3話 懐かしき再開と神の願い
神殿に入ると、中の空気が外のそれとは全く違うことが感じられた。比喩ではなく本当に、体に感じられる魔力の質が違うのだ。
慣れないものがしばらくここに居れば、それだけでこの場の魔力にあてられて、気分を崩しそうだ。
俺は『輪廻の森』で慣れてるから、あまり問題ないが。それはラックさんも同じなのだろう、何ともない様子で歩いていく。
「おーい!例の奴を連れてきたぞー!」
「え!?」
ラックさんがタメ口で叫ぶ。それは兵士的に大丈夫なのか?それを俺が指摘しようとすると、
『あははっ。君面白いね!神に敬意をはらわないなんて!』
「お前はっ、誰だ!?」
何処からともなく声が響き、その声の出所に向かってラックさんがナイフを投げる。
そのとき俺は、その声に対して違和感を感じていた。
(何処かで聞いたことあるんだよなー。何処だっけ?)
「あぁそうだ。この世界に来て、過ごした感想を教えてよ。遊夢」
「あ!?お前はあのときの!」
「いつの間に!?」
気が付けば、全身黒ずくめの白髪少女が俺の目の前にいた。
…………思い出した。こいつは神だ。名前は知らないが、俺を転生させた張本人だ。そんな俺の様子を見て、少女は俺に話しかける。
「思い出してくれて、僕は嬉しいよ。それで、この世界で過ごした感想は?」
何でここにいるのか、お前が俺を呼んだのかなど、聞きたいことはあるが、流石に質問を質問で返すのはどうかと思うので、素直に答える。
「まぁ、悪くはなかったな。おかげで『彼女』に出会えた。ありがとう」
「どういたしまして。………うん、なかなかに強くなってるね。いつか君と闘いたいなぁ。そこの兵士さんもこの世界では十分強い。誇っていいよ」
「俺のナイフ弄りながら言っても説得力が無いんだが」
ラックさんのナイフを弄りながら、少女は笑顔を浮かべる。どうやら闘いが好きなようだ。
若干自信を無くしているラックさんを放置して、俺は少女に質問する。
「で、なんでここに居るんだ?」
「楽しそうだからね。あ、大丈夫だよ。許可は取ってるし、代役も居る」
「お前が俺を呼んだのか?」
「半分正解、かな。僕は君を推薦したけど、決めたのはマリーだから」
取り敢えず、あの空間は心配ないことと、こいつが俺に今も関わってることが分かった。他に知りたいことは……こいつではなく、マリーって神(多分)に聞くべきだろう。
「じゃ、着いてきてよ。マリーの所に連れていくから。そこの兵士さんも」
「あ、あぁ、分かった」
暫く歩くと、大きな椅子がある広間に出た。こう、The王の間って感じの。
…………こういう時にゲームな例えしか出来ないのは、なんかあれだな。馬鹿になった気分だ。
王の間のイメージと違うといえば、カーペットではなく、なんかの石(大理石?)であることと、赤ではなく、全体的に白色であることだ。
うん。絶対居るな。個々だけ魔力の質が桁違いだ。村人Aとか来たら即気絶するんじゃないか。大げさかもしれないが。
『あら?ラックやリエイトはともかく、初めて見る貴方も分かりましたか。リエイトが期待するだけはありますね』
「まぁね。僕が推薦するだけはあるでしょ」
何処からか女性の声が響く。俺の正面にある椅子から聞こえた気がするが、姿は見えない。
………姿を隠すのが好きなのか、隠密の神なのか、はたまた俺を試してるのか。
取り敢えず話を進めたいので話しかけることにする。
「あのー、その椅子の近くにいるのは何となく分かってるので、そろそろ姿を見せてくれませんか?えーと、マリー様?」
『…………』
あれ、俺は何か不味いことを言っただろうか?何となく正面から漂う気配が重くなった気が……。
『リエイトっ!貴女ですね!ちゃんと名前で呼びなさいとあれほど………』
「いやーゴメンね。いつもの癖でさ」
「うぁっ!?」
気が付くと、俺のすぐ隣にいる少女の目の前に、金髪金眼の大人びた女性がいた。
この少女といいこの女性といい、誰かの目の前に現れるのが好きなのだろうか?
どうやらこの女性は「マリー」と呼ばれたことに怒っているようだ。
きっとあれだな。「マリー」っていうのはあだ名なのだろう。なんで嫌なのかは分からないが。
そんなことを考えていると、女性が少し距離をとり、俺の方を見る。
『先ほどはお見苦しいところをお見せしました。私はマリアです。』
「お気になさらず。俺はユウム・アオハラです」
そう言って、軽くお辞儀されたので、釣られて俺もお辞儀することになった。これも日本人の特性なのか?
お辞儀も様になっていて、まるで何処かのお嬢様だ。言葉にも、神の威厳らしきものを感じる。その様子を見た少女は口を開く。
「改めて、僕はリエイトだよ」
「あぁ、うんやっぱり」
「流れに乗らないのもアレだしな。俺はラック・ライカーだ」
少女の名前とラックさんの本名も分かった。というか、リエイトからは神の威厳らしきものを感じない。なんでだろうな?それはあとで聞くとして、マリア様に質問をするために、俺は一歩前に出て口を開く。
「それで、マリア様はなんで俺を呼んだのですか?(いや、リエイトが推薦したというのは分かっているのか)すみません。質問を変えます。マリア様が俺を呼んだ目的はなんですか?」
「意味はあまり変わってないよね(ボソッ」
「俺も思う(ボソッ。「言い方を変える」のほうが正しいな(ボソッボソッ」
「………」
………いや俺は何も聞いてない聞こえてない。後ろに二人は何も言ってない。そう、気にするな。気にしたら負けだ。
………………失敗したなぁ………。
マリア様は本当に気にしてないのか、何事もないように話そうとする。
本当にありがたいです。
『貴方たちを呼んだのはほかでもありません。私の望みはただ一つ。』
「…………」
ゴクリと息を飲む。マリア様から漂う気配が、より一層強力になったからだ。
周りを見る余裕なんてないが、多分リエイトだけは笑っているのだろう。
マリア様が、口を開く。
『貴方たちに、邪神を討伐してきて欲しいのです』