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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
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20話 ユウムの悲しみ

 宿に戻ると、ライドさんが愛馬ブラウンの餌をやっていた。ブラウンはそれらを黙々と食べている。

 俺から見ればその程度にしか見えないのだが、アグニから見れば違ったらしい。


「うん。あの馬、とても嬉しそうだね」

「おぉ!分かるのか嬢ちゃん!」

「駄目だ。全然分からない………」


 アグニの台詞を聞き付けたライドさんが大きな声で返事をする。そしてそのあとアグニを手招きして、何かの話をし始めた。が、俺には全然分かりそうにない。

 それはユートたちも同じ様で、首を傾げている。仕方がないのでアグニに一声かけてから先に宿に入ることにした。中に入ると、ファームさんがせっせと床を箒で掃いていて、それを俺と同年代ぐらいの女の子が咎めているという光景に出くわした。


「おじいちゃん!もういい歳なんだから大人しくしないと駄目だよ!」

「まぁそんな事を言うもののじゃないわい。儂はまだまだ元気じゃ」

「そんな事言って、前は雑巾がけしようとしてぎっくり腰で倒れたじゃない!」

「今回は箒だから大丈夫……痛たたた、腰が……」

「だから言ったのに!?大丈夫!?」

「え、ちょ、ファームさん!?」


 その二人が何か口論をしていた。どちらかと言えば一方的に女の子が怒っているだけのように見えるが。それは割とどうでもいい。話しかけるタイミングを見計らっていると、突然ファームさんが腰を押さえて倒れこんだ。それを見た俺は慌ててファームさんに駆け寄る。ユートにも手伝ってもらい、出来るだけそっとファームさんを起き上がらせ、肩を抱えて支えたあと、俺は女の子に向かって叫ぶように話しかけた。


「ファームさんが休める部屋ってあるか!?」

「………あっ、こっちです!」


 俺の言葉が自分にかけられたものだとは思ってなかったのか、女の子の反応が遅れる。が、ちゃんと認識したあとの行動は迅速で、即座に俺たちを先導し、閉まっている扉など邪魔になるものをどけてくれた。そのお陰もあってそれほど時間はかからずにファームさんを部屋に運び込み、ベッドに寝かせたあと、最低限の治療(主にセティの《治癒(ヒール)》など)を行うことが出来た。

 そのあと、セティと女の子がファームさんは問題ないと判断した所で場所を移し、さっきまで居た入口まで来たあと、そこに置かれていた椅子に腰掛けた。

 まず俺が自己紹介しようと思っていたのだが、それよりも先に女の子が頭を下げながら口を開いた。


「おじいちゃ……村長を助けて頂き、ありがとうございます。『アザーファル』様で、したよね?」

「あぁ、どういたしまして。俺がユウム・アオハラで……」


 そのあとアグニとライドさんを呼んでから自己紹介をした。そして改めて女の子の名前を尋ねることにする。

 ……今更かもしれないが、なんで俺が進行役なんだろうな?

 そう思って口を開こうとするが、どう言っていいのか分からずに口ごもる。ファームさんのような明らかに年上の人には普通に敬語で問題ないのだが、この子のように見た目同年代の人には敬語を使うのは変だし、かといって依頼人の孫娘にタメ口で話すのもどうかと思うし……。

 そう考えていると、察してくれたのかユートが代わりに喋ってくれた。


「それで、君の名前も教えてくれるかな?」

「あ、はい。私はトーラ・ノーレです。村長とは違って普通の村人なので気安く話しかけてきてくださいね」

「うん、ありがとう。それなら君も、僕たちに対して下手に気を遣わなくていいからね」

「いいえ。他人にはこの話し方なので、何も心配要りませんよ」


 そう言うが、トーラの顔には僅かながらも笑みが浮かんでいる。ユートと話したことでトーラの警戒心が薄れたようだ。まぁ、俺と違ってユートは優しそうだし、良くも悪くも何か隠してるような感じはしないから、それも納得だろう。

 勝手にそう思って、俺は何となく天井を見つめた。

 そのまま、暫く沈黙が続いて天井を見つめるのにも飽きてきた。何か話題がないものかと辺りを見回そうとしたのだが、その時に何故かずっとユートを見つめているトーラを見つけたので彼女に話しかけることにする。


「なぁ、トーラ。ユートの顔に何か付いてるのか?」

「え!?本当!?」

「っ!あ、いえ、そうじゃなくてですね。ただユートさんの顔が、まるで女性の顔のように整ってるなぁと思っててですね……」


 それを聞くと、ユートは小さい呻き声を漏らしながら俯いた。何があったのだろうかと不思議に思い、それを聞こうとする。だがその前にユートの頭がゆっくりと起き上がり、また微妙な表情になりながら口を開いた。


「はぁ、僕ってそんなに女の子っぽく見える?」

「「「…………」」」


 割りと本気で落ち込んでそうなその表情を見て、俺たちは何も言えずに黙りこんだ。それも当然だ。他の人は兎も角、俺は「そう見える」と思ってしまってるからだ。

 だが、何処にもそういう空気を読めない人が居るようで………。


「じゃあさ、試してみれば?ルー君」

「…………っ!」


 ガタッ!と大きな音を発ててユートが立ち上がる。そのまま出口まで走ろうとしたのだが、相手が悪かった。

 アグニは走り去ろうとしたユートの腕を難なく掴み、人よりも強力な腕力を以てユートを思い切り引っ張った。思ってもみなかった大きな力がかかり、ユートはその場に尻餅を着く。そして、ユートがはっとした様子で顔を上げる頃には、アグニとエストレア、トーラの三人がユートを囲んでいた。


「じゃあ、試してみようか?ルー君」

「まぁ、前からずっと気になってたしね」

「ごめんなさい!ちょっと、ちょっとだけですから!」

「……た、助けて、三人とも……」


 アグニたちの声を聞き、ユートは俺、セティ、ライドさんに向かって助けを求めてきた。その声は僅かに震えていて、本気で嫌がってることが伺える。だが、悲しいかな。ライドさんは「若いってのは良いねぇ」と笑いながら見てるだけだし、セティはずっと俺の鈴を見ててユートには見向きもしていない。この状態をまともに考えられているのは多分俺なのだろうが、何をどう言えば良いのか分からない。結果、


「………頑張れ、ユート」

「そ、そんなぁ!?」

「ユウ君の許可も出たし、行こうか?」

「え、ちょ、だ、誰か助けてぇぇぇ!?」


 最後に悲痛な叫び声を残して、ユートはアグニたちに引き摺られて行った。それを見て、俺は一言呟く。


「まるで、主人公みたいだな……」

「···?···どう言うこと?」

「…いや、何でもない」


 それを聞いて、セティが不思議そうに首を傾げるが、言っても上手く伝わらないと思うので何も言わないことにした。ただ、やはり何度見てもユートが巻き込まれ系の主人公にしか見えない。



 そんなふうに、この世界をまるで物語のように捉えれば捉える程に、俺が不要な存在だと思える。少なくとも、俺が居なければ鈴音が死ぬことは無かったんだ。

 だから俺は後悔する。だから俺は胸が痛む。だから俺は───。

 彼女を思い出すとき、彼女のことで後悔するときは、決まってあの鈴に触ろうとする。今回もその鈴を触ろうとして、ポケットに無いことに気付いた。

 セティに貸していたことをすっかり忘れているらしい。


「セティ、悪いけどその鈴返してくれるか?」

「·········大丈夫?」


 俺に鈴を返すセティは、どこか俺を心配するような表情を浮かべていた。一体俺はどんな表情をしていたのだろうか?だが、俺のこんな下らない後悔でセティに心配をかけるわけにもいかない。だから俺は、無理矢理にでも笑顔を浮かべる。


「あぁ、全然平気だ」


 ---------------


 ユウムの鈴を見る。彼の魔力を帯びたそれは、見ている者を安心させるような青い光を放っていた。私は初めて見たときから、この鈴の美しさに目を奪われていた。

 ······別に、ユウムを特別に思ってる訳じゃない。ただ、その鈴の魔力は今のユウムよりも、遥かに穏やかなものであって、それがどうして今の、少しピリピリした魔力になっているのかは気になる。彼はこの鈴を大切なものだと言い、そのあとに何かを言おうとしていた。恐らくは、今はもう居ない誰かの形見なのだろう。それを見ていることに罪悪感が沸いてくるが、それはわざと気にしないことにする。

 次はユウムの物ではない鈴を見る。それは所々が錆び付いているが、美しい赤色で、それが前まではユウムの鈴のように赤い光を放っていたことが伺えた。


(···きっと···この鈴がユウムの······)

「セティ、悪いけどその鈴返してくれるか?」


 そこまで考えたところでユウムから声がかけられる。彼の顔には、何かに苦しめられるような表情が浮かんでいた。それがユウムの言う『とある神』の事なのか、転生者だという彼自身のことなのか、それともまた別の事なのか、私には分からない。でも、このまま放っておけばいずれ壊れてしまいそうな、そんな危うさを彼は持っていた。

 だから私は、鈴を返したあと、鈴を借りていたお礼ではなく、こう言ったのだ。


「·········大丈夫?」


 それを聞いた彼は少し驚いた顔をしたあと、私に心配をかけたくないと言った様子で、分かりやすい偽りの笑顔を浮かべた。


「あぁ、全然平気だ」

「············」


 そんな彼の顔を見て、私は何も言えなくなってしまった。彼には余裕が無いのか、私の視線に気付いた様子は無い。彼は鈴を受け取ったあと、一心不乱に鈴を眺め始めた。


(······まるで···別の世界に逃げてるみたい…)

 私には、ユウムがまるで現実から目を背けているように見える。いつもはそうでも無いんだけど、何かの拍子に鈴を眺めるとき、決まって悲しそうな顔をするのだ。特に、赤い鈴を見ている時にはそれが顕著に現れる。

 私はそれを見た瞬間、よく分からない感情に襲われて思わず話題を振った。


「······ユートの女装······どうなると思う···?」

「……え?ぷっ、ははっ。セティもそんなのが気になるんだな」


 彼はそれを聞くと、急に噴き出した。それはどうやら私が彼にとって予想外の質問をしたかららしい。

 ······正直、ユートの女装は少しだけ気になる。彼は顔立ちや言葉使いも中性的で、初めて見たときには性別の判断に困った程だ。それを察したのか否か、ユウムが少し笑いながら返事をした。


「まぁ、確かに気になるな。あいつ、顔立ちとかが中性的だし、声も少年声って感じだもんな。女装されたら気付かないかもしれないぞ?」


 そう言う彼の顔には、さっきのような悲しみや後悔の念を感じない。私の行動は見事狙い通りに彼を元気付けてくれたらしい。

 そう納得していると、ユウムが私の頭を撫でながら、小さな声で呟いてきた。


「気を遣ってくれたのか。セティ、ありがとう」

「···うん······どういたしまして」


 彼の手は私のそれよりも大きくて、安心感を与えてくれるものだった。それにホッとしたのか、私は笑顔で返事をする。

 ───これから、この人の事も知っていきたい。何故か、そう思えた。

 この何とも形容出来ない空気に浸っていると、別のところから声がかけられた。


「おう、こっちも青春か?若いってのは良いねぇ……」

「ち、違いますって!?」

「~~~~~~っ!!?」


 ユウムは返事をしたが、私はそれどころではなかった。顔がみるみる赤くなるのを感じる。

 ───···せ、青春···!?そそそ······それって······こ······。


「······そ、外に行ってくる!」


 恋愛関連に全く免疫の無かった私は、慌てて外に飛び出した。ユウムたちが不思議そうな顔をしていたが、気にする余裕なんてなかった。


 ---------------


 セティが出ていったのを見て、俺は呟いた。


「な、何があったんだ?」

「あの嬢ちゃんは、そういうことに免疫が無いみたいだなぁ。可愛らしくて良いじゃねぇか」


 それを聞いて、原因を考えたらライドさんが呟いた。そんな彼は懐かしむように上をボーッと眺めていた。

 可愛らしくて良い、か。まぁ、否定はしない。俺も異性に急接近されたら驚いたりフリーズしたりするし。だが、少しは落ち着いたらどうだろうか?急に慌てて飛び出されたら、こちらが悪いことをしたのかと若干不安になる。


「まぁ、おめぇらはまだ若いんだからよ。色んなことを楽しめや。それこそあんなことやこんなことも、な」


 そう言って両手を使ってある動作(・・・・・・・・・)をしているライドさんを見た瞬間、俺は顔を真っ赤にして、ライドさんに向かってアイアンクローを仕掛けた。


「お、おうユウムよ。ちょっとしたオッサンのジョークじゃねぇか?」

「それでもアレはアウトです」


 その瞬間、何処かのおじさんの絶叫が響き渡ったが、俺には関係のない話である。

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