12話 ウォールとリエイトの勝負
突然、リエイトと名乗った神が二つの分身を作り出す。
本体を含めて三人になった彼女は、其々の相手を見ている。かくいう私にも、分身の一人が敵意ある視線を送って来ているのだ。私としてはマリア様の容態の方が気になるのだが。
いや、もしかしたら、彼女ならマリア様の状態のことも知っているのではないだろうか?
その考えに至った私は、彼女の提案、つまり闘いの申し込みを受け入れることにする。
「私にもやれというのか?良いだろう」
そう言った瞬間、私を見ていたリエイトの分身が私目の前に瞬間移動し、私たちを包み込む形で半球を展開。結果私の目は闇に包まれる。
そして、闇が晴れると、
さっきまでいた神殿を数倍広くしたような部屋が目に入った。
(見た目は少女でも中身は神、という訳か)
マリア様も転移程度なら出来ることを知っているので、それほど驚かなかった。
「どうかなウォール。この部屋の出来は?」
「あぁ、良いと思うぞ」
前言撤回だ。まさか転移だけでなく、新しい空間まで作っていたのか。
早く事を済ませたいので、私はリエイトに話掛ける。
「単刀直入に聞く。お前、マリア様に何かしたのか?」
「まぁ、うん。ちょっとしたイタズラを、で、僕をどうする?」
「勿論、私が仕える神を侮辱した罰として、お前を斬る」
「うん、それなら話は早いね。じゃあ、早速やろうか?」
そう言って、リエイトは構えると同時に凄まじい殺気を放つ。
その殺気に、私は一瞬気圧されそうになるが、直ぐに立て直して自分の得物である大剣を構える。
そんな私の様子を見たリエイトが、小さく笑う。
………恐らくだが、このリエイトは相当弱い。私はラックのような直感や、【危機察知】のような【スキル】も持っていない為、詳しくは分からないのだが、私なら思うからだ。
───自分より実力が大きく下回っている相手と戦うことが、楽しい訳が無い、と。
そう考えると、このリエイトの実力は、精々私と同レベルぐらいだろう。
「じゃあ、このコインが落ちればスタートだよ」
「……………」
無言を肯定と取ったのか、リエイトはコインを弾く。空をクルクルと軽やかに回るコインがそのまま下へと落ちていき、それが落ちたことが見えた瞬間、
「行くよ。《ファイア》!」
リエイトが魔力を帯びた炎を放って来た。ここで【スキル】を使い、手の内をバラすのも良くないので、そのまま回避する。
自分が動こうと思ってからのタイムラグがそれなりにあるが、その分相手の動きを見れば一応カバー出来る。それを見たリエイトは、私が即座に行動出来ないのを見越して急接近してきた。
加速しながら、拳に魔力を溜めている様子が伺える。あれに当たれば、きっと私は為す術なく吹き飛ばされるだろう。少なくとも、自分があれを避けられないことは分かるし、あれを普通に防げないことも分かっているつもりだ。ラックの様に軽装であったり、魔法の扱いに長けていればどうとでもなったのかもしれないが、そうではない私には、この攻撃を防ぐ術は持っていない。
──────私に【ジャストカウンター】が無ければ、の話だが。
(【ジャストカウンター】)
リエイトの拳が私の顔面、いや、私の鼻の皮膚に当たるかどうかというギリギリのタイミングで【スキル】を発動する。
その結果、拳の純粋な破壊力や纏っている魔力を倍以上で跳ね返されたリエイトが凄まじい勢いで吹き飛んだ。
………勿論追撃はしない。私はラックの様に速く移動できないし、遠くまで届く魔法を撃つこともできないからだ。だから私は、敵を待つ。本当の戦闘だと、そのまま敵が逃げてしまうこともあるが、私は追わない、追えない。だが、それで敵が増えても私には関係ないのだ。
──────私の【スキル】である【ジャストカウンター】は、ありとあらゆる力を跳ね返す。たとえそれが物理攻撃でも、魔法でも、世界すら破壊する衝撃だろうと、タイミングさえ合わせれば、例外なく、だ。
そのタイミングがギリギリ過ぎて、まともに体得するのに一年半は掛かってしまったが、それも良い思い出だろう。
そんなことを考えている内に、リエイトがこちらまで戻って来ていた。警戒心を高める私を気にせずに、私に称賛の言葉を放つ。
「う、ぐ。もっと手加減すれば良かったなぁ。甘く見てたよ。まさかあの速度の攻撃に正確な反応を返すとはね。一応、予想はしてたけどさ」
「そうか。私の【ジャストカウンター】は甘くは無いぞ?」
「そうみたいだね。それじゃあ、これならどう?」
そう言ったリエイトは、高速で移動しながら大量の魔法を放ってくる。放たれている魔法は全て見えにくい風属性で、基本の《ウィンド》から、斬撃の様な《風切》、小さいが速い《風の弾》など様々だ。
私はそれらを大剣で弾き、避けられそうなものは避け、それでも対処出来ないものは【ジャストカウンター】で跳ね返す。だが、大量の攻撃の内、幾つかは私に届く。鎧がある程度のダメージをカットしてくれるが、魔法の衝撃で体に痛みが走り、その結果集中が疎かになり、被弾する量が増える。
(このままでは、埒があかないな)
被弾する量が増えるのを承知で、体の動きを抑える。そして、一つ、はっきりと息をした。
これをするのは、とてつもない集中力を必要とする。
───行くぞ。
「…………ハッ!」
リエイトの攻撃を、全て【ジャストカウンター】で跳ね返す。しかしそれでは、高速で移動しているリエイトには当たらない。当然だ。【ジャストカウンター】は跳ね返す【スキル】であり、跳ね返した力が追尾する力は持っていない。
だが……
「うぁっ!?」
リエイトが呻き声を上げる。高速で移動しているにも関わらず、何故リエイトに被弾したのか?
答えは単純だ。【ジャストカウンター】は追尾性能を持っていないが、跳ね返す角度を調節することは出来るのだ。つまり、私は攻撃を跳ね返す速度とリエイトの速さを計算し、その上で攻撃を跳ね返したのだ。
暫く反射による偏差射撃を続けていると、リエイトがこちらに近づいてきた。どうやら、接近戦に持ち込むらしい。
私は大剣を使い、リエイトのラッシュを防ぎ、隙があれば攻撃をする。リエイトの攻撃には、最初ほどの力は宿っていない。私の【ジャストカウンター】を警戒しているのだろう。しかし、その分速さは増している。それは少しずつ私を傷付け、その結果、私は一瞬、リエイトから意識を反らしてしまった。
それを見逃すリエイトではなく、容赦ない連撃を仕掛けてくる。
まず、鎧の上からボディブローをくらい、天井近くまで吹き飛ばされる。リエイトが追撃を加えようと跳んできたので、タイミングを計り【ジャストカウンター】を発動させるが、フェイントでタイミングを外され不発。《風の槍》で横に吹き飛ばされたあと、いつの間にか移動していたリエイトに踵落としをされる。その一瞬に、どうにかして剣を振り、リエイトの腹を半分ほど切り裂いた。
「ガハッ!?」
最後に天井近くから落ち、大剣から手を放してしまった。この衝撃のせいか殆ど体が動かない。遅れて、グチャ!という生々しい音が聞こえた。恐らくリエイトも落ちてきたのだろう。
(負けて、たまる、か)
私は這って移動し、剣を探して掴むと、まず立てないかを試みた。結果は失敗。どうやら立つ力は残っていない様だ。それを確認すると、私は剣を投げる。他でもない、私の真上に。
こんなことをする奴は他に居るのだろうか?いや、多分居ないだろう。私のやろうとすることは、下手をすれば私自身が死ぬのだから。
狙いは、リエイトの頭。一度確認したあと、剣に意識を向ける。
剣が私の頭に落ちてくる。私はそれに合わせて【スキル】を発動し、
(【ジャストカウン……】!?)
「惜しかったね。ウォール」
それはリエイトに掴まれて止まった。
リエイトがゴバッと、血を吐く。それは私のすぐ隣の床に落ち、跳ねた血が私の顔に掛かった。
それに気を取られていると、リエイトが剣を掴んだまま倒れこんでくる。
私は一瞬反応が遅れて──────
私は、自分の剣に頭を貫かれて死んだ。
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「ここは………?」
気が付くと、神殿に設けられた自室で寝ていた。鎧も着ていない。
どういうことか分からず、首を傾げていると、隣から声がかかる。
「一応、僕の勝ちかな?」
「そうだな。折角マリア様の無念を晴らせると思ったのだが」
「いやいや、マリー死んでないから。それに、途中からそんなこと考えてなかったよね?」
「そこまでバレていたか」
リエイトの一言で、あれが夢では無かったことを悟る。リエイトも神なのだ。死んでも大丈夫な空間程度は作れるのだろう。
冗談を言うと、本気にはしてくれずに、私の本心を指摘してきた。なんとなく、悪い奴のような気配はしなかったので、普通に戦っていたが、どうやらバレていたらしい。ふと窓を見ると、見事な月が見えて……月?
「済まない、リエイト話は今度だ。私は家に帰る」
「え、あ、うん。いいけど、なんで?」
「今日は妻の誕生日でな。早く帰らないと娘と妻に叱られるうえ、息子が嫌がらせのつもりで脛を蹴り付けてくる。ではな!」
「あ、うん、またね」
リエイトと挨拶をしたあと、大急ぎで部屋を出る。広間には誰も居なかったので、そのまま扉を開けて外に出たあと、家に向かって全力でダッシュする。
家に入った私を待っていたのは………
「………ハァー、ハァー、た、ただいま」
「お父さん遅いよー!」
「罰のキーック!」
「おぉぉぉぉ……、さ、流石に止めてくれないか?シルド。アイも、シルドを止めてくれ」
「お父さんが悪いんだからね!」
なんとなく予想出来てたアイの小言とシルドのキックだった。本当に、脛にキックは凄く痛い。しかも小言も正論なので何も言い返せない。ってあれ?妻の姿は?
「遅かったですね。あなた」
「!?ま、待ってくれルミナ、話せば分か」
「こちらに来て、話をしましょう」
「やーい、お説教部屋だー!」
「反省してね!お父さん」
「シルドとアイも、覗いてはいけませんよ?」
「「………はい」」
騒がしかった家が静まりかえる。見ての通り、我が家では妻ことルミナが一番立場が大きい。普段は優しいのだが、その分、怒ると恐い。
結局、あのあとしっかりと叱られ、最後に小声で、「いつも心配だから、せめて記念日には早く帰ってきて」と泣きながら言われた。
……..次は気を付けよう。
こうして、我が家の少し騒がしいルミナの誕生日パーティーは過ぎて行った。
寝ているときにルミナが私の腕を抱いていたのは、ここだけの話である。
【スキル】解説
【ジャストカウンター】
タイミングを合わせて発動することで、どんな攻撃でも跳ね返すことができる。
物理攻撃、魔法攻撃、呪いなど、例外はない。
※タイミングがとてもシビアであり、使いこなすのは困難。
攻撃を跳ね返す際、角度を調節することが可能。




