5話 環司鈴音は復活出来るのか?
『リエイト。お願いします』
「オッケー。任せてよ!」
そういうと、リエイトはその場に座り、目を瞑った。その行動の理由が分からなかった俺は、マリア様に聞こうとする。
「あの、これって……ッ!?」
『静かにしてください』
マリア様は、一瞬で音をたてずに俺との距離を詰め、俺の口を手で押さえながら、小さな声でそう言う。
だが声は聞こえて、理解したものの、やはりリエイトがしてることに興味を惹かれ、マリア様の姿はあまり認識出来ていない。
暫くそのまま待ってると、やがてリエイトが目を開けて、頭を押さえながら、フラフラとした様子で立ち上がる。
「ふぅー。久々にやったからちょっと疲れ……何やってんの二人とも?」
リエイトがこちらを見て不思議そうに呟く。首を傾げているその姿は、見た目相応で、一部の紳士が見れば叫びだしそうな程可愛らしい。
……まぁ、俺はロリコンでは無いが。
…………ん?何でリエイトは「不思議そうな目」をしているんだ?
少し状況を整理しよう。
リエイトの行動が気になった俺は、マリア様にその行動の意味を聞こうとした。で、マリア様が俺に音をたてずに急接近して、手で俺の口を塞ぐ。そのあと、小声で忠告した、と。
ふと、手前に意識が戻る。すると、俺の目の前にマリア様の顔があって……
「うおぁ!?」
『?、どうかされましたか?』
俺は急いでバックステップする。よほどシリアスでもない限り、俺に女性の顔を至近距離で見つめることは出来ない。こう、なんというか、恥ずかしいのだ。…………俺って前世で女友達居なかったんだろうな。
よく考えれば、小声で的確に物事を伝えようとすれば、近くで話す……つまり、顔を近づけるのは当然だ。
何を考えていたのか、リエイトがニヤニヤしながら口を開く。
「え?何?もしかして二人って、そんな関係なの?へー、僕知らなかったなー」
「ん?どういう………あー、成る程」
?、「そんな関係」ってなんだ?っていうかラックさんもリエイトがいる場所にいった瞬間になんで納得してるんだ?
「え、ラックさん?なんですかその反応?」
そう疑問を口にすると、ラックさんが「これ言ったほうが良いのか?」と小さく呟き、些細な悩みだと思ったのか、一つ咳払いをして、マリア様に一度視線を向け、そのあとに俺を見てから言った。
「あー、いや、な。こっから見ると、ユウムとマリア嬢がキスしてる様に見えるんだよ」
あー、そうなんだ。俺が、マリア様とキスをしてる様に…………って、
「え、えぇ!?や、違っ!?違うって!?」
一瞬その光景を想像してしまい、慌てて首を振りながら否定する。自分のものなので見えないが、多分俺の顔は真っ赤だ。男の赤面なんて誰得だよと自分でも思うが、前世から一回もそういう話をしてない俺には、免疫力が全くないのだ。恋愛なんて一回しかしたことないし、キスなんて以ての他だ。
敬語なんて投げ捨てて、キョドりまくっている俺を見たせいか、マリア様が微笑む。
『ふふっ。それはありませんよ、リエイト。ユウムさんも、落ち着いて下さい』
「ちぇー。マリーの慌てる顔が見たかったのになー」
「それは俺も同感だな」
「な、なんだ。びっくりするだろ………」
どうやら冗談だったらしい。焦った。本当に焦った。
…………あれ?何か忘れてる気がするような?
ラックさんを見る。ラックさんは残念そうにマリア様を見ている。余程マリア様の慌てる顔が見たかったのだろう。次に、マリア様を見る。マリア様は、「貴方のそういう所も悪くないと思いますよ」と、フォローらしきものを入れてくれたいた。お礼を言って、最後にリエイトを見る。リエイトは、「遊夢の反応面白いよ」と、俺のリアクションの感想を言っている。
あ!そうだ!思い出した!
「リエイト。さっき何してたんだ?」
「ん?あー、あれは、言うならば『検索』かな?」
「『検索』?」
ラックさんは何か察したような顔をしているので、分かってないのは多分俺だけになる。マリア様は知っているからこそリエイトに頼んだのだろうし。
だが、気になるものは気になる。
「なぁリエイト『検さ………」
「あー、ゴメン。僕はこう見えて疲れてるんだ。説明は、えーと、ラックに任せて、僕は寝させて貰うよ。じゃあ、お休み」
「え?リエイ……もう寝てる」
そう言って、リエイトはその場に倒れこんだ。慌てて近づくと、スースーと寝息が聞こえてくる。
余程疲れているのだろう。一体何をしたんだ?
ラックさんは分かっているようなので、彼に聞くことにする。
「ラックさん。『検索』って何ですか?」
尋ねてみると、ラックさんが右手で頭を押さえて微妙な顔をする。
どういうことだろうか?
「え、何ですか?その微妙な反応」
「あー、いや、これで合ってるかは分からんが、説明させてもらうぞ」
そう言うと、ラックさんは右手の人差し指をピンと上に指して話を始める。
多分癖なのだろう。
「えーと、まず、神は運命に逆らえない。これは分かるな?」
「はい。マリア様から聞いたので」
因みにそのマリア様はリエイトを連れて何処かへ行った。「ふふっ、しょうがない子ですね」と微笑んでいるその姿は、まるで親子の様だった、と言っておく。
「まぁつまり、運命で死ぬことが定められていた場合、そのリンネって奴を生き返らすことは出来ない」
「あ!なるほど!……でも、なんでリエイトはあんなに疲れていたんですか?」
確かに運命で定められていた場合、それを覆すことは不可能だ。だったら、運命で定められていないか調べる必要がある。だが、そこまで疲れることなのだろうか?
そんな疑問にも、ラックさんは答えてくれた。
「俺が知るか、と言いたいが、実は予想は出来てる。多分だが、リエイトが見た運命は、リンネ・ワツカサの一生分に加えて、今後リンネが世界に与える影響の予測だな。それだけ調べれば、あれだけ疲れるのも納得だ」
「え、えーと……」
スケールがでかくてよくは分からないが、どうやらリエイトは過去の鈴音の運命だけでなく、鈴音が復活したことによる悪影響が無いかまで調べていたらしい。
……一体何年分の情報になるのだろうか?あ、考えただけで頭が……。
俺が頭を両手で押さえていると、いつの間にか帰って来ていたマリア様がラックさんに声をかけてくる。
『流石は私の部下ですね。それで全て合ってますよ』
「そう言ってくれると嬉しいな。それで、リエイトはどうなってるんだ?」
待ってましたと云わんばかりに、マリア様が息を吸う。
ラックさんはひたすら何を考えてるのか分からない様子でマリア様を見ているし、俺は聞きたいことがあるので心の中にだけで「早く言ってくれ」と急かす。
マリア様が口を開く。
『その前に、ユウムさん。落ち着いて下さい。貴方が聞きたいことも、ちょっとだけ目が覚めていたリエイトに聞いてきましたから』
「あ、すみません………」
………内心だけだと思っていたのだが、そうでもないらしい。ラックさんの視線が微妙に冷たい気がする。
というか俺の知りたいことってちゃんと伝わってるのか?………まぁ、あとで分かるか。
俺が落ち着いたのを感じ取ってか、マリア様が咳払いをした後に口を開く。
『まず、リエイトは今、ぐっすり眠っています。疲れているだけで、別に死にかけてる訳ではないので、心配は要りません。そして、貴方の知りたいこと、恐らくリンネさんのことだと思いますが、』
流石に俺の意思は伝わっていたようだ。心の中で必死に祈りながら、必死に無表情であろうとする。
やがて、マリア様の口が開く。
その言葉は──────
『大丈夫です。リンネさんを蘇らせることは可能です』
その言葉は、俺にとっての希望の言葉だった。