仲良くしたいけど
結局食堂では食事がとれなかったので、マリウスが俺達の寮の部屋にサンドウィッチを用意してくれた。
「申し訳ございません。本当は食堂できちんとした食事をご用意したかったのですが」
「このサンドウィッチで全然大丈夫だから。あれだけ人が集まちゃったらしょうがないよ。ていうか、食堂って部屋にも食事を届けてくれるの?」
もしゃもしゃとサンドウィッチをほおばる。少し焼いたパンにレタスとトマト、ローストビーフ?見たいなお肉がたっぷり挟んであって、食べ応えがかなりある。マスタードのような少し辛いソースと酸味のあるソースが合わさって、お肉がたっぷり入っていてもくどくなく、あっさり食べられる。
「よほど特別な事情が無い限り承っていません。今回は時間もありませんでしたので、食堂から食材をお借りして僭越ながら私が作らせてただきました」
紅茶を入れながらマリウスがそう答える。
「本当!?すごく美味しいよ!マリウス料理もできるんだ…ずるい…」
ただでさえ完璧なイケメンなのに、その上料理もできるとかずるいよ…。
俺がふてくされながら食べていると、マリウスが困ったように笑った。
「食事に良からぬ物を入れてくる輩もいますので、自衛のために覚えました。ミース寮に無理を言って調理室を作ってもらったので、基本的にはそこで何か簡単な物を作って自室で食べてます」
「そ、そうなんだ…」
どれだけ過酷な学院生活を送ってきたんだ…。
「でもこれ本当に美味しいよ!」
無邪気にぱくぱく食べるティアはかなりお気に召したらしく、僕の分まで狙っている。
「まだ材料はありますので、足りなければ追加でお作りしましょうか?」
「ほんと!?」
目を輝かせるティアにマリウスがクスクス笑って、追加分を作りに席を立った。
「ねえ、ティアと虎太郎はゼノンのことどう思う?」
俺はゼノンの仲良くなりたいが、二人が危険だと判断すれば距離を取った方が良いかもしれない。軽く接触した感じは特に問題なさそうかなと思ったんだけど。
「う~ん…敵意は感じないし…不思議な気配ではあるけど、他の国から来てるって事を考えればそこまで気にする事じゃないのかもしれない。仲良くする分には問題ないと思うけど…」
「本当?やった、じゃあゼノンと仲良くしてもいい…?」
「別に、そんなの僕の許可取らなくてもいいでしょ。ウィルが大丈夫だと思った人なら多分大丈夫だよ。ウィルは敵意に敏感だから。少しでもおかしいと思った人には近付かない方が良いけどね」
俺が喜んでいると、ベッドの上でゴロゴロしていた虎太郎が少し不満げな顔をしている。
「僕はあんまり好きじゃない…なんでかは分からないけど、あの人といると胸がザワーってするの…でも、お兄様に何か悪い事をしようとしている感じはしないから…よくわかんない…」
「虎太郎…」
「でも大丈夫!何かあったら僕が絶対助けるから!」
「ありがとう虎太郎…」
そう言ってくれる虎太郎がとても頼もしくて、いっぱい頭を撫でてやった。
ティアとゼノンについて話していると、追加のサンドウィッチを持ったマリウスが帰ってきた。結構ボリュームがあると思ったのだが、ティアはその追加分も一人でぺろりと平らげてしまった。
「この姿を保つの、意外とエネルギー使うんだよね」
俺の視線に気付いたのか、ティアは言い訳のように舌をぺろっと出してそう言った。
「この部屋にいるときだけはいつもの姿に戻ったら?そうすれば少しは楽なんじゃない?」
「それはそうなんだけど、これから長時間この姿で過ごさなきゃいけないから慣れておきたくて。暫くはこのままの姿で頑張るよ」
「そう…辛くなったり言ってね」
「うん」
初日から色々な事がありすぎて疲れてしまった俺とティアは早々にベッドに飛び込み、寝てしまった。