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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
64/125

63話 交換条件

「───ふ、不便だ」


 目が覚める。

 視界に入ったのは見慣れない天井。

 起き上がって自分の姿を確認すると、布団に寝転がっていることが分かった。

 その下にあるのは、当然のように畳である。


「……日本?」


 その光景は、まるで日本のそれだ。

 漫画やゲームでよく見る、和風の寝床に似ている。


 部屋は襖で仕切られていて、外に続いているであろう窓にはカーテンの代わりに障子が光を遮っている。


「…ますます日本風だ」


 だが、ここは日本ではない。

 まず俺自身が魔力の概念をちゃんと把握しているし、仮に夢だとしたらリアル過ぎて論外だ。

 前世では普通の一軒家に住んでいたはずなので、こんな家は夢だとしても見るはずがない。


「さて」


 立ち上がり、布団を畳んでから襖を開けて部屋の外に出る。

 すると、廊下に出た。


「───」


 廊下が思ったより長かったので、言葉が詰まる。

 これでは、日本の家というよりは武家屋敷か旅館だ。


 左右どちらを見ても曲がり角だったので、俺が寝ていた部屋に近い右へ向かった。


 ------------


 右側にあったトイレで用を済ませてから、今度は逆の方向へ向かう。


 長い廊下を歩き続ける。

 同じような大きさの部屋を幾つか通り過ぎると、先程よりも大きな襖が目に付いた。


 ここが居間か、それとも屋敷の管理人の部屋かもしれないので、ノックしてみる。


 すると、鋭い返事が返ってきた。


「誰だい?ここの住人じゃあないね?」

「…先日、気絶して運ばれた者です」

「ああ、あの男か。入りな、廊下は冷える」


 許可を得て、襖を開ける。

 そこは居間だったようで、一人の女性が長方形の机に腕を乗せ、座布団の上に座っていた。


 髪は黄色く、肌は白い。

 眼は血のように紅くて、頭には大きな角が一本生えている。


 そんな彼女は酒器を持ちながら、俺を品定めするように見つめていた。


「歓迎しよう、客人。アタイは(カナメ)錬姫(レンキ)。要点の要、錬鉄の錬に姫様の姫だ。それとも、レンキ・カナメって言った方が分かりやすいかい?」

「いえ、俺も名字が先にくる人間なのでお構い無く。俺は青原遊夢。青い草原と遊ぶ夢、です」

「面白い名前じゃないか、遊夢」

「そちらは…鍛冶屋のような名前ですね、要さん」


 要さんとの自己紹介を終え、彼女を名字で呼ぶと、何故か睨まれた。

 魔力が殆ど無いにも関わらず感じる威圧感に少しだけ驚きながら、聞き返す。


「どうかしましたか?」

「…名前で呼びな。玄鬼と早苗の知り合いだろう」

「───?」

「分からないかい?玄鬼はアタイの旦那だ。───その様子だと、名字を名乗ってなかったみたいだねぇ」

「はぁ……ええ!?」


 適当に相槌を打とうとして、驚愕した。

 別に、錬姫さんが結婚していたことにではない。

 確かに、目の前にいる彼女は結婚しなさそうというか、一人でも生きていけそうな雰囲気を出しているが、だからと言って独身であることにそこまで驚くことはない。


 だから、それ以外の部分がおかしいのだ。

 本人の気質や性格からではなく、もっと大きな───。


 例えば、


「だって、早苗に角は…!」

「ああ、そんなことかい」


 玄鬼さんには、一本の角が生えていた。

 それだけで凶器になりえそうな程、鋭く強靭な角だ。

 そしてそれは、目の前にいる錬姫さんにも生えている。

 彼女たちの娘である早苗には、角は生えていないというのに。


 なんとか絞り出した俺の主張を、錬姫さんは「そんなこと」で済ませた。


「って、遺伝とかどうなってるんですか!?」

「いや、アタイのお袋がエルフなんだよ。だから、早苗に角が生えなくても不思議じゃない。ほら、早苗には魔力があるだろ?本来、鬼は魔力はが殆どない種族なんだ。その鬼に並み以上の魔力が宿っているのは、単にエルフのお陰だね。因みに、アタイも魔力を持ってる。そうは言っても、気持ちマシってだけだけどねぇ」

「……言われてみれば」


 目を閉じて、錬姫さんの魔力を探る。

 その結果、僅かながらも彼女から魔力を感じとることが出来た。


 どうやら早苗は、鬼から産まれたエルフという、特異な種族であるらしい。

 そんな事例、聞いた事がないが。


「特別、なんですか?」

「どういう意味で聞いてるかは分からないね。言うならハッキリと言いな」


 錬姫さんの視線が強くなる。

 まるで、これ以上間違ったことを言えば殺すと言わんばかりの、巨大な殺意。


 それで、俺が聞こうとしていることがどれだけ愚かだったのか、悟った。


「すみません。今のは失礼でした」

「解ればいいって。まぁ、鬼からエルフが産まれるのは珍しいといえば珍しい。でも、娘の価値をそれで決めるのは許さないよ。アンタみたいに、間違いに気づいて謝る奴は良いけどね」

「…因みに、誤魔化したりしていたら?」


 錬姫さんの殺意が消えたので、冗談半分で問いかける。

 絶対に俺はしないであろう、誤魔化しや嘘。

 もしそれで錬姫さんを騙そうとしたのなら───、


「近くに玄鬼か早苗が居るのに期待しな」


 酒器に入った酒の豪快に飲みながら、錬姫さんは獰猛な笑みを浮かべた。


 ---------------


 どうやら、俺が目覚めた時間帯は早すぎたらしい。

 それから暫くした後、ユートたちが居間に入ってきた。


 ユートやライドさんたちも、エストレアくらいから説明を受けたのか。

 事情は聞いてこずに、ただ「大丈夫か」とだけ声をかけてくれた。


 それに返事を終えると、錬姫さんが再び話始める。


「さて、これで全員揃ったね」

「早苗はまだ眠っているがな」

「あの子は疲れてるんだ。そんなこと、わざわざ言うんじゃないよ。全く、真面目だねアンタは」


 玄鬼さんが錬姫さんの言葉に訂正を入れる。

 彼女はそれを流しながら、軽く玄鬼さんの頭を叩いた。


 いつものことなのか、玄鬼さんは微動だにしていない。


「それは置いといてだ、アンタたちの用件は聞いてるよ。神を殺せる武器が欲しいんだって?」


 さっきの軽い調子から一転。

 錬姫さんの顔が強ばり、声が低くなる。


 これが素なのか、それとも公私を使い分けているのかは分からないが、これが真剣な話であることは言うまでもない。


 なら、俺たちがする返事も決まっている。


「ああ、神を殺せる武器が欲しい」

「普通の武器じゃ駄目みたいなんだよね」

「神様から、ゲンキを紹介されたのよ。で、ゲンキにここまで連れてこられたわけ」

「···あなたが、創るの?」


 アグニとライドさんは何も言わない。

 マリア様に呼ばれたのは、俺たち四人だ。

 邪神を倒しに行くときはどうか知らないが、その主となるのは俺たちだと言っていいだろう。


 だから他でもない俺たちが、それを言う必要があった。


「ああ、武器はアタイが創る。でも、交換条件だ」


 俺たちの返事を聞いた錬姫さんが、口角を上げる。

 それは、何か満足したような表情だ。

 気合いは良しと思ってくれたのなら、それでいい。


「……」


 だから、今は交換条件に耳を傾ける。

 何を言われようとも、飲むしかないことに変わりはないのだが。


「まず一つ。武器を創る時には、アンタたちの力を貸して貰う」

「アタシたちに鉄を打てってこと?」

「素人にそんなことさせないさ。ただ、血液をそれなりに貰うだけ。後は、アンタらの【スキル】も教えて貰うよ。どうせあの神様のことだ。それくらいの措置はしてるに違いない」


 一つ目の条件は、俺たちの協力と情報開示。

 錬姫さんの言う神様が誰なのかは分からないが、あの口ぶりからして多分リエイトなのだろう。


 それはさておき、そのくらいの条件なら簡単だ。

 むしろ、頷けなくてどうする。


「分かりました。それで、他の条件は?」

「そう慌てるな。次が最後の条件だ」


 錬姫さんが笑みを浮かべながら、玄鬼さんを手招きする。

 玄鬼さんは何か察したのか。呆れるように頭を押さえながらも、錬姫さんの隣に座る。


 そして錬姫さんは、自分たちを指差してこう言った。


「もう一つはもっと単純。アタイたちに一対一(タイマン)で勝てばいい」


 それは、実力を測るような腕試しではなく、殺し合い寸前の闘いだということを、その気配が報せてきた。

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