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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
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48話 初めての

「ひ、酷い目に合った……」


 話が通じないのを察して、エストレアによる粛清を大人しく受けていたのだが、俺のベッド(・・・・・・)からアグニが目を覚まし、下りてきたせいで余計に誤解が大きくなってしまった。

 結果、朝の時間は殆どお仕置きに費やされたのである。


 セティは一応俺の味方になってくれていたのだが、今回に限ってそれも悪い方向に転んでしまう。

 前回は完全に不慮の事故だったのだが、今回は違う。

 何が違うというと、俺は、先に手を出しているのだ。セティに。


 実際の犯人は【狂人化】な訳だが、俺の精神世界に入っていたセティやアグニならともかく、そうじゃないエストレアが上手く納得してくれる筈もない。

 俺の説明を聞いた後、「とりあえず、それもユウムってことね」と言い、問答無用でお仕置きを再開した。

 素晴らしい行動力である。


「いや、自業自得なんだが」


【狂人化】に腕を貸してしまったのがそもそもいけなかった。

 そうなると、やっぱり俺が悪い。


 現在、部屋には俺と───あの魔族の少女しかいない。

 そもそも、何故ユートが居るべきベッドでこの少女を匿っているのかが全くの謎なのだが、それは別に気にしなくていいだろう。

 大方、俺が気絶してる間にジャンケンなり話し合いなりで決めたに違いない。


「そう言えば、殺意とか湧かないな」

『そりゃそうだ。あの殺意は元々、俺のモノだしな。【狂人化】を起動するなら戻ってくると思うが』

「……よくもまぁ、堂々と話しかけてくるな」


 少し嫌味っぽく言ってみるが、堪えた様子はない。

 まぁ、自分の怒りに恐怖する奴なんてそんなに居ないだろう。

 どうにかして【狂人化】をボコボコにしたいが、方法が思い付かないのでどうしようもない。

 わざわざ精神世界に乗り込んで【廃人化】を使うのは面倒だし。


「……ん」

『あ、起きたぞ』


 少女の声が聞こえる。

【狂人化】に言われるまでもなく振り向くと、あの少女が目を覚ましていた。

 彼女はキョロキョロと周りを見渡しながら、首を傾げている。

 俺のことはまだ、認識していない。


 なので、声をかけてみた。


「起きたか?」

「っ!?………あ、はい。貴方が私を…?」

『いや、殺そうとしてたけど』

(黙れ)


 声が聞こえないのを良いことに殺意を込めている【狂人化】に黙るよう命令(お願い)してから、少女に向かって口を開く。

 幸い、殺意は全く湧いてこない。


「いや、助けたのは俺の仲間だ」

「そうですか。……どうして助けたか、教えて貰っても?」


 そう言う少女の顔は、疑問と不安のソレである。

 僅かに嬉しそうな感情も混ざっているが、それは負の感情に埋め尽くされ、あまり伺えない。


 それも当然だ。

 魔族はそれ以外の種族の敵。

 そんなことは、『輪廻の森』に居るときから知っていたことでもあるし、体験もしている。


 俺は少し嘘を吐いてから、理由らしきものを話した。

 採用するのは、ユートの言である。


「そりゃ、アレだろ。傷付いた奴は放っておけないからじゃないのか。俺ならそうしてる」


 但し書きとして、「【狂人化】を正式に取得した」が必要だが。

 当時の俺だったら問答無用で切り殺してる。


 だか、少女からすればその言葉が嬉しかったようだ。

 彼女は微笑みながら、それでも不安を隠しきれずに、俺に問いかけてきた。


「で、では、貴方の目に、私はどう映りますか?」


 俺に背を向け、小さな羽と尻尾を見せる。

 彼女が聞きたいのは、「ケガ人としての少女」ではなく、「魔族としての少女」とは敵対しないのか、ということなのか。


『言いたいことはそれで合ってると思うぞ。それと、口借りていいか?どうせお前のことだ。なんて言って良いか分かってねぇだろ』

(断る!絶対ろくなことにならない)

『あっそ。じゃあ好きにしろよ』


 さっきの事件を忘れたとは言わせない。

 俺は【狂人化】の提案を却下し、少女の問いに返事をしようとした、が。


(……質問が抽象的過ぎてなんて言っていいか分からない)

『だろ?俺もあんまり分からん』


 ならどうして口を乗っ取ろうとしたのか。

 それを小一時間問いただしたいが、今は少女の問いに答えなければ。


「どうって言われてもなぁ……。別に、何ともないぞ。敵意なんかも湧かない」

「ホントですか!」


 叫びながら、少女はほんの少し俺から距離を取る。

 その意味は分からないが、気にしないことにした。


「それよりも、腹とか減ってないか?」

「……う、それは」


 女の子に腹の調子を聞くのは、流石に失礼だっただろうか。

 少女は俺から目を逸らし、顔を俯かせる。


『失敗だな。普通の切り返しだと思ったけどなー』


 考えていたことは【狂人化】も同じだったらしい。

 こんな所でコイツが俺だという実感はしたくないのだが、まぁ良いだろう。


 それよりも、この状況をどうするべきか。


 とりあえず、この少女を部屋から出すべきだろう。

 魔族がどこまで嫌われているのかは分からないが、外に出ないことには何もしようがない。


 少女に歩み寄りながら語りかける。

 出来るだけ、優しそうに。


「悪い、失礼だったな。実は俺が腹減ってるんだ。折角だし、一緒に何か食べよう」

「ぁ、来な、いで」

『様子がおかしいな』


 だが、少女は何かに怯えるように部屋の隅に移動し、座り込む。


 威圧は全くしてない筈なのだが、どこか変な所があるのだろうか?

【獣人化】はエストレアにお仕置きされてる時に解いたし、そもそも初対面なら獣人でも違和感なんて感じないだろう。


(お前、何もしてないよな)

『覚えが無いな。殺意だってお前にやられた時から収まってるし』


【狂人化】が何もしてないなら、俺に非はない筈だ。

 だが、妙に引っ掛かる。


(気のせいか)

『気のせいだな』


 俺はそう判断して、更に歩み寄る。

 その瞬間───、


「……!」

「なっ!?」


 今にも泣きそうな顔をした少女が俺に突撃してきた。

 その表情に呆気に取られ、反応が遅れる。


『うっわ。コイツも魔族ってことか?』

「待て、どうした!?止め……」


【狂人化】が敵意を剥き出しにする。

 俺は少女と【狂人化】に静止をかけるために叫ぶが、もう手遅れだ。


 少女は俺を押し倒した後、口を俺の首筋に当てる。

 が、必死に何かに耐えるように体を震わせる。


「だ、め…。我慢、出来な…..っ!」

「おい、大丈夫か!?」


 起き上がり、少女の両肩を掴む。

 呼び掛けが聞こえたのか、少女は俺に向かって倒れこみ───。


「……ごめんな、さい」

「何言って……ムグっ!?」


 泣きながら謝って、俺の顔に顔を近付けてくる。

 それに驚く間もなく、唇に柔らかい感覚が伝わる。


 一瞬の硬直。

 そして、俺が何をされているのか理解した。


「……はぁ、…ん」

「───!?」

『コイツ……!?』


 俺の背中に腕を絡ませ、強引に体を密着させる。

 彼女の体の感触と温度、匂いが全身を駆け巡り、意識が朦朧としてくる。


 その間にも、彼女の唇は俺の唇から離れず、むしろ舌を使って内部にまで入ってきた。

 口内の体液が舐め取られ、同時に体の中にある魔力も消えていく。


 ここに来て、やっと魔力が奪われていることに理解が行き、彼女から逃げようと抵抗を始める。

 だがしかし、薄れ行く意識の中では上手く機能してくれない。


「魔力、ま、だ。足りな……」

「……ぅ、止め」


 静止の声も聞いてくれない。

 いや、そもそも今の彼女に、音を聞き取る力なんて備わっていないのだろう。


 ただ、魔力を奪い、自身を満たす。


 その事しか考えられない状態になっているのは、何となく分かる。

 呼吸する間だけ解放されて、一瞬後にはまた作業を再開された。


 性的な快楽なんて感じる間もなく、ただ力が消えていく虚無感だけが内に広がっていく。


 次第に体の感覚までもが薄れていき、俺の視界は黒く染まる。

 そして、遂に意識を手放してしまった。


 ---------------


 魔力が足りない。

 逃げている時、追手と応戦している時、冷たい洞窟で休んでいた時。

 その時に、魔力を殆ど使ってしまったのだ。


 だから、そう言う意味では彼は都合のいい獲物だった。

 でも、嫌だった。

 彼とその仲間は、傷だらけだったとはいえ私を助けてくれたのだ。

 皆の敵である、魔族()を。


「……!」

「なっ!?」


 気を遣って歩み寄ってきてくれた彼を押し倒す。

 そして、彼の首筋に口を近付けた。


 このまま歯を突き立てて、引き裂き、血を飲めば直ぐに私は全快するだろう。

 けれども、それは出来ない。


 私を受け入れてくれるかもしれない彼を殺すなんて、出来るはずがないのだ。


 震えながら堪えていると、彼が私を支えたまま起き上がった。

 彼は私の両肩に手を置いて、呼び掛けてくれる。


 それが嬉しくて。

 つい、気が緩んでしまった。

 だから、我慢が利かなくなってしまって。


「だ、め…。我慢、出来な……っ!……ごめんな、さい」

「─────!?──────ムグっ!?」


 彼が呼び掛けてくれている。

 心配してくれている。

 それは嬉しいけど、聞こえない。


 ただ、ただ魔力だけが欲しくて、私は彼に抱き着き、唇を重ねた。

 当然、それだけで満たされるわけではない。


 私の体は殆ど勝手に動く。

 これが初めての経験だったとしても、魔族としての体が本能的に理解しているのだろう。


 少し夢を持っていた筈の初めてのキスは、自分でも驚く程に淡々とした作業だった。


 彼を逃がさないように強く抱き締めて、舌を口内に這わせる。

 さながら、獲物を探す蛇のようだった。


 その内息が苦しくなって、一度口を離す。


「魔力、ま、だ。足りな……」

「──────」


 彼が何か言ってる。

 苦しそうで、今にも気絶してしまいそうだ。


 申し訳なくなるけど、欲望に突き動かされた体は止まってくれない。

 徐々に体が熱くなっていき、頭がボヤけてくる。


 そして気付いた時には、彼はその場に倒れこみ、ピクリとも動かなくなっていた。


「───ぁ、」


 生死を確かめる度胸はない。

 けれども、私が吸ってしまった魔力量からして、彼が生存している可能性は低い。


 ただ、怖くなって。


「嫌、嫌!」


 逃げ道を探す。

 こんな所を誰かに見つかったら───!


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」


 私は慌てて窓を突き破り、この家から逃げ出した。

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