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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
23/125

22話 救出

「グラァァァアアアアアア!!!」

「!?、り、リーダー、これは……?」

「心配するな!ただの獣だろう」


 突如獣のような荒々しい叫び声が響き渡り、男たちは動揺した声を上げる。だが、首領はそれでも冷静で、他の男たちを鎮めたあと、てきぱきと指示を出し始めた。それに従って十人程の男たちは先程の叫び声の下に向かい、リーダーを含む七人は取引用の男を別の場所に移して、その間に残りの三人は私をまた別の家屋に連れ込み、見張りを始めた。だが、私を見張っていた筈の男たちは、また別の行動を起こそうとしていた。


「……なぁ、もうヤってもいいんじゃねぇの?」

「ば、馬鹿かお前!見つかったらどうするんだよ!」

「エネアに賛成だな。ヤるのが一人で見張りが二人、これで大丈夫だろ?それに見つからなければそれで良いし、見つかって殺られるとしても何か得はしときたいだろ?」

「……そう、だが」

「ん──!~~~あっ!?」


 そのやり取りを聞いて、私は必死にもがく。それを面倒に思ったのか、私を抱えていた男は私を床に叩き付けたあと、私の手をロープのような物で柱に括りつけてしまった。もうこれで私は抵抗することが出来ずに、この男たちの為されるがままになってしまう。

 少しして、話し合いが終わったのか、一人の男が近付いてきて、私の上にのし掛かった。そのときに足も押さえられ、本当に何も出来なくなってしまう。そして、男は私の顔にその口を近づけて、こう囁いた。


「抵抗出来るもんなら、してみろよ」

「······っ!?」


 そのときにまた耳を舐められ、不快感が襲ってくる。だが私の頭はその男に押さえられ、ろくに動かせない。そして男はその唇を私の唇にゆっくりと近付ける。


(嫌だ、嫌だ!助けて、ユウム!)

 そしてそれが私の唇に触れる直前で············


 目の前の男が吹き飛んだ。


 一瞬何が起こったか分からずに戸惑っていると、ロープが剣によって切断されて、誰かが私を抱えて立ち上がらせてくれた。その人物の顔を見る。それは、私が望んだ、けれど想像とは少し違う姿で──────


「······ユウ、ム?」

「あぁ、俺だ。遅れてごめんな、セティ」


 私は、思わずビーストのような姿(・・・・・・・・・)をしたユウムに抱き付いた。


 ---------------


「ハァ、ハァ、セーちゃんが、危ない!方角はあっち!」

「なん…!?…どうした?息が切れてるぞ?」

「【狩人の誇り】で、聴力を限界まで強化したから、ね。だから、君が先に行っててよ」

「……ありがとう。無理はするなよ」

「そっちこそ」


 アグニにセティが居る方角を教えて貰い、俺は《電光石火》を起動した最高速度で移動を始めた。だが、ふと思うことがあったので少し速度を落として頭を回す。


(このまま行っても、大丈夫か?速度もそうだが、俺がそのまま助けに行ったら、敵がセティを人質に取る可能性がある。だったら、このまま行くわけにはいかない。何か、そうだな……人質が意味をなさない、まるで獣のようにたち振る舞えたら………獣?そうか!)

 俺はあることを思い出した。まだ一回も使ってないが、このまま移動を続けるよりかはマシだろう。だから、叫ぶ。アグニから授かった力の名を。


「【獣人化】!」


 そう叫んだ途端に、俺の中のスイッチが変わる感覚がした。頭と腰から何かが生えて、周囲の匂いや音を聞き取り安くなる。だが、その分魔力の扱いは難しくなった。


 ──────【獣人化】は、俺がアグニと闘ったときに得た力であり、獣の力をその身に宿す。そのせいかどうかは知らないが、今俺の頭の中ではとある走り方が浮かび、腕の力も大幅に上がっている。ならば、やることは一つしかない。


「行くぞ。待っててくれ、セティ!」


 そう言って、俺は《電光石火》の起動に戸惑いながらも両手両足を地面に着け、そのまま四足で走り出した。


 ---------------


 暫く走り続けると、俺の耳が誰かの声や音を聞き取り始めた。どれもこれもが男のものであり、更に耳を澄ませば誰かがもがく音まで聞こえてくる。俺は獣らしく振る舞うためと、その男たちを威嚇するために、息を吸う。そして、ありったけの力を込めて叫んだ。


「グラァァァアアアアアアア!!!」


 俺の叫び声を聞いて男たちは一瞬動揺するが、直ぐに落ち着きを取り戻す。そして、十人程の男たちが俺に向かって走ってきているのを感じ取った。暫く走り続けると、色々な装備を身に付けた男たちが、こちらに向かっているのが見える。俺は反動による頭の痛みを無視して《電光石火》の出力を上げて二足に戻してから剣を抜き、一人の男の腕を切りつけた。


「うぎゃぁぁぁあああ!!?」

「び、ビーストだ!」


 腕を切りつけられた所から大量の血が流れる。その男が悲鳴を上げ、他の男たちは俺が獣では無かったことに驚きの声を上げているが、俺はそれを無視してその場から走り去り、セティを探す為に《電光石火》で脳の情報処理能力を上げて耳を澄ました。


「………そこか」


 何かに押さえ付けられてもがこうとする誰かを俺の耳が感じ取る。確証は無いが、それ以外に手掛かりもない。だから俺はその感覚に従って移動を始めた。


 暫く走り続けると、家屋が見えてきた。その入口には、当然のように見張りが居る。俺は敢えて堂々とそいつらの前に立った。見張りは俺を見て、怪訝そうに呟いた。


「誰だお前?俺たちの仲間か?」

「………」


 声を出すとバレる危険が高まるので、無言を突き通す。すると、二人居る見張りは互いに目を合わせて、武器を構えた。そして、下品に笑いながら言った。俺の怒りを買う言葉を。


「んじゃ、こいつを倒した奴が次にあの女とヤるってことで」

「気は進まないが、良いぜ。俺もあの女は好みに入ってるからな」

「………そう、か」


 十中八九、この建物の中にセティが居る。そう思った俺は、ビーストの脚力と《電光石火》で強化された瞬発力を利用して、剣の峰で二人の見張りの首をうち据えた。最悪死ぬかも知れないが、俺の知った事じゃない。

 俺は建物の中に入ると、セティにのし掛かっている男に向けて蹴りを放った。男は予想だにしていなかった力に思わず吹き飛ばされ、地面を転がる。

 俺はそいつを無視して、セティを縛っていたロープを切ったあと、セティを抱えて立ち上がらせた。

 俺を見たセティは、俺を見て疑問の声を上げる。


「······ユウ、ム?」

「あぁ、俺だ。遅れてごめんな、セティ」


 そう返事をすると、セティはその目に涙を浮かべて俺に抱きついてきた。余程さっきの出来事が怖かったのだろう。俺はセティを優しく受け止めようとしたのだが、さっきまで走り続けていたせいか、セティを受け止めきれずに倒れ込んでしまう。

 格好つかないなぁ、と若干落ち込んでいると、緊張が解れたせいか、急激に頭が痛みを訴えてきた。それに思わずうめき声を上げる。


「う、がっ!?」

「ユウム!?······だ、大丈夫?」

「あ、あぁ。悪いけど俺の頭に《治癒(ヒール)》を使ってくれないか?」

「······分かっ······あ、これが···」


 そう呟き、セティは右腕に付けられた手錠らしき物を見せる。おそらくそれが魔法の発動を阻害しているのだろう。俺は剣を抜いて手錠を壊す。暫くすると、セティの右手から白い光が出てきて俺の頭や体を癒していった。そして、《治癒》が終わると、セティが俺を見て一言、


「······ユウム···頭、大丈夫···?」

「おい、さらっと俺が馬鹿みたいに言ってないか?」

「·········うん、本当に···ユウムは馬鹿·········」

「いや、俺は馬鹿じゃ……」

「·········ありがとう、ユウム」

「……はぁ、当たり前だ。仲間なんだから」


 馬鹿と言われた理由は分からない。そんなことよりも、セティが俺にお礼を言うときに僅かに顔を赤くしたのが気になった。俺はそれを聞こうとするが、セティは何故か更に顔を赤くして俺から目を背ける。更に分からなくなって戸惑っていると、セティの耳が何かで濡れているのに気が付いた。


「セティ?お前、耳どうした?」

「······っ!?···だ、駄目っ!」


 セティが慌てて俺から離れようとする。その顔に僅かな恐怖が浮かんでいるのを感じ取って、俺はセティを引っ張ってこちらに引き寄せる。そしてセティの耳に手を触れると、その液体の正体を確かめ始めた。


(耳、液体、粘りにこの臭い……色は、多分透明だな。そして、セティにのし掛かっていた男。つまり、これは唾液で、セティはあいつに耳を舐められたってことかな?だったら、汚れを落とさないと……)

「じっとしてろよ、《ウォーター》……ってうぉ!?」

「·········ひゃう!?」


 俺の指から冷たい水が水道のように流れ出し、セティの耳を洗っていく。だが、先ほど《電光石火》を解いた影響で集中が途切れたのだろう。加減を間違えてしまい、セティの耳どころか、お互いがびしょ濡れになってしまった。


「······ばか」

「あ、あのな、悪気は無かったんだ」


 先ほど馬鹿と言われたのを否定しようとしたのだが、これでは何も言えない。この微妙な空気をどうしようかと悩んでいると、だんだんと足音が近付いているのに気が付いた。

 俺はセティを抱えて物陰に隠れると、出来るだけ縮こまる。少しして、声が聞こえてきた。


「お、おい!女が逃げたぞ!」

「あのビーストが何かしたんじゃねぇか?」

「まぁ、必ず必要って訳じゃないし、別に良いんじゃないか?」

「良くねぇよ!あの女俺の好みなのに!」

「あーはいはい残念でしたね。それじゃあリーダーの所に向かおうか?」

「確か、周りに色々な店がある宿屋に向かうとか言ってたな」


 そして男たちはこの建物も中を確認すらせずにここから遠ざかっていった。目的地は、こいつらのリーダーがいるであろう宿屋らし………宿屋?


「って、ユートたちが居る所かよ!?」


 多分アグニも戻っているだろうから、戦えるのは三人、いや、体力が回復しきっていないだろうから戦えるのはユートとエストレアの二人で、アグニとライドさん、トーラが非先頭要員になる。この三人を守りながらでは少し厳し、い?

 俺はあることを思い出すのと、セティから不満の声が上がるのはほぼ同時だった。


「ファームさんも居る!?」

「······ユウム···ちょっと···く、苦しい……」

「…あ、わ、悪い!?」


 さっき物陰に隠れたときにセティに密着していたことを思い出して、俺は慌ててセティから距離をとる。セティは、顔を真っ赤にしながらその場にうずくまってしまった。俺も少し気まずくなり、顔を背ける。

 どれくらい経っただろうか?それすらも分からないくらいに俺は緊張していたが、セティが小さくくしゃみをしたのを聞いて、慌ててセティに近付く。さっき出力を間違えたせいで、今セティはびしょ濡れなのだ。


「わ、悪い。《ファイア》」

「······大丈夫?」


 セティは、一体何を心配しているのだろうか?それが分からなくて、俺は黙りこむ。まぁ、ユートたちのことならきっと大丈夫だろう。それよりも、今はセティが心配だ。

 俺は、空いている左腕で、注意しなければ分からないくらい僅かに震えているセティを抱き寄せる。セティは一瞬驚いたが、直ぐに俺に身を委ねてきた。自分からやっておいて何だが、少し緊張している。そのまま暫く待つと、静かな寝息が聞こえてくる。


「余程疲れてたのか……」


 まるで割れ物を扱うかのように、俺はそっとセティの頭を撫でる。すると、セティは嬉しそうに微笑んだ。


 ───俺でも、俺なんかでも、まだ守れる人がいる。

 何故か、俺はそう思えた。

【スキル】解説


【獣人化】

獣の力を身に宿す。常人と比べて筋力が上昇するが、その分魔力の使用、感知はしにくくなる。


※遊夢の【■■化】で手に入れた【獣人化】である場合、力を手に入れた相手の容姿に少し似る。今回の場合は髪と目の色がアグニと同じ赤色になり、耳や尻尾は狼の物になる。

筋力が上昇するとあるが、その中でも瞬発力や最高速度など、速さに関する能力が特に上がる。

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