6話 自己紹介
───鈴音は生き返ることが出来る。
そう理解した途端、俺は地面に崩れ落ちた。
「お、おいユウム!大丈夫か!?」
『ラックさん。そっとしておいてあげましょう』
二人が何か言っているようだが、俺の耳には届かなかった。
俺の耳には俺の口から発せられる嗚咽しか聞こえず、目に見えるのは霞んだ石の床だけ。そして頬には液体が流れていた。
ここまで言えば分かるだろう。
つまり俺は、泣いていた。
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俺ことラックは、少し困惑していた。
リンネ・ワツカサを生き返らせることが可能だと知った途端に、ユウムが泣き崩れていたのである。
慌てて声を掛けるが、それはマリア嬢にやんわりと止められてしまった。
なので、俺はマリア嬢に小声で話しかける。
「気付いてると思うが、今ウォールが勇者一行候補を連れて神殿前に居る。ユウムは取り敢えずほっといて、そっちに行くぞ」
『分かっています。不用意に大きな音を起てないで下さいね』
「もちろんだ」
会話を終えると、俺は神殿の入口に向かってそっと歩き始めた。
……マリア嬢は飛べるので、俺よりも早く外に出ていたが。
「マリア様、彼らが勇者候補です」
『御苦労様です。門の警備は大丈夫ですか?』
「はい。交代の時間になったので」
入口から外に出ると、先ほどまで門の警備をしていたウォールが、三人の少年少女を連れてマリア嬢に敬礼していた。
俺に気が付くと、ウォールは俺に向かって話しかける。
「ラック。ユウムはどうした?」
「あ、あぁ。えーと、神殿でリエイ………もう一柱の神と話をしている。しばらくそっとしておいてくれ」
流石に、泣き崩れていることをいうのもアレなので、適当に誤魔化す。
だが、マリア嬢は神殿からはそんなに離れられない(出来ないこともないが、主に王都の住人が騒ぎになる)ので、遅かれ早かれ俺たちは神殿に入らないといけない。………どうしようか?
『そうですね………少し、待っていて下さい』
どうやらマリア嬢には考えがあるらしい。
そう言うと、マリア嬢は一人で神殿に入って行った。
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「あー、恥ずかしい………」
一通り泣き終わった俺は、別の理由でその場に崩れ落ちていた。
………まさかあんなに泣くなんて思わなかった。もし実際に鈴音にあったら、死ぬかもしれない。
死因は恥ずか死ですね分かります。と、訳の分からないボケで頭をリフレッシュしたあと、俺は辺りを見渡した………が、
「居ないな」
ラックさんもマリア様も居ない。一体何処に行ったのだろうか?
(いや……)
もしかしたら、急に泣き始めた俺の姿にドン引きして、その場から離れたのかもしれない。
だとしたら最悪だ。これから俺は彼女たちとどう付き合ったら良いのだろう?
ネガティブな想像が頭を支配していると、不意に後ろから声が掛けられた。
『落ち着きましたか?ユウムさん?』
「うぇぁ!?あ、マリア様か」
思わず変な声を出してしまったが、マリア様と分かって少し落ち着いた。
その態度から見て、どうやら俺の姿にドン引きした訳ではなさそうだ。………多分。
取り敢えず、返事しないと。
「はい、大丈夫です。」
『そうですか。では、着いてきて下さい』
そう言って、入口に向かっていくマリア様を追いかけた。
「ん、ユウム、話は終わったか?」
神殿の外に出ると、ラックさんが声を掛けてきた。
更に奥を見ると、門の前にいた鎧の兵士と、一人の男性、それと二人の女性がいた。因みに、三人とも俺と同年代ぐらいだ。
って、話ってなんのことだろう?いや、もしかしたら、気をつかってくれたのかもしれない。
ラックさんを見ると、彼は小さく頷いた。どうやらそのようだ。
「えぇ、終わりました。」
「そうか。折角だから自己紹介しとけ。俺はもうやった」
ラックさんにそう言われたので、俺は(鎧の兵士を含む)四人を見る。
そして、出来るだけ気さくに話しかける。
「俺はユウム・アオハラだ。宜しくな」
「さっきは名乗らなくて済まなかったな。私はウォール・ガーディーアだ。宜しく頼む」
鎧の兵士ことウォールさんが頭を下げる。なので俺も礼をした。
関係ないが、「ウォール・ガーディーア」って如何にも盾役が似合いそうな名前だな。
『ウォールは私の知っている人間の中でも屈指の防御能力を持っています。長期戦の訓練をしたければ彼に頼んで下さいね』
突然俺のとなりに現れたマリア様の言葉で、俺は自分の予想が外れて無いことを確認した。
………ていうか、この人自己紹介したのか?
『入口で話すのもなんなので、先に神殿に入ってしまいましょう。皆さん、着いてきて下さい』
そういうと、マリア様は奥に向かって歩いて行った。
先程の広間に戻った後、まず始めにマリア様が三人組に向かって口を開く。
『貴方たちが勇者候補の人たちですね。私はマリアです。貴方たちの名前はなんですか?』
「じゃあ、僕から。僕はユート・ルーメント。宜しくね」
三人組の一番右端にいた茶髪で明るい緑の目をした青年が始めに名乗る。ユート、か。よし、覚えた。
印象は……優しそう、かな。あと顔が少し中性的。多分全力で女装されたら気付けないぐらい。
今度は抹茶色の………つ、ツインアップ(だっけ?)な髪と同じ色の目をした、少し気の強そうな女性が名乗る。
「次はアタシね。アタシはエストレア・ワールウィンドよ。特技は攻撃魔法ね。特に風と土かしら?」
エストレア、か。よし、覚えた。なんとなくのイメージ通り、後衛型の魔法アタッカーみたいだな。
因みに俺は………まぁ、後で言おう。
最後に、水色のポニーテールで淡い赤色の目をした、大人しそうな女性が静かに名乗る。
「私は···セティ・セイクレッド。得意なのは···補助と回復魔法。でも···光なら攻撃も得意」
セティ、か。顔は少し幼さを感じさせるが、口調は、なんというか、クールかな?もの静かとも言う。
そんな彼女の役割はヒーラーか。
あ、俺も特技言わないとな。
「「俺(僕)の特技は……」」
あ、ユートとハモった。こんなときに言うべき言葉は、
「あー、先に言ってくれ」
「あ、あぁ、うん。ありがとう。ユウム君。僕の特技は剣術かな。両手剣が特に得意だけど、鎌とか両剣とかは苦手だね」
やっぱり譲り合いは大切だぜ。まぁ、どっちが言ったって大差ないしな。
ユートは物理アタッカーみたいだな。だったら俺が一人で前衛になる事だけは避けられたかな。
じゃあ、俺も言うとするか。
「さっきも名乗ったが、俺はユウム・アオハラだ。魔法と剣術両方使えるが、戦闘では近接アタッカーになると思う。得意な武器は片手用の軽い奴。魔法は………回復以外なら大体何でも出来る。でも火力はそんなに高くないな」
………そういえば、この四人でパーティーを組むんだよな?
どうしよう。盾役が居ない。うーん、どうしようか?
いや、それは後で考えよう。それよりも、だ。
「じゃあ、マリア様!ユートたちに説明して下さい。で、そのあとどうするかも教えて下さい」
『分かりました。では、皆さん、聞いて下さいね』
とにかく、ユートたちに説明しとかないとな。目的とか、理由とか。
色々考えるのはそのあとだ。