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俺はこの世界で  作者: ロン
メインストーリー:俺はこの世界で邪神を倒す
117/125

116話 歪曲、そして参上

『……………』


 魔弾と斬撃を掻い潜りながら、邪神は僅かに顔を顰めた。戦いの最中に視た、王都の光景。今頃絶望に染まっているはずだった王都は、王の一声で希望を再び灯してしまった。

 それどころか、王たちが用いた宝石───矛と盾の魔法らしき物のせいで、状況が覆りそうになっている。


『…………勇者じゃなくても、イレギュラーが居なくても、人間は馬鹿に出来ないね』


 完全勝利を望む邪神にとって、王都の侵略を阻まれるのは避けたい。邪神の『運命』には何ら影響は無いが、これは意地である。


 完全なる征服を。王都の神たちに、これ以上はない程の屈辱を。

 理念でも使命でも無く、ただそうしたいからこそ、邪神は完全に拘るのだ。そして、その完全勝利を達成しようと言うのであれば……。


『世界崩壊の『運命』が俺が根っこな訳だから、俺が王都に向かえば、きっと解決するよね』


 王都の者たちが抗えているのは、魔物による襲撃が『運命』の余波のようなものだからだ。神にとっては『運命』の規模など関係ないが、人間たちにはある。

 言ってしまえば、運命力とでもいう概念の激突だ。好きな未来を創る人間と、決まった未来へ進む『運命』がぶつかり合い、相殺し合って初めて、『運命』を破ることが出来る可能性が出てくる。

 邪神と勇者の持つ運命力を10、魔物の軍勢と王都の人間たちの運命力を5と、明確に数値化すると分かりやすいだろう。


 同じ運命力を持つ両者の勝負は、言ってしまえば分からない。既に邪神が勝つ未来が確定しているにも関わらず、勇者の運命力がそれを打ち消したからだ。それは、王都襲撃にも同じことが言える。

 ……けれど、王都に邪神が向かってしまえばどうなるか。答えは明白である。


 単純な足し算と引き算だ。『運命』の力は15。対して人間の力は5。どう足掻こうとも、決まった未来が覆る事はない。


『そうと決まれば。王都の魔物たちが蹂躙され尽くす前に───君たち勇者を殺しちゃおうか!』


 邪神が、自身の中でもう一段階、ギアを上げる。劇的な変化は無いこの行為ではあるが、それでも、邪神は自分の中に力が広がるのを感じ取っていた。


『……さぁ。殺そうか。君たちの未来は、俺が決める』


 強く拳を握り、そのままエストレアの魔弾を弾く。闇の魔力を纏った腕は、無傷とは言えないものの、エストレアの魔法から身を守る盾となっていた。


 続いて放たれるのは、ユートによる《絶刀》。単純な殺傷能力ではエストレアの魔法にも迫るその一撃を、斬撃の進行方向と垂直に叩くことによって、無効化する。


 次に取った行動は、さっきまではしようと考えていなかった突貫攻撃。《身体強化》系の魔法を用いて、凄まじい速さで勇者たちに肉薄しようとする。


「突っ込んできた!?」

「下がってなさいユート!近づけさせないわ!」


 それを察知したエストレアが、ユートの前に一歩出た。


「《神風》!」


 杖を横に振って、広範囲に渡る魔法を起動する。先程までの超火力は出ないものの、それでも常識的な範囲に居る人間たちには充分に脅威である。


 ───けれども、視線の先に立っているのは超常の化身とも言える、神だ。


『……下策だね』


 心の中で溜息を吐いて、邪神はその拳で風を払う。かなりの力を持つ暴風はしかし、威力よりも命中を優先した為に密度が薄くなり、邪神によって容易に穴を空けられてしまった。


 そうして、邪神は更に加速する。狙いはエストレア。強力無比な魔法を使う彼女を先に倒せれば、邪神の勝利は決まる───!


 次いで放たれるエストレアの魔弾を軽い身のこなしで回避して、遂に邪神は彼女の眼前に立つ。そして……。


『───まず、一人』


 右手から《闇の神剣(ダークグラム)》を造り、エストレアに向かって突き出した。


 眼前に迫る死に直面しても、彼女はまだ諦めていなかった。杖に魔力を込め、魔法を発動させようとする。

 けれども、遅い。彼女の魔法が完成するよりも早く、邪神は彼女の胸を貫いて、死に至らしめる。それは、エストレアの身体能力から考えて当然の結果だった。


 避けられない死、抗えない結末。

 それを前にして、彼女はそれでも尚足掻こうとして───。


「まだ───きゃあ!?」


 右から左にかけて強い衝撃を受けて、地面を転がった。


 彼女を突き飛ばした何者か──言わずもがなユートは、剣に剣をぶつけ合うことで、邪神の魔法を無効化。返す刃で邪神の胴に狙いを定めて、凪ぐ。


 ………その行動を、邪神は待っていた。予期していた、という方が正しいか。

 その行動を予想していた邪神は即座に左腕に魔力を込めて、《闇の神槍(ダークグングニル)》を発動。

 槍というよりも、杭と言える大きさのそれを、ユートは間一髪で対応し、破壊する。


 同時に腕に伝わる衝撃と、一瞬の痺れ。単純に巨大なエネルギーを受けたユートの腕が、僅かながらも悲鳴を上げたのだ。


『流石は聖剣。俺の魔法でも切っちゃうんだ』


 笑いながら賞賛し、邪神は素早くユートの背後へ回り込む。腕の痺れにより一瞬だけ反応が遅れたユートは、故に邪神の行動への対処が出来なかった。


 ユートの背後であると同時に、エストレアから隠れるように移動した邪神は、即座にユートを殺しに掛かる。


『でも、後一瞬遅かったね!』


 一歩踏み込み、右手に出した剣を振るう。狙いは首。今時点でのユートでは絶対に避けられない一撃だ。

 これが理不尽な一撃だったのであれば、ユートは難なく弾くことが出来たであろう。しかしこれは普通の一撃、普通の致命傷に繋がる一刀で、その先にあるのは普通の戦死だ。


 だから【絶対斬り】は発動せずに、この状況を覆すことは叶わない。


「───」


 急いで振り返り迎撃することも、飛び退いて距離を取ることも叶わず、ただ呆然と立ち尽くすのみ。


 ───凶刃が、振り下ろされる。それは真っ直ぐにユートの命を刈り取る軌道を描いて……。


「させないぞ」


 第三者の声が響くと同時に、銀線が走る。振り上げられた刃は邪神の魔法を斬り裂いて、その刃を振るった人物は杖から魔法を放ち、邪神を牽制した。

 予想外の人物が乱入してきたことに目を見開くも、邪神は後方へ飛び退いて、その人物からの攻撃を避ける。


 それは、エストレアやユートにも同じことが言えた。二人共が、今の光景を信じられないものとして捉えている。

 彼らの視線の先に居るのは、彼らが見知った人物。白い髪に少しの狂気を孕んだ瞳、変幻自在の霊器を携えた人間と言えば、一人しか居ない。


「悪い、待たせた」

「「──ユウム(君)!?」」


 二人の仲間に呼びかけた人物──ユウム・アオハラは、視線の先に居る邪神に注意しながらも辺りを見回した。そして、見つける。


「──────」


 彼の視界に入ったのは、首を跳ねられた死体。別の場所に、胸を貫かれた少女の死体もあったが、そちらには意識が向かなかったようだ。

 首が無い死体であり、顔を見ることは出来ないものの、それが誰のものであるかが分かる。見慣れた服、見慣れた気配、見慣れた体つき。


『……ヒーラーから潰すのは定石だぜ?』

「それは分かってる」


 大きく息を吸って、自身の意識を平静に保とうとする。それは結果成功し、ユウムの思考は驚くほどクリアになった。

 けれど、怒りは捨てず。己の内に秘めて、自身を高めていく。


「アグニは負けたみたいだな。生きていたら、良いんだけど」


 それでも今は前を向いて、あの邪神を打倒せねばと、ユウムは眼前に立つ少年を睨んだ。


「『よぉ、待たせたな』」

『───法則を、書き換えた……?』


 ユウムは常世刃を剣に変え、全速力で邪神に突撃する。邪神はユウムの登場に驚きながら、それを迎え撃つべく闇魔法を顕現させた。

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