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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
57/125

56話 武器製作のために

「武器、作ろうか」

「は?」


 朝飯時。

 ぶらぶらと家にやってきたリエイトは、開口一番にそう言ってきた。

 当然、俺は意図が掴めずに聞き返す。


「だから、武器だよ。そんな普通の武器で、レイダーと戦うつもり?」

「いや、そうじゃなくてだ……。急だな」

「うん。だってさっき決めたし。───あ、良い匂いだね。入っていいかな?」

「まぁ、良いけ…ってもう上がってるだろ!?」


 許可を取りつつ、家に上がり込んでくる見た目少女の神。

 リエイトはユートたちに挨拶してから、朝飯をたかり始めた。


 ---------------


「それで、具体的にどうするのよ?武器なんて、作れるはずがないじゃない」


 朝食を食べ終えて一息吐いていると、エストレアがリエイトに疑問をぶつけてきた。

 リエイトは、カップに入ったコーヒーに息を吹き掛けている。


「ふぅ、ふー……苦い。リリィ、砂糖取ってよー」

「はい、ただいま」

「ちょっと!?」


 思い切り無視されたせいか、エストレアが声を荒げる。

 それでリエイトは気付いたのか、それとも答える気になったのか。

 ようやく顔を上げて、カップをテーブルに置いた。


「エストレアの疑問は尤もだね。僕だって、君たちが武器を作れるなんて思ってないよ」

「なら、どうするのよ?アンタが作ってくれる訳?」

「それじゃあ意味がない。【スキル】の解放だってギリギリの手段だったんだ。神が創った武器なんて持ったら、まず運命には勝てなくなるね」


 どうやら、神が干渉出来るのはあくまで『人間の力を引き出すこと』だけであって、武器の調達などは出来ないことらしい。

 仮にやると、神としての力が高まり、運命に勝てなくなるそうだ。

【スキル】の解放が何故セーフなのかはイマイチ分からないが、それは置いておく。


「だから、創れる職人を探すんだよ。幸い、当てはある」

「当て?」


 エストレアの声は、この場にいる全員の気持ちを代弁していた。


 リエイトはリリィに手渡された砂糖を大量にカップに入れてから、その問いに答えた。


「『ラウンド村』ってあったでしょ?あそこの鍛冶屋が、ちょっとした情報を持ってる」


 コーヒーをかき混ぜてから、ちびちびと飲む。

 今度は苦くなかったのか、彼女の表情は崩れなかった。


 ---------------


「いらっしゃいませ!本日はどのようなご用件でしょうか!」


 ───という訳で、『ラウンド村』の鍛冶屋に直行した。

 店に入ると、変わらずにあの少女が大きな声で出迎えてくる。


「えっと、鍛冶屋さんに聞きたいことがあるんだ、いいかな?」

「───それは、」


 アグニが単刀直入に聞くと、少女が口を閉ざす。


 それが、少しの恐怖を孕んでいるように見えて。

 気付けば、口出ししていた。


「別に、その人に何かしようとしてる訳じゃない。ただ、聞きたいことがあるだけなんだ」

「本当、ですか?」

「ああ。神様からのお使いみたいなものだ」

「───分かりました。掛け合ってみます」


 俺の言葉を信用したのか、少女はこちらに大きく礼をしてから、店の奥に進んでいった。


『何に怖がってるんだろうな?』

(分からないな。もしかしたら、あの子の父親が何かしたのかもしれない)

『その可能性が一番大きいか。まぁ、あの子は真っ当な人間だし、親父も極悪人じゃねぇだろ』


 意味があんまりない意見交換をしながら待っていると、あの子が戻ってきた。手には、『本日締切』と書かれた看板を提げている。

 少女はこちらに一礼してから、店の外にそれを掛けて、店を閉めきった。


「こちらです」


 店の奥に案内される。俺たちはそれに従い、進んでいった。


 ---------------


 店の奥は、工房だった。

 鉄を融かす炉や、武具を作る道具なんかがある。

 それ以外にも色々あるのだが、専門知識がない俺はよく分からないものだらけだ。


「来たか」

「うん、この人たちが、盗賊団を退治してくれたんだ」


 野太い男性の声に、少女は口調を和らげて返事をする。

 どうやら、暗くて姿が見えないが、彼こそが少女の父親らしい。


「これはこれは。ではまず、礼を言うべきだな。村を救ってくれて、ありがとうございます」

「いえ、こちらも武器を頂いていますから」


 彼の前に出て、この店から貰った剣を前に出す。

 ここまで近付いても、彼の姿は完全には捉えられない。


 ただ、違和感を感じた。

 なんというか、目の前の男性からは、感じて当たり前の何かを感じない。


「…む。何か、感じ取った様子、ですね」

「あ、はい。何かと言われると、答えにくいのですが」

「そうか。……早苗(サナエ)、灯りを付けてくれ」

「はい!」


 早苗と呼ばれた少女は暗い部屋を進んでいき、灯りを付けた。


 そして、姿が現れる。


 二メートルを超えるであろう巨体。

 髪と瞳は黒く、昔の日本のような格好をしている。

 体は少し太く、それが贅肉ではなく筋肉であることを主張していた。


 そして、何より目を引いたのは、頭の上にある、一本の角。


「これが答えだ。そう、私は、鬼と呼ばれる種族なんだ」


 男は、普通の人間ではなかった。


 ---------------


「鬼、か」

「そうだよ。この世界に住む生物の内、最も魔力保有量が少ないとされる種族さ」


 遊夢たちの家を出たリエイトは、そのままラックの家にまで転がり込んでいた。

 そしてそのまま、話を始めた


 どんな話かというと、ご覧の通り、真剣な話である。


「それにしても、何故鬼に武器を作らせる?力なら、精霊の方が宿りやすいだろう?」

「確かにそれはそうだけど、精霊の創る武器は、どこまで行っても加護の域を出ない。それに、アレはどちらかというと儀礼用の武装だよ。魔的な力は宿るけど、武器としてはそこまで良くはない」


 神の下位種に、精霊と呼ばれるものが存在する。

 彼らは運命に縛られない代わりに、自我が薄く、力で人間に大きく劣る。

 そんな彼らの創る武器はやはり脆く、武器としては使えない。


「と言うがな、なら尚更鬼に創らせる必要はないだろ。アイツらに奇跡や魔法を扱う力はない。まぁ、例外はあるだろうがな」

「───ぷっ。なんだ、気付いてるじゃん」


 ラックの言うことは正しい。

 魔力を殆ど持たない、行使出来ない鬼は奇跡など起こせないし、魔を宿すことも出来ない。

 武器を創ることに関しては一流の鬼も居るだろうが、それはただ強い武器であるだけ。

 到底邪神を倒すための武器には届かないのだ。


 ただそれでも、例外はある。


「教えろよ。その鬼は、一体どんな【スキル】を持ってる?」


 ───【スキル】

 全ての生物が持っているとされ、その実、限られた者しか発言出来ない異能だ。

 魔力増強のような単純なものから、力を取得するようなものなど、それらは多岐にわたり存在する。


「…その鬼が持ってる【スキル】は三つ」


 であるならば、その鬼が何らかの【スキル】を持っていることは道理であった。

 その鬼にしか、厳密に言えばその鬼の【スキル】にしか成し得ないことがあるのであろう。


「まずは力を観測する力、【鑑識】」


【鑑識】により、その鬼は力を見極めることが出来る。

 火加減、鉄を打つ力などは勿論のこと、その武器の担い手の筋力や技量を読み取り、それに合った武器を製作することが可能だ。


 だがこの技能だけでは、普通の武器しか作り得ない。


「次に、概念的なものを移す【概念憑依】」


【概念憑依】により、その鬼は魔を集めることが出来る。

 魔力の供給は他のモノに頼らざるを得ないが、刃に魔力や魔法を集めることで精霊の加護に匹敵する武器を製作することが可能だ。


 だがこの技能だけでは、魔法を使うだけの武器しか作り得ない。


「そして最後、これが肝なんだ。何しろこれがあることで、その鬼の創る武器は擬似的な神器にまで昇華出来る」

「───擬似的な、神器?」

「聖器とか魔器とかも言えるだろうね。その鬼の最後のスキルは───」


 リエイトから発せられた【スキル】の詳細に、ラックは思わず息を呑む。


 そして小さく笑いながら、思ったことを正直に言った。


「凄いな、それは。ソイツそのものが奇跡に等しい」

「【スキル】の詳細しか言ってないのに、どういうことか分かったんだね。毎度毎度、君の考察力は素晴らしい」

「それじゃ、俺の考えは当たってる訳か」

「そうだよ。ま、存在自体が奇跡って言うなら、君も大概だけどね」


 存在が奇跡という言葉が気に入らないのか、ラックは僅かに眉を潜める。

 それを見越してか、リエイトは少しフォローを入れた。


「誉め言葉として受け取ってよ。何て言うか、君の直感は並じゃない。【スキル】じゃないっていうけど、それこそが異常なんだよ」

「どういうことだ?」

「言葉通りの意味。幾ら【危機察知】があると言っても、そこまでの直感は得られない。だからそれはあくまで、普通の身体能力なんだ。───ほら、変でしょ?【スキル】と見違うレベルの身体能力なんてさ」

「まぁ、それもそうか。だが、別にいいだろ」

「そうだね、別に問題ない」


 折角の解説を「別にいい」だけで終わらされたのが気に食わなかったのか、リエイトは不機嫌そうに返事をした。

 それを読み取ったラックは、彼なりに気を遣おうとする。


「不機嫌そうだな。コーヒーでも飲むか?」

「……。それじゃあ頂くよ」


 機嫌を直すつもりはないようだが、彼女はラックの提案を受け入れた。


 それで終わり。

 邪神関連の真剣な話は今終わり、これから暫くは面白そうな話が展開されることとなる。


「──────苦いよ、これ!?」

「そうか?」


 第一声は、そんな締まらないものであった。

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