いざ学院へ
制服から普段着に着替え、広間でティアと父様とノエルの4人でこれからの学院生活について打ち合わせをすることになった。
「じゃあ僕は、今まで通りテオのもとで学ぶって事?ティアはどうするの?」
場所が学院に変わっただけで、今までと魔法を学ぶ環境は変わらないということか。
「そうだね。まあ、元々学院のカリキュラムは属性別で行われるから他の属性との合同演習とかが無い限りテオの授業を受ける事になるよ。ティアも一応光属性だから一緒に授業を受けるよ。事情を知ってるテオなら融通が利くし、ウィルに何かあったときにすぐに力になってもらえるからね」
「それなら良いけど、ティアに学院に入学できるだけの学力はあるの…?」
父様はそう言うけど、疑わしくてティアを見た。
「失礼な!こう見えてウィルよりずっと年上なんだから!学院の勉強なんて楽勝なの!」
頬を膨らませてプリプリしているティアを見て、ノエルがため息をついた。
「それは本当だ。あまり説得力は無いかもしれないが、念のために受けさせたテストは満点だった、安心してほしい」
「満点!?」
「ふふんっ!僕が本気を出せばあのくらい余裕だよっ」
驚いて目を見開く俺に、ティアは得意気にソファの上にふんぞり返った。ティアは本当に謎が多い…。
「じゃあ、暫く合えなくなるけど元気でね」
「元気…でね……」
「ここの事は俺に任せろ。虎太郎、ウィルを頼んだぞ」
「任せて!」
入寮の日、ミーナとアマリア、ルドルフが俺とティアの見送りをしてくれた。後ろ髪を引かれる想いもあったが、これからの学院生活を思うと早く向かいたい気持ちが押さえきれない。ユーリやマリウス、ティアは勿論これから出会う未来の友達に期待が膨らむ。
虎太郎を膝に乗せ、ティアと父様とノエルと共に馬車に乗り、学院に到着した、大きい門と学院を取り囲む高い壁はいつ見ても圧倒的だ。その門をくぐると、暫く森の中の一本道を進む。学院の敷地は広大で、高い壁のすぐ内側は学院の建物を取り囲むように森が広がっている。更にその内側に校舎が建っている。選抜された少数の生徒が在籍する初等部、一気に人数が増えるため初等部より広大な敷地の中等部、高等部の校舎から演習場、式典が行われるアリーナにこれから向かう寮、教職員用の施設などがある。ひとつひとつの施設の敷地が広いので、この規模になってしまうのだろう。
暫く進むと俺が入寮するミース寮が見えてきた。な、なんというか…すごい…。パッと見て思い浮かんだのはヨーロッパのお城。高さはそこまで無いから、実際の大きさ的にはお城の1/2のミニチュア版って感じだ。ただの寮なんだからもっと質素で良いと思うんだけど…。
「他の寮もこんなに立派なの?」
「いや、ミース寮は特別だと思うよ。学院を創設したときは貴族の子ども達だけが学べる場だったから、そのときの名残が残ってるんだよ。他の二つの寮は国民の全てに学ぶ機会を与えるという方針に変わってから増設したから、もっと質素な造りになってるよ」
やっぱり、この寮が特別なんだ…この世界では貴族でも、俺の感覚はド平民だからちょっとビビってしまう。こんな寮に住んでいて友達ができるのか不安だ…。
「今日入寮するのはウィルとティアとあともう一人居ると聞いていいます。こちらも高等部からの編入生ですね」
「編入生?この学院に編入できるなんて、一体何者なんだい?」
「詳しい事は私にも情報が開示されませんでしたが、国外からの留学生のようです。留学生として編入できるくらいですから、王族の方かもしれません。何にせよ、厳しい審査の上での編入ですからそこは心配はいらないかと。確かな身分が無いとこの学院には入れませんから」
俺と一緒のタイミングで編入してくる奴が居るのか!
「留学生かあ…友達になれるかな?」
「ウィルなら誰とでも仲良くなれるさ」
父様はそう言って頭を撫でてくれるけど、今まで引きこもってた分、友達といえる友達なんかユーリしかいない。マリウスは従者だし、精霊使いのみんなは家族みたいな物だし…自分でいってて悲しくなってきた。友達ってどうやって作るんだっけ?
「お兄様!大丈夫!友達できなくても僕がいるよ!」
「ありがとう虎太郎」
耳の付け根を撫でてやるとゴロゴロと機嫌良さそうに鼻先を僕のお腹にくっつけてくる。虎太郎もこの数年で随分言葉が達者になった。まだまだ甘えん坊だけど、僕の魔力コントロールを支えてくれる大事な相棒だ。
「虎太郎の姿は隠しておいた方が良いかな?いろいろと聞かれたら面倒だし」
「そうだな、ただでさえ編入生で目立つだろうから珍しい精霊を連れてたら余計に目立つかもしれない」
ノエルの助言を聞き、虎太郎は寮の自室以外では腕輪になってもらう事にした。
馬車から降りて寮の前に降り立つと、丁度正面の扉が開いた。
「ウィリアム様!」
「マリウス!」
俺は笑顔で出迎えてくれたマリウスに飛びついた。
「久しぶり!マリウス大きくなったね」
「はい、この3年で大分伸びました」
マリウスに抱きついたまま見上げると、想像していたより顔が大分上にあった。というか、背だけじゃなくて体つきもしっかりしてる!
「マリウス…逞しくなったね…」
マリウス背中や腕を確かめるように触っていると、マリウスが笑った。
「はい、父のようになるために日々鍛錬しています」
体も大きくなり、ますます良い男になっている。少年っぽさが消え、美青年に育っている。襟足長めの赤い髪、左目の下にあるほくろがとてもセクシーだ。歌舞伎町のホストとかにいそう…。ただ、物腰がやわらかく言葉遣いも綺麗なのでホストというより王子様に近いかもしれない。
「マリウスが案内役かな?」
「はい、旦那様。ウィリアム様とティア様をご案内するように仰せつかっております」
「そうか、二人をよろしくね。ウィル、僕とリヴィエ大尉はここまでだ」
「うん…父さん、またね…」
部外者以外立ち入り禁止の寮には僕とティア以外が入る事はできない。父様ともここでお別れだ。別れるのが悲しくて、最後に父様に抱きつき、別れを惜しむと父様も力強く抱きしめ返してくれた。これからの3年間、父様とはあまり会えなくなる。たった三年だが、父様にもルーにも会えないのがたまらなく寂しかった。
二人の乗った馬車を見えなくなるまで見送ると、マリウスが寮を案内してくれた。
「初めましてティア様、ウィリアム様のお世話係のマリウスと申します」
「や、やめてよティア様なんて!ティアで良いよ、僕もマリウスって呼ぶね!」
そう言って握手をする二人は仲良くやって行けそうだ。
「お二人の部屋は他の一年生と同じ階になります。荷物は昨日届きましたので、できる範囲で片付けておきました」
なんてできる男なんだマリウス。君がいれば学院生活は心配なさそう。
「僕達の他に一年生が住んでるの?ここに来るまでに誰にも会わなかったけど…」
「他の二つの寮に比べれば少ないですが、一年生もそれなりにいますよ。今日は高等部での授業について説明会が開かれているので皆そっちに出席しているんですよ」
「そっか…友達できるといいな…」
緊張気味に息を吐いた俺の肩にマリウスが手を置いた。
「最初は馴染むのに苦労するかもしれませんが、ウィリアム様なら大丈夫ですよ」
「僕がいるんだから、友達なんかあっという間にできるに決まってるでしょ!」
『僕も!僕もいるよ!』
「ありがと…みんな」
二人に励まされながらこれから生活する自室に向かった。