28話 家でのハプニング
「結構、でかいな」
「トーラさん、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「······ここが、家?」
「さっさと入らない?」
「一応、最低限の家具は私の家から持ってこられるけど……」
今、俺たちの目の前には、それなりに大きな家が見えている。まぁ、そもそも王都自体が大きいので全ての家の大きさから見れば寧ろ小さい方だろうが、それでも六人で住むには十分過ぎる大きさだ。
……と、家の大きさについて大雑把に言った所で、次は俺がアグニから聞いたことについて語っておこう。まず、この世界の家族構成は、家族だけじゃない。……分かりにくい言い方になってしまった。俺が言いたいのは、ただ単に子供、親、祖父母だけじゃなく、親戚や中の良い人間と同居することも珍しくない、ということだ。地球的に言えば、王都全体が寮生活をしていると言った方が分かりやすいだろうか?
勿論、それだけだと様々な不都合が起こる。その詳細は省くが、一部の人間しか家に居られないこともあるだろう。その為、家だけでなく宿も多いらしい。主に一人で住む場合は家ではなく宿が一般的なようだ。そういう意味では小さいながらも自分の家を持っていたアグニはそれなりに珍しい部類になる。
「······ユウム、行こ?」
「あ、あぁ。そうだな」
セティに声をかけられて、俺は意識を目の前のドアに移す。そしてナチュルさんから貰った鍵を取り出して、後ろにいる皆に声をかけた。
「じゃあ、開けるぞ」
「早くしなさいよ」
「ユウ君。早く開けなよ」
「………はぁ」
こういうのは初めてなので、地味に緊張する。どうやら皆はそうではないようで、早くしろと急かしてくるのだが。ここは静かに頷いて欲しいなぁ、なんてどうでもいいことを考えながら、俺は鍵を鍵穴に差し込んだ。そして、右に回してそのまま一周させる。すると、ガチャ、という小さな音が耳に入った。鍵は空いたと見るべきだろう。俺はそのままドアノブを捻り、押した。が、開かない。今度は引いてみる。だが、それでも開かない。
「………あれ?」
「······どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
まさかと思い、横に引いてみた。すると、ガラララという音を発てながら、ドアが開いた。それを見て、思わず言葉を失う。後ろを振り返ると、皆が皆それぞれの反応を示していた。
ユートは驚き、セティは無表情、エストレアは苛つき、アグニは笑み、トーラは疑問といったものだ。
それに対してどうすれば良いか分からずに、俺は自分でもひきつっていると分かる笑みを浮かべてこう言った。
「……と、取り敢えず中に入ろうか?」
俺と同じく微妙な表情を浮かべている仲間を連れながら、俺たちは家を見て回った。
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結論から言ってしまえば、あの玄関を除いて家の中はごく普通だった。ファンタジー世界であるにも関わらず、何故かガスコンロ(のような装置)、蛇口など近代的なものが沢山あり、生活の利便性は地球での生活と大差なかった。そういう意味では、『輪廻の森』での生活は遅れていたのかもしれない。
ただまぁ、当然ではあるが完全に地球、いや、日本と同じかと問われると、そうではない。さっき言ったコンロや蛇口は、少ないながらも魔力を流す必要がある。ただ、蛇口やコンロが魔力を炎や水に変換してくれるので、《ファイア》や《ウォーター》を使うよりも少ない魔力消費で済む。お陰で余程酷く使わなければ、体調を崩すということも無さそうだ。そして、掃除機などのあまりに文明的過ぎる物も無い。そこは箒や雑巾で済むから、改めて技術を発展させる必要は無かったのだろう。他にも存在しない機器などもあると思うが、それは家具を揃えようとすれば分かるので、今気にする必要はない。
「······ユウム?···どうしたの?」
「あー、いや、足りないなって」
「家具のこと?それなら、ある程度は私の家にあるけど?」
「それもそうだけど…いや、何でもない。じゃあ、アグニの荷物を取りに行くか」
そんな感じに日本との差を感じていると、セティから疑問が投げ掛けられた。俺はそれに対して思った事をそのまま言ってしまう。それをアグニが少し勘違いしてくれたので、それに乗じてアグニの荷物を取りに行くことにする。まぁ、詳しく聞かれれば正直に答えるつもりではあるが、異世界の技術なんてそう易々と伝える訳にも行かないだろう。………仮に伝えたとしても、仕組みとか全然知らないから却って話をややこしくするだけだしな。
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アグニの荷物を取りに行き、持ち帰ってきて家に設置してから俺はまた現代日本との差を実感した。言ってしまうと、冷蔵庫や電子レンジ、洗濯機などもないのだ。まぁ、代わりに一定量の魔力を込めることで一定時間箱の中を冷やすことが出来る「クーラーボックス」とクーラーボックスとは逆に箱の中を温めることが出来る「ヒーターボックス」、それと昔ながらの洗濯様の桶とギザギザの板なんてものがある。因みにこの桶も、水を入れてから魔力を込めることで簡易的な《浄化》の魔法が発動するようになっている。この説明を受けて、改めて「魔法ってスゲー」と思った。
一通り家も見たので、俺たちは個室がある二階へと上がっていった。理由はただ一つ。部屋割りを決める為だ。
………当然、俺とユートが同じ部屋なのは前提だが、女性陣は色々組み合わせがあるわけだし、どの組がどの部屋に入るかも決めないといけないしな。
そういう訳で、今俺たちは連続して並んでいる三つの部屋の前に居る。そして、何時もの如く俺が話を始めたのだが………
「じゃあ、誰がどの部屋を使うか決めるぞ」
「といっても、僕とユウム君が相部屋なのは確定だけどね」
「別に私は良いよ。ユウ君となら」
「いや、色々問題がだな……」
「酷い!あの時は一緒に夜を過ごしたのに!」
「え!?あんた女と一緒に寝たの!?」
「···ゆ、ユウム······?」
「違う!多分誤解だ!」
……少しふざけたアグニによって話がややこしくなってしまった。それによってエストレアが叫びながら信じられない者を見るような目で俺を見て、セティは俺がナニかしたと思ったのか、そのまま俯いてしまった。ユートは少し呆れた顔をしながら、俺を見て驚愕しているトーラに何かを話していた。多分、俺のフォローをしてくれているのだと思う。
……そうだよな?
「ま、まぁ兎に角だ。俺とユートは同じ部屋。これは決定事項だ。どの部屋かは後で決めるとして、先ずは女性陣の相手を決めてくれ」
「······分かった」
そう言ったあと、女性陣は話し合いを始める。だが、それもそんなに時間はかからず、直ぐに相手は決まった。
そのあとにどの組が部屋に入るかをジャンケンで決めて、俺たちは部屋を確認することにした。
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「普通、だね」
「やっぱり入口だけがおかしかったんだな」
部屋に入る。その時に真っ先に目に入ったのは、部屋の左奥にある二段ベッド。その次には、ベッドの向かい側にある二つのクローゼットがその存在を主張していた。と言っても、それ以外には壁にある窓くらいしか無いのだが。
俺は部屋の中を進んでからクローゼットを開ける。どれだけのスペースがあるか確認したいからだ。
だが、クローゼットの中には、俺の予想外の物があって…….
「………….呪ッテヤル」
「……….」
白い浴衣的なものを着た髪の長い女性と目が合い、俺は無言で扉を閉めた。
うん。大丈夫。俺は何も見ていない。見ていないといえば見ていない。Are you OK?
気のせいだと信じて、もう一度扉を開ける。すると、さっきの女性の姿はない……
「呪ッテヤルゾォォォオオオ!!」
「………」
なんてことは無く、俺はまた無言で扉を閉めた。心無しか、女性の声が怒りを帯びていた気がする。
その叫び声を聞いたのか、ベッドに座っていたユートが俺に話しかけてきた。
「ユウム君?さっきの声って何?」
「何って……」
「きっと来る」的なアレだろ。
そんな事を言っても通じないのは理解出来ているので、俺は何も言えずに言葉をつまらせる。
それをどう思ったのか、ユートはこちらに近付いて、俺が触ったクローゼットの扉を開けた。
その時だった。
「呪ッテヤルゥゥゥウウウ!!」
「うわぁ!?」
「不味い!?」
怒号と共にさっきの女性がクローゼットから飛び出して来た。俺たちは反射的にそれを避けるが、女性はとてつもないスピードで部屋の中を縦横無尽に駆け回っている。これでは普通に捕まえるのは難しそうだし、かといって魔法を使えば部屋がボロボロである。
どうしようかと悩み、案が浮かばなかったのでユートに何か聞こうと話しかけようとする。が、
「ユ、ユート!?」
「ごごごゴメン……小さい頃にあんな姿の人に殺されかけて…トラウマに……」
ユートは部屋の隅でガタガタと震えていた。どうやらトラウマが復活してしまったらしい。
だが、それを女性が見逃すことは無く、直ぐ様ユートに飛びかかって行く。
「恐怖ヲヨコセェェェエエエ!」
「ひぁっ!?来ないでよ!?」
そう叫んで、ユートが腕を手刀のようにして横に振る。それはただの悪あがきのように見えるが、それに何か強大な力を感じ取った俺はその場に伏せる。女性も同じく後ろに向かって大ジャンプしていた。そして、その衝撃波は俺たちをスルーして、後ろにある壁を木端微塵にした。
「きゃっ!?壁が……!?」
「······何···!?」
「しまっ……!?」
ユートが何をしたのか?それを理解する前に、壊れた壁の向こうにある部屋がセティとトーラの部屋であることを思い出して、慌ててそちらに駆け寄ろうとする。それはユートも同じようだった。だがしかし、だ。それが不味かった。
「二人共!ぶ…じ………ゴメン!」
「セティ、トーラ!大丈夫か……うぁ!?」
砂煙が晴れてくると、着替えをしている途中のセティとトーラの姿が目に入ってしまった。
ユートは直ぐに謝り、俺は変な声を出しながら慌てて後ろを向く。だが、それでもさっきの光景は目に焼き付いていた。一応下着は着ていたようだったが、当然そういう問題じゃない。寧ろ服を脱ぎかけだったのが更に……って、落ち着け俺!?
変な妄想をしてしまいそうだったので、俺は頭を振ってさっきの光景を忘れようとする。が、それが頭から離れることは無かった。
そんな俺の様子を見て、セティが震えている声で話しかけてきた。多分顔は真っ赤だろう。
「·········み、見た···?」
「ぁうあ!?ふ、不可抗力だったんだ!?」
その声に釣られて、俺の顔も火照り、声が震える。ユートとトーラも何か話してるようだが、それに耳を傾ける余裕は無かった。そしてその焦りのせいか、すっかり誤魔化すのを忘れていた。
それでもどうにか弁解しようとして、俺はセティに向き直る。一瞬不味いと思ったが、どうやら俺がパニクってる間に着替えを済ませていたようだ。その事実に少し安堵して、俺は弁解を始める。
「いや、な。今さっき変な女が出てきて……」
「······変?」
「そ、そうだ。白い服を来た黒髪の女だ。そいつが俺たちを襲ってきて……」
「······その人?」
弁解……というか事実を述べ始める俺の後ろをセティが指差す。恐る恐る振り向くと、クラウチングスタートのような体勢でさっきの女性が飛び出してきた。俺は避けようとするが、後ろにセティが居ることを思い出す。女性の勢いや速度からして、きっとセティは避けられない。そう判断した俺は腰を落として女性を受け止める体勢に入る。
「ソコヲドケェェェエエエ!!」
「ぐ、ぁ!?」
人のそれを軽々と超えた力によって、俺は難なく吹き飛ばされた。このままではセティにぶつかってしまうので、無詠唱で《ウィンド》を発動。俺を横に吹き飛ばしたあと、《サンダー》を発動して女性を貫いた。
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「うるっさい!!………は?」
「何があったの?これ」
さっきからとなりの部屋が五月蝿い。そう思ったアタシはアグニと相談して、ユウムとユートの部屋に突入した。
そして叫んだあと、部屋の状況を見た私は唖然とする。
「わ、わざとじゃないんだ!」
「······分かったから······ユウム、どい、て」
「呪ッテヤルゥゥウウ。呪ッテヤルゾォォォオオオ!!」
「だから、あの人がね!」
「それとこれでは話が別です!」
まず、ユウムがセティを押し倒し、トーラがユートに説教をしていて、謎の女がユウムたちに襲い掛かるというよくわからない状況を目の当たりにした。しかもよく見れば、壁や備え付けの家具も壊れている。
アタシは取り敢えず《土の縄》で女を縛り、力の限り叫んだ。
「取り敢えず、ユートとユウム、正座しなさい!!」




