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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
35/125

34話 魔族

「はぁ、はぁ」


 私は森の中を走っていた。後ろを振り返ると、友達だった魔族の男の子が私を殺そうと剣を持っている姿が見える。


「ねぇ、やめて!?」

「黙れ、裏切り者!レイダー様のご恩を忘れた愚か者が!」


 レイダーと言うのは、私たちを助けてくれた神様の名前だ。

 だけど、あの人は最近何かおかしい。

 まるで何かの糸に操られているかのように、世界を滅ぼそうとしているのだから。


「こんなの、こんなのおかしい!こっちから歩み寄れば、きっと分かり合うことだって……」

「無理だな!何より我々が、それを望まない!」


 彼の手から闇の魔力弾が放たれる。私は転がってそれを回避する。その時、茂みに飛び込んで身を隠した。

 しかし、完全には避けきれずに魔力弾は私の腕を撃ち抜いた。

 あまりの痛みに叫びたくなるが、それをしたら彼に見つかって殺されてしまう。私は息を殺し続けた。


「どこだ!?……まぁ、いいか。俺の【スキル】が有る限り、アイツの傷は治らない。だが……うん。ここら一帯を壊すか」


 そんな物騒な事を言うと同時に、彼が魔力を溜める。そして、呟いた。


「《闇の槌(ダークハンマー)》」

「……っ!?きゃぁぁぁああ!?」


 その瞬間、凄まじい衝撃音と共に足場が崩れ、私は下へと落ちていった。


 ---------------


 ナチュルとの修行から数日後、俺たちは新たな依頼を受けようとしていた。

 内容は、『鉱石の魔窟』に潜む魔物の制圧だ。

 どうやら定期的に魔物の討伐作戦が行われているようで、潜んでいる魔物の種類や強さなどの事は把握されている。


 人型魔物は、ゴブリンやオークなど。獣型魔物ではホワイトドッグやマナウルフが出てくるらしい。

 ゴブリンは緑色で武器を振り回す小さい人型。オークは顔が豚のようになっている大男で、得物はない。もしくは槍だ。

 ホワイトドッグは文字通り白い犬。他に特徴を上げるなら、目が真っ赤であることだな。マナウルフは、微弱ながらも魔法を使う黒い狼だ。魔法の属性は個体ごとに違うらしい。


 この情報は、今馬車を動かしているライドさんから教えて貰った。

 ナチュルは休みらしい。恐らく、ラックと魔物の討伐任務にでも行っているのだろう。


「今頃、上手くやってるかな?ナチュルは」

「……?何か言った?」


 問いかけてくるユートを無視して、俺は目を瞑った。

 ……そう言えば、俺たちが受けたのも魔物の討伐だよな。


 ---------------


「……『アザーファル』か。最近どうだ?」

(案の定か!?)


『鉱石の魔窟』は、『魔の森』と言う森の下に位置している。

 正確に言えば、『魔の森』の崖の下に『鉱石の魔窟』が掘られているのだが。

 そして最近崖崩れがあったらしい。何があったかは未だ不明だが、誰かが争ったと考えるのが一番有力な説だ。


 そんな『鉱石の魔窟』前にて、ラックとナチュルに遭遇した。

 どうやら、彼らもこの依頼を受けていたらしい。

 俺はラックの問いかけに答えた。


「最近は、問題ないな」


 最近やったことと言えば、盗賊団討伐をを始め薬草採集や馬車の護衛ぐらいだ。

 と言っても、薬草採集も馬車の護衛もこれと言って特別なことはなかったが。


 俺の言葉を聞いたラックは笑いながら俺に近付き、肩を軽く叩いてきた。


「問題ないのは良いが、ちゃんと修行もしておけよ?いざとなったら俺が闘ってやる」

「機会があればお願いします」


 強い風が吹くと同時に、洞窟の中から魔物の声が聞こえてくる。

 それを聞いた俺たちは、洞窟に向かって歩を進めた。


 よく考えれば、洞窟に入るのはこの世界に来てからは初めてだ。

『輪廻の森』は文字通り森で、洞窟なんて無かったし、『王都グランド』に来てからも、村や草原、森には行ったが洞窟には来てなかった。

 改めて、洞窟の入口を見る。そこからは絶えず魔物の唸り声が響いていて、不気味さを感じずにはいられない。心情的な意味でも戦闘的な意味でも、夜は近付きたくないものだ。


 ふと、周りを見る。皆、静かに前を見ていた。

 当然ではあるかもしれないが、浮わついたりソワソワしたりしている人は誰もいない。これが、この光景こそがこの世界の常識なのだろう。


「······どうかした?」

「いや、何でもない」


 セティと目が合う。

 小柄でか弱そうなこの少女も、目の前の闇に恐れを見せる様子はない。

 それに少し驚きを隠せないでいると、視界の外から肩を叩かれる。振り向くと、アグニと目が合った。


「どうしたの?セーちゃんの事をじっと見て」

「まぁ、ちょっと前世の知識が、な」


 周り、特にナチュルに聞こえないように気を付けながら、俺はアグニの問いに答える。

 アグニは俺のことばを聞くと、少し不満そうな顔をした。


「よく分からないよ、ユウ君」

「分からなくてもいい」


 魔物なんて存在が居ない世界。夜を異常なまでに明るく照らすことが出来る世界。そんなものを教えても、意味はない。

 仮に話しても、皆を動揺させるだけだろう。


 そんなことをしている間に、俺たちの周りは暗くなっていた。

『鉱石の魔窟』の中に入り、進んでいるのだ。

 先頭には、松明を持って進んでいるラックがいる。炎が揺らめくと同時に光も揺らぎ、安定しない。


「………来るぞ。多分三体だ」


 唐突に、ラックが呟く。その瞬間に、3つの影が俺たちに襲いかかってきた。

 そのどれもがマナウルフ。苦戦するか?と一瞬思った。


 ……だが。


「《炎の球(ファイアボール)》」

「《風切》」

「《風の槍(ウィンドランス)》」


 ラック、エストレア、ナチュルの魔法で一掃されてしまった。


「じゃあ、行くぞ」

「……はい」


 もしかしなくても、俺の出番は無いのかもしれない。


 ---------------


 結論から言おう。

 俺の出番は無かった。あの後も沢山の魔物が出現して、俺たちに襲いかかってきたのだが、全てラックとナチュル、エストレアの魔法によって消し飛ばされてしまったのである。

 今更だが、難易度を見誤ったかもしれない。こんなに圧倒的なら、折角の【妖人化】が試せない。


 そんなふうに依頼の選択を後悔していると、最深部が見えてきた。

 だがそこで俺たちは、今までとは違う魔力を感じ取った。


「これは……!?」


 弱っている。少なくとも、俺はそう感じ取った。

 それはラックやナチュル、エストレアにセティも同じだったらしく、口々に意見を述べ始めた。


「……弱ってるな」

「あぁ。質は高いが量は少ない。典型的な衰弱だ」

「種族は分からないけど、あんまり感じ覚えがない魔力ね」

「···これ、多分······魔族」

「……セティ?本当に、魔族なのか?」


 セティへの声が少し冷たくなっていることに気付き、俺は少し驚いた。

 まさか、魔族=敵だという考え方をしてしまうとは思わなかったのである。


「······大丈夫?」


 セティもそれを察したのか、俺を心配するように声をかけてくれる。

 正直言って微妙だが、それを悟られる訳にもいかない。俺は無理に笑顔を作って、セティの頭を撫でた。


「いや、俺は全然大丈夫だ」

「······嘘ばっかり」


 その時にセティが何か言った気がするが、よく聞こえない。

 無理に聞き出すのもよくないと思った俺は、前を見つめる。

 俺の目には何も見えない。ただ、奥に大きなスペースがあることを何となく感じ取れるだけだ。

 この先に、鈴音を殺したアイツと同質の存在がいるなんて、とてもじゃないが思えない。


『……助、けて』

「皆、何か言ったか?」


 今、微かにだが、助けを求める少女の声が俺の耳に届いた。

 その声はとても苦しそうで、助けを求めるというよりかは祈っているという方が正しい言い方なのかもしれない。


 俺は皆に呼びかけるが、全員首を小さく横に振った。

 獣人であるアグニも聞こえていないなら、この空間に声が響いたわけではないだろう。

 だが、それでも俺は確かに声を聞いた。それはきっと、間違いない。


『……助けて』

「……奥からか」


 今度は、奥から声が聞こえてくる。その声もさっきと同じく、弱っているためなのか怖がっているためなのか、震えていた。

 だが、誰もその声に反応を示さない。きっと俺にしか聞こえていないのだろう。


「行こう、皆」


 結局、俺にはそうとしか言えなかった。


 ---------------


 ───助けて。

 冷たい石の床が私の頬を冷やす。

 洞窟の中は暗い。それを不備に思うことはないけれど、それでも光がないと冷たいし、寂しいし、怖い。


 ───助けて。

 どれくらいの時間が経っただろうか?

 1日や2日の気もするし、一週間以上経っている気もする。

 全身が痛くて、それ以外の感覚もあんまり無かった。冷たいこと以外は感じない。


 その時、七人の人たちが近付いてきているのが分かった。

 多分、どれも魔族じゃない。彼らは、集団で行動しようとしないから。


 ───助けて。

 でも、その七人の人たちは私を助けてくれるだろうか?

 私はそうは思ってないけど、彼らは違う。魔族とそれ以外の種族は敵対しているのだから。


 今、ちゃんとした意識があるかも怪しい。

 それすらも分からないくらいに、この場は暗かった。それが不安を増長させる。


「やっぱり魔族か」

「ちょっと待って。この子、凄い傷だよ!?」

「……魔族、なのか。この子が?」


 七人の人たち。皆の気配は……悪い物じゃない。

 私に対して警戒心は抱いてるけど、それだけだ。別に私を殺そうとしている訳でもない。


 ただ、一人を除いて。

 その人は、狂ってる。表面上は普通だけど、心の奥では何か大きな狂気と殺意を抱えていた。

 その一部分が、私に向いている。魔族に恨みでもあるのだろうか?


 もしかしたら、誰か大切な人を魔族に殺されたのかもしれない。


 そこまでだ。そこまで考えた所で、私の意識は更に黒く染められた。

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