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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
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26話 遊夢の狂気、リエイトの不安

 ユウムたちが『ラウンド村』で盗賊団討伐の依頼をこなしていた頃、神殿ではマリアとリエイトが話をしていた。


『リエイト。少し良いですか?』

「…うん、良いよ。何かな?」


 何時も通りどこか真剣さを帯びない話し方で相槌を打つリエイト。それに構わずにマリアは、リエイトに相談してから話さなかったことを聞く。


『ユウムさんのもう一つの魔力について、です。何か分かりましたか?』

「……あぁ、そんなことか」


 僅かに焦りを見せるマリアの目の前で、やはり目の前の神は世間話でもするような気配で小さく返事をした。自分が切実に思っている問題に対して「そんなこと」と返されたマリアはリエイトに内心呆れながらも、そのまま話を促す。


『「そんなこと」と言うのは止めて下さい。私は切実に悩んでるんですよ』

「あははっ。ごめんごめん。じゃあ、話そうか?僕が見聞きした出来事を」


 そう言って、リエイトは『ユウムの精神世界』であった出来事について語り始めた。


 ----------------


「遊夢は…起きてないみたいだね」


 夜。遊夢たちとラック、それとウォールと戦った僕は、皆をそれぞれの自室へ運んだあとにまたもや遊夢の部屋に来ていた。その目的は、マリーの不安の種である遊夢に宿ったもう一つの魔力を調べることだ。

 僕は遊夢が寝ていることを気配感知で確認したあと、遊夢のベッドの横に瞬間移動し、目でもう一度確かめた。それで改めて遊夢が寝ていることを確認し、僕は数えるのも面倒な程の【スキル】の中の二つを使う。


「じゃあ、やろうか。【概念化】【精神潜伏】」


 僕はその身を精神体に変えたあと、遊夢の精神、この場合だと夢の世界に入り込む。そしてほんの少しの時間を経て、僕は日本のビル群と、『輪廻の森』が混ざりあった世界にたどり着く。

 その事を確認した僕は、目的の人物を呼び出す為に別の【スキル】を使う。


「【精神対話】………ねぇ、君は誰?」


 精神世界で使うことで更に【精神対話】の精度を上げる。そして、何時もの遊夢とは違う存在に向かって声をかけた。丁度そのタイミングで遊夢がこの世界に来る、つまり遊夢が夢を見始めた気配を感じとるが、無視することにする。仮に遊夢に害があることが起こったとしても、多分『遊夢』がなんとかしてくれるだろう。

 そんなことを考えていると、一見何も無い空間から声が聞こえてきた。その声はやはり遊夢の物であったが、何時もの遊夢と違ってどうしようもない程の狂気を感じる。


「俺、か?俺は遊夢の狂気だな。俺が居る理由は……お前のことだし、勘づいてるんだろ?」


『狂気』の返事を聞いて、僕は小さく頷いた。実際、『狂気』が居る理由には気付いている。それは彼の望みの対象でもある環司鈴音の死が関係している筈だけど、そんなことはまぁ、いい。

 僕は『狂気』に質問する。彼の目的が、マリーの心配でもあるからだ。


「じゃあ、さ。君の目的は何なのかな?」

「目的と言っても、俺の望みは遊夢と同じだ。鈴音の復活。それしか無い」

「じゃぁ、質問を変えるよ。君は、何を企んでる?」


 きっと、この『狂気』が言っていることも嘘ではない。それは僕の【真偽判断】が告げている。だが、僕が知りたい情報はそれじゃない。僕が、いやマリーが知りたがっているのは、この存在の危険性だ。少なくとも、『狂気』が害のない存在なんて思えない。

 だから僕は威圧感を放ちながらもう一度質問する。その意志が彼に伝わったのか、彼は口を割った。でも、その声は僅かに笑っていて、僕の威圧が効いている様子ではない。


「ははっ。企んでる、か。強いて言えば思うがままに外の世界を歩いてみたいな。そして遊夢の狂気のままに、何もかもを壊したい。それこそ邪神も、仲間も、都市も。世界だって相手にしてみたいなぁ」

「……それを、遊夢が望んでるとは思わないけど」

「当然だ。流石に狂気がメインな人間なんてそんなに居ねぇよ。だがな、どんな人間にも様々な心がある。例えば、俺たちが鈴音に抱いてる恋情。お前が俺に抱いてる警戒心。セティがあの鈴に抱いてる興味。遊夢が魔族に抱いていた怒り、狂気、そして何も出来なかった自分への絶望感。ざっと思い浮かべてもこんなにある。そして、俺は遊夢の狂気の化身だ。ここまで言えば分かるだろ?」

「……うん、分かったよ。君が危険であることは。でも、僕からは何もしないよ。じゃあ、またね」


『狂気』の言葉を聞いて、僕は理解した。こいつをこのまま放っておくのは危険だと。でも、こいつを消すことは遊夢の【スキル】を封じ込めるのと同じだし、『狂気』によってもたらされる困難を乗り切れば、きっと遊夢はもっと強くなることが出来る。そう思った僕は、そのまま『狂気』に背を向けて遊夢の精神世界から脱出した。


 ---------------


『……何を、しているんですかっ!?』

「ま、マリー!落ち着い……!?」


 僕が話し終わると同時にマリーの肩が震えて、僕に向かって叫びながら様々な攻撃を放ってくる。《光の隕石(ライトメテオ)》や《光の神槍(ライトグングニル)》、《光の神槌(ライトミョルニル)》などなど、どれも説教の域を大幅に超えた、それこそ全て合わせれば『王都グランド』をただのクレーターに出来そうな威力だ。僕は【光超耐性ライトレジスト・オーバー】を起動して【魔力障壁】を張ると、残りの力を神殿の保護に回す。

 その瞬間、音にすらならなかった衝撃波が、空間に響き渡った。それと同時に、マリーの叫び声が響く。


『り、リエイトっ!?大丈夫ですか!?』

「……けほっけほっ。うん、全然平気。ちょっと痛いけどね」


 ……本当、動揺し過ぎると加減を忘れちゃうのはマリーの昔からの悪い癖だね。僕じゃなかったら木端微塵だったよ。

 そんなどうでもいいことを呟きそうになりながら、僕はマリーが怒った理由について考える。幸い僕が魔力で結界を張ったお陰で神殿には傷一つ付いていない。これなら落ち着いて頭を回すことが出来る。

 ……でも、心当たりがない。マリーの心を読んでもいいのだが、それは流石に失礼なので、素直に質問することにした。


「ね、ねぇマリー。なんでそんなに怒ったの?」

『……はぁ。良く聞いて下さいね。貴女は昔から危機意識が薄過ぎるんですよ』

「そう、かなぁ?」

『そうです。何故貴女が危険だと判断した『狂気』をそのまま放置しているんですか?完全とはいかなくても、ある程度は抑えている必要があると思いますよ』

「……あー、成る程」


 マリーの言っていることに納得した。良く良く考えれば僕が『狂気』を調べようとしたのも、元々はマリーの為だったのだ。それなのに不安の種、しかも危険極まりない『狂気』を放置したとあれば、怒りと動揺でああなってしまうのも無理ないだろう。人間相手にはラックにしか話していないが、慈愛の神に分類されるマリーにも意外と子供っぽい所があるのだ。………まぁ、過去の人間たちはそのギャップに魅力を感じてたらしいけど。

 因みに僕の分類は………と、思考が別の所に流れそうになった所で、誰かの慌てたような足音と声が聞こえてきた。


「マリア嬢!無事か!?」

『ラックさんですか。どうかしましたか?』

「それはこっちの台詞だ。もの凄い寒気を感じたんだが、何も無かったのか?」


 どうやら足音の正体はラックだったらしい。彼は慌てた様子でここまで来ていたが、何もないことを確認すると、不思議そうに僕たちに問いかけてきた。ここで自分の気のせいとは思わずに明らかな疑問の目で僕たちを見据えるのは、ラックだからこそだろう。多分ウォールや遊夢なら気のせいとかで自己完結してしまうのではないだろうか?まぁ、実際ここでちょっとした王都の危機があったのも事実なので、口をつぐんでいるマリーを放っておいて素直に打ち明けることにする。


「まぁ、ね。ちょっとマリーが本気でパニックになってさ」

『り、リエイト!?何を言って……!?』


 そう言うと、マリーが思い切り動揺する。恐らく部下に自分の失態を悟られたくないのだろう。そして、そんな挙動も僕から見れば十分に可愛らしい。ラックを見ると、動揺しているマリーを見て若干笑っていた。何時も神らしい彼女が動揺するのなんて中々見られないから、楽しんでいるのだろう。

 だが、直ぐにマリーから目線を逸らして、今度は僕の方を見る。そして、やはり疑わしそうに話しかけてきた。


「リエイト。お前またマリア嬢に何かしたのか?一体何をした?」

「……うーん、あんなことやこんなこと?詳しく聞きたい?」


 僕は一瞬『狂気』について言うか迷い、やめることにした。だから、わざとふざけて返事をする。出来るだけ変態的な笑みを浮かべて、まるで僕がマリーにアレな悪戯をしたかのような発言をした。だが、ラックは何かを悟った様子で否定の言葉を返してきた。


「…………いや、興味ないから言わなくていい」

「つれないなぁ、ラックは」

「真剣に言う気がない奴が何を言うか」


 その表情に動揺は全く見られない。遊夢だったらアレな想像を一瞬して動揺してくれるのだろうけど、意識した上で興味がないのか、そもそもイメージすらしなかったのか、どちらにしても面白くない。いつかラックが動揺した姿も見たいものだ。

 ラックが来たので、『狂気』の話はこれでお仕舞いにすることにしよう。このことを知っているのは、多分僕とマリー(神たち)だけでいい。ラックや遊夢に打ち明けても不安の種を増やすだけだ。


「まぁ、確かに他愛ない話しかしてないけどね」

「……そう言うことにしておくか」

「うん。そう言うことにしておいてよ」


 流れるように嘘を吐いてみるが、やはりラックには通じずに怪しむ視線を送られる。でも、直ぐに納得してくれた。そして僕たちに背を向けて、眠そうに欠伸をしてから自室に向かっていった。そう言えば、もう夜中だったな。全然意識してなかった。折角なので、僕も自室に帰ることにする。


「じゃあね、マリー。また明日」

『はい。また明日』


 ---------------


 部屋に入って直ぐにベッドに潜り込む。窓を見れば綺麗な月が見えた。月の美しさはどこの世界でも変わらない。それこそ、この世界も、遊夢の世界も、他のどの世界も、だ。


「まぁ、たまたま僕が見てた世界に月があっただけかもしれないけど。…………」


 そう呟いて、そのまま黙りこんでしまう。世界の終わりを想像してしまったからだ。僕たち神は運命に逆らえない。だから、人間に世界の命運を託したのだ。そうじゃなかったら僕が自分で行ってる。今代の邪神が誰なのかは知らないけど、僕より強いなんてことはまず無いだろう。それでも、勝てない。殺すことも封じることも、神である僕には出来ないのだ。


「───っ!?」


 一瞬、身震いする。もし、遊夢が失敗すればどうなる?時間の差はあれど、世界は滅びるだろう。だったら僕たちはどうなる?死ぬ。死んでしまう。それはマリーも、ラックもウォールも例外じゃない。

 視界が滲む。不思議に思って目元を拭うと、指が濡れていた。


 ─────────怖い。


 死ぬのが怖い。世界が滅びるのが怖い。マリーを守れないのが怖い。他にも色々な物が、思い出が恐怖になって僕に降りかかった。マリーよりも数十年早く生まれて、マリーが生まれたあとも長い長い時を生きた神だからこそ、死が恐ろしい。世界の管理者としてあの空間に居れば死ぬことはないけれど、自分がのうのうと生きてる間にマリーたちが死に絶えるなんて嫌だ。

 僕は【音声遮断】を発動してから、枕を抱き締める。そして、声を出して泣き始めた。


「あぁ……。うああぁぁぁぁああああ!!」


 誰も頼れない。だって僕は皆のお姉さんなんだから。マリーにだって、弱いところを見られたくない。だってマリーは僕を頼ってるんだから。マリーが泣きつけられるのは僕にだけなんだから。僕が泣いたら、マリーが泣くに泣けないじゃないか。

 外には決して漏れない叫び声が、僕の耳に響く。どれくらい経ったのか?それすらも分からないくらいに、僕は泣き続けた。

 暫くして、泣き止むと、だんだんと自分の行動が恥ずかしいものに思えてきて………僕は慌てて布団を被る。そして、顔が赤くなるのを感じながら呟いた。


「………これじゃあ、マリーのことを子供って言えないね」


 その後、僕はさっきのことを忘れようと目を瞑った。

【スキル】解説


【概念化】

その身を精神体にすることで、物理、魔法的な干渉を殆ど無効化出来る。その代わりこちらからも物理、魔法的な干渉はしにくくなる。

精神干渉や呪いを相手にしやすくなるが、その分自分もされやすくなる。

尚、一度発動すれば解除したあとも、一定時間は【概念化】発動前に比べて感情が揺れやすくなる。


※精神世界に居る場合は、その精神世界に対しては干渉可能


【精神潜伏】

体を現実世界に残して、自らの精神のみを相手の精神世界に送り込むことが出来る。

現実世界の体、精神世界の精神のどちらかが死に至るとどちらも生き絶えるので注意。


【精神対話】

相手の心を読んだり、自分の心の声を聞かせることが出来る【スキル】


※精神世界で使用した場合、相手の隠れた人格とも対話可能


【真偽判断】

相手の発言が嘘か否かを知ることが出来る。


【光耐性】(ライトレジスト)

光属性の魔力に対して高い防御性能を誇る。常時発動しているが、意識して発動することで更に効果を強力にすることが可能。


※神に準ずる者が使うと【光超耐性】(ライトレジスト・オーバー)に発展させることが出来る。


【魔力障壁】

魔力の強力な壁を作ることが可能。魔法とは違い、少ない魔力量で強力な壁が作られるのが特長。


【音声遮断】

自分が指定した領域の音をそこから外に洩れないようにする結界を張る【スキル】。

具体的な領域(部屋など)があれば更に安定する。


※《○の隕石》は《○の球》、《○の神槍》は《○の槍》、《○の神槌》は《○の槌》の発展魔法。神、もしくはそれに準ずる存在のみが扱えます。

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