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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
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46話 決着

 空気が、変わった。

 戦況は変わっていない。【常人化】に戻った俺は、そのまま【狂人化】に押されていた。

 やはり戦闘意欲に違いがあるのか、『俺』の剣は俺よりも荒々しい分、速くて重い。


 言ってしまえば、このままでは勝てないという事実も感じていた。

 だが、それでも勝たなければならない。

 勝てない相手にこそ負けられないなんて、悪い運命を感じてしまう。


 だからこそ、空気の変化に違和感を感じてしまう。

 勝てない戦いであるにも関わらず、どうして『雰囲気が変わる』のか。


『そろそろ、か』

「……?」


『俺』が諦めたような、待ち焦がれていたような顔をする。

 その意味が分からないまま、俺は剣で切り上げる。

『俺』は難なくそれを受け止めて、至近距離で《ファイア》を放った。


「が……!?」


 反応出来ずに直撃。

 地面を数回転がってから立ち上がる。

 構え直す頃には、既に『俺』が目と鼻の先に居て剣を振り上げている。

 属性付与魔法はまだいいが、剣の直撃は致命傷だ。


『さぁさぁさぁ!精々凌げよ?』

「なん、か!」


 なんか、『俺』のキャラがおかしくなっている気がするが、それを気にしている場合ではない。


 咄嗟に剣を振って応戦するが、助走を加えた力に勝てるはずもない。

 数回打ち合った後、とうとう剣が弾かれてしまう。


『これで終わり、だな?』

「くっ…。まだ!」


 剣がないなら魔法で応戦するしかないと判断し、【妖人化】を起動しようとする。

 だが、遅い。

 俺が【妖人化】を起動する一瞬前、もしくは起動した瞬間に、『俺』は俺を切り捨てることが可能だ。


 しかし、諦めることは出来ない。

 無駄だと半ば悟りつつも、俺は【妖人化】と言おうとして───、


 とある単語に、頭の中を塗り潰された。


 ---------------


 男の生涯を語ろう。

 魔法どころか魔力すらない世界。

 その宇宙の中にある小さな地球。

 その中にある小さな小さな島国。


 その国で、彼は生まれた。

 何の変哲もない、極普通の男の子である。


 初めてソレを見た時から、彼はソレに心惹かれたのであろう。

 画面上に映る全く別の世界。

 見るものが見れば、それはただの玩具であり、取るに足らない夢物語。現実味は全く存在していない。

 しかし、いやだからこそ、彼はソレにのめり込んだ。

 作られた話、「魔法」という未知の力、奇怪な生物、そのどれもに心奪われた。

 別段、彼の実生活が悲惨なものであったという訳ではない。

 ただ、そこにある幻想を、どこかにある真実を覗くかのようにやりつづけただけだ。


 しかしながら、ソレが幻想であることも、彼は理解していた。

 だから、機械的な作業を続けたこともある。

 永遠と同じ動作を繰り返すことで技が強くなるならば、それを数時間繰り返した。

 何かを殺すことで物語が進むのであれば、それをさも当然のように殺した。


 さて、話を戻そう。

 彼にとって『ゲーム』は、趣味であり夢であり、希望であると同時に作業でもある。

 生活の大部分を担う『ゲーム』の存在は、彼の人生を象徴していると言ってもいい。


 つまり、当然だったのだ。

 彼───青原遊夢の本質が『ゲーム』に関連していることなど、考えるまでも無かったのだ。

 そして、遊夢のゲーマー部分をメインとする、つまり「ゲームしか考えられない人間」を表す言葉を、遊夢はこう覚えている。


 ──────『廃人』、と。


 --------------


 一瞬よりもなお短い暗闇から、意識が返ってくる。


 目の前には、剣を振り下ろそうとしている【狂人化】の姿。

 あと0.5秒以内に、アレは正確に俺の頭蓋骨を引き裂くだろう。

 だが、その程度だ。

 予測出来ている。打開策は既にある。

【狂人化】を理解している。自身の実力を正確に把握している。


 なら、十分だ。

 100%、俺は勝てる。


「……」

『あぁ、くそ!』


 上下左右前後どこに逃げようとも避けきれない。

 それを把握している俺は、【狂人化】の手首を掴むことで受け止める。

 最悪のパターンとして、【狂人化】の手から離れた剣が俺を貫くことも考慮し、アイツが剣を離さない程度の加減で掴む。


 手を掴まれるとは思っていなかったのか、【狂人化】は僅かに動揺する。

 その隙に距離を取り、今必要な幻想を用意し始めた。


(足りない、足りない。あれもこれもそれも何もかも)

『何でこのタイミングで入ってくるかなぁ!?』


 仮想HP、MPゲージを作り、『輪廻の森』のマップを地図のように展開。俺と【狂人化】の位置情報をマーキングする。

 今までの戦闘状況を解析し、【狂人化】の疑似戦闘パターンを63程推測。

 その間にも、俺は俺の体から視点を外していき、よくある3Dアクションゲームのような視点を作り上げる。

 あとは痛覚や緊張感などを出来るだけシャットアウトして、【廃人化】戦闘スタイルの完成だ。


「ゲームスタート」

『そんじゃ、俺も本気で行くぞ。【狂え】!』


 勝利条件:【狂人化】の打倒

 敗北条件:青原遊夢、セティ・セイクレッド、アグニ・ヴィストいずれかの死亡

 報酬  :【狂人化】の制御権、『青原遊夢』の主権


 脳内でクエストを作る。

 これといった効果は無いが、気分的な問題だ。

 さて、ゲームスタートといこうか。


 ---------------


 そこからの戦いはレベルが違った。

 今までの戦いが小手調べであったかのように、段々と勢いが増していく。


 狂った空間を縦横無尽に駆け回る二人の遊夢。

 オリジナルである【廃人化】を遊夢、別人格である【狂人化】をユウムとしよう。


 現在、この空間には【方向性の逆転】がかかっているため、前後、左右、上下のそれぞれの運動が逆転している。

 それは生命体や生命体から発せられる魔力にしか作用しないものだが、遊夢には十分過ぎる程に脅威であるはずだ。

 にも関わらず、遊夢は普段通りに動き回ることが出来ている。

 何故か?


 理由は単純。逆転したのなら、行きたい方向と逆に動けばいい。遊夢はそれを実行しているだけだ。


 しかしながら、それは簡単に出来るものではない。

 ゆっくり歩くならまだしも、素早く駆け抜け、止まり、咄嗟に回避するなど、逆転された世界で出来る筈もない。

 それを覆すのが【廃人化】の能力である。


 全てを解析し、計算し、適応する。

 これが【廃人化】の真価。


【獣人化】のように身体能力が上がる訳でもない。

【妖人化】のように魔力行使に長ける訳でもない。

【狂人化】のように万物を狂わせられる訳でもない。

 身体的な強化はされず、不可思議な能力も得られない。


 それでも、その洞察力や判断力、演算能力は他の追随を許さない。

 例え、自分自身が相手だとしても。


「それだけか?もっと理不尽でもいいぞ?」

『お前の方がよっぽど理不尽だっ!』


 遊夢の手に魔力が込められ、地面に叩きつけられる。

 魔力の波紋は周囲に広がり、とある魔法を発現させた。


「《金壁》。そして、《土の球(マッドボール)》」


 金属で出来た壁が四方を囲む。範囲は10m²で、上は開いているので光源は確保されている。

 その中に居るのは遊夢とユウムのみ。

 アグニとセティ、戦闘能力がない【狂人化】は傍観に徹している。


 壁を展開した後、遊夢は魔力球を六つ創りだし、それを壁に向けて放った。

 それは別々の壁に、別々の角度で、別々の回転をしながら壁を反射し、ユウムを追いかける。


『はぁ!?』


 ユウムの行動を先読みし、それを考慮した上で放たれる反射の球は、まるでユウムを追尾しているかのように見える。

 当然、《土の球》には追尾性能などありはしない。

 反射性能も、本来なら然るべき集中力と魔力コントロールを必須とするはずだ。


 しかし、常に限界以上集中している遊夢にとっては、この程度の芸当は造作もない。


 遊夢はユウムに向けて真っ直ぐ走る。

 当然のように球が遊夢にも迫るが、彼は全く動きを緩めない。

 何故ならば、それらは全て遊夢を素通りするからだ。


『反則だな、おい!?』

「まさか」


 至近距離での戦い。

 遊夢が【廃人化】となってから何度も行ってきた斬り合いはしかし、今回に限り一方的だった。


『【狂獣化】!』


 ユウムは同じ身体スペックで戦うことを放棄し、今出来る全力を以て斬りかかる。

 《電光石火》も乗せたそれは、防御したとしても遊夢を吹き飛ばすことが可能だろう。


 しかし、受け流してしまえば問題ない。

 そこから生まれた、【常人化】が突けないレベルの小さな隙を、【廃人化】は見逃さない。


「終わりだ」

『あー……』


 剣を振り、首が跳ねられる。

 ユウムは少し笑いながら、この場から姿を消した。


 ---------------


「【常人化】………..ぁ」


 戦いが終わり、【廃人化】を解く。脳内に展開された変なパラメーターも、外側から観察するような感覚もない。

 だが脳を酷使し過ぎたのか、異様な眠気に襲われる。


 セティとアグニの下に歩いていくが、足元が覚束無い。

 というよりは、だんだんと感覚が消えていっている気がする。


「···ユウム!?」

「ユウ君!?」


 声のようなものが聞こえてから、自分が倒れた事に気が付く。

 既に視界はボヤけていて、このまま自分が死ぬんじゃないかとも思えてしまう程だ。


『まぁ、【廃人化】を5分も維持したんだ。こんなもんだろ』

(おま、え)

『いやいや、流石に完全消滅はさせられねぇよ。だがまぁ、これで俺はただの【狂人化】だ。お前が望むなら……って、後にするか。眠いだろーし』


 自分の声すらも鬱陶しい。

 俺は眠気に抗わず、意識を手放した。

【スキル】解説


【廃人化】

『青原遊夢』の本質である『ゲーム』の力をその身に宿す。

異常なレベルで観察力、適応力などが強化され、本人はゲームをしているような感覚に陥る。

そのため、【廃人化】起動中は感情が希薄になる。

解除後は負担が一気に頭に来るため、実質行動不可能になる。


※『ゲーム』である以上、「目に入るものしか見えない」という法則に囚われる必要はなく、そのため自分の後ろも完全に把握可能。ただし範囲は狭い。

仮想HP、MPゲージを作る意味は、普通なら全くない。だが、『ゲーム』を再現するための力なので、無いと本来の力を発揮できない。

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