄嗟に《サンダー》を発動して刀を弾いた。


「仕方無い。今は素手で行かせて貰おう」


 その一瞬の隙に、玄鬼が地面を蹴り、飛び出す。

 それは遊夢との距離をゼロにして、彼を動揺させた。


「侮ったな、遊夢」

「が───!?」


 ボディブローで遊夢の体勢を崩し、力を削いでから襟元を掴んで、そのまま地面に一本背負い。

 受身も取れずに地面へ叩き付けられた遊夢は、肺の空気を吐き出した。


 それで攻撃は終わらない。

 玄鬼はそのまま腕を振り上げて、遊夢目掛けて降り下ろした。


 ---------------


「が───!?」


 背中から地面に叩き付けられて、意識が一瞬白く染まる。

 さっきまで俺が戦いの主導権を握っていたにも関わらず、気が付けばピンチになっていた。


 視界には、拳を振りかぶっている玄鬼さんの姿がある。

 あのパンチを受ければ、恐らく気絶する。


 仮に【獣人化】を起動しても、動き出す前に殴られるに違いない。

 なら、他の変身も意味は為さない。

 ───ただひとつ、【廃人化】を除いては。


『よし、この三十秒で決着をつけるぞ』

「【廃人化】」


【廃人化】を起動した瞬間、意識が切り替わった。

 体からは現実感が消え失せて、無意識に演算でもしているのか、脳内が情報で埋め尽くされる。


 それはまるで、ゲームの中。

 敵の動きを予測し、適切な行動をして、仮に失敗しても痛みなんて感じない。

 特徴だけ述べるなら、まさしくこれはゲームの中だ。


 しかし、何のパラメーターも無いこれは、正しく現実。

 その事実があるせいで、【廃人化】は全力を発揮できない。


「なに?」

「まずはこれだな」


 玄鬼の攻撃を、首を動かすことで避けてから、彼に頭突きをすることで怯ませ、距離を取る。


 彼が少し動揺している間に、今必要な仮想パラメーターを組み立て始めた。


 HP、MPゲージ───完了。残量にも問題なし。

 マップ───完了。これで目を瞑っていても駆けられる。

 ターゲットの設定───完了。今ここに居る敵は玄鬼だけだ。

 擬似的な三人称視点───完了。この視点こそ、遊夢(オレ)が慣れ親しんだものだ。

 擬似クエスト設定───完了。玄鬼に勝利し、武器を手に入れる。


【廃人化】スタイル───設定完了。これよりクエストを始める。


「クエスト開始だ」

「雰囲気が変わった…?」


 ---------------


 先程までの戦いは、良くも悪くも互角だった。

 一方が他方を押すという展開ではあったが、それが容易に切り替わるなら、それは互角と言っていいだろう。


 その基準で言うならば───この戦いは、ある意味虐殺と変わらない。


「くっ!」

「……」


 玄鬼の体から放たれる攻撃は、どれも遊夢には届かない。

 その全てを遊夢は受け流し、または避けている。


 遊夢からの攻撃は無い。

 これは遊夢が防御で手一杯なのではなく、単に決定的な隙が見えていないだけ。


 一撃を凌いだ遊夢は、直ぐに玄鬼の攻撃が取るに足らないものだと判断した。

 要は、当たれば痛いだけ。


 威圧感や恐怖から外れた【廃人化】状態の遊夢からすれば、そんなものはただの設定と同じだ。


「───十秒か」


 玄鬼の拳を受け流し、鳩尾に掌底を叩き込む。

 そのままゼロ距離で《雷切》を発動して、玄鬼に衝撃を与えた。


 その隙を見逃さない。

 《電光石火》を起動してしゃがみこみ、回転しながら蹴りを繰り出して相手の足を払う。

 鳩尾の衝撃に意識が行っていた玄鬼に、これを凌ぐ力は残っていない。


 力が入りにくい部分を思い切り蹴られた玄鬼は、一度地面に倒れた。

 それで勝負は決まったようで、遊夢は剣を玄鬼の首に突き付ける。


遊夢(オレ)の勝ちか?」

「…あぁ、今回ばかりは完敗だ」


 機械に似た遊夢の問いかけに、玄鬼は目を閉じながら答える。


 それで、二日間に渡る戦いが幕を閉じた。

 結果は『アザーファル』の完勝。


 彼らは遂に、武器を得る資格を得た。

【スキル】解説


【■■化】

変身型【スキル】。別の種族に自身の力を認めて貰ったり、何か衝撃的な体験をすることで、新しい力が手に入る。人間形態の【常人化】含め、現在6種類。


【獣人化】

獣の力を身に宿す。常人と比べて筋力が上昇するが、その分魔力の使用、感知はしにくくなる。


髪の色、毛の質感はアグニに似る。

筋力が上昇するとあるが、その中でも瞬発力や最高速度など、速さに関する能力が特に上がる。

【常人化】状態にも瞬発力に補正がかかる。


【妖人化】

妖の力を身に宿す。魔力量が増大し、魔力の制御、感知をしやすくなる。

しかし、その分身体能力は減少する。


※髪の色、耳の形はナチュルに似る。

【常人化】状態にも魔力量に補正がかかる。


【狂人化】

狂の力を身に宿す。基本的な能力は変わらないが、万物を狂わす力を手に入れる。

容姿は、髪と目の色が反転するのみ。【狂人化】所有者の性格がマトモであれば、別人格が表れる。

狂わせられる回数は、【狂人化】所有者の全【スキル】数+1回。狂わそうとする事象が絶対的な物であれば、複数回使用しなければならない。

能力を使いきらないと【狂人化】は解けず、使い切った約10秒後に強制的に解け、【狂人化】所有者は気絶する。


青原遊夢の『殺害への忌避感』をねじ曲げた。


【廃人化】

『青原遊夢』の本質である『ゲーム』の力をその身に宿す。

異常なレベルで観察力、適応力などが強化され、本人はゲームをしているような感覚に陥る。

そのため、【廃人化】起動中は感情が希薄になる。

解除後は負担が一気に頭に来るため、実質行動不可能になる。


『ゲーム』である以上、「目に入るものしか見えない」という法則に囚われる必要はなく、そのため自分の後ろも完全に把握可能。ただし範囲は狭い。

仮想HP、MPゲージを作る意味は、普通なら全くない。だが、『ゲーム』を再現するための力なので、無いと本来の力を発揮できない。


【常人化】への補正は無いはずだが……?

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