魔王の苦悩
ある建物の一室で、彼は部下からの報告を受けていた。
「そうか…やはりそこか…」
「はい、しかし近付くのは容易ではなさそうです」
その言葉に自然に眉間に皺が寄る。
「そうだろうな、長期戦になるのは覚悟の上だ。問題ない」
「承知しました」
「そちらで使えそうな者の当たりはつけているのか」
「はい。こちらを嗅ぎ回っていた者をコントロールしてこちら側につけました。疑いを持つ者を潰して、協力者を増やす良い機会かと思いまして」
「それで良い。そちらのことはお前に任せる」
いつもの近況報告を終えると、魔王は深くため息をつき座っていた椅子の背もたれに体を預けた。この数年、探し物の在処の目星を付けては移動し続けている。
人間が想像する悪魔と実際の悪魔との間には、埋められないほどの溝がある。人間を搾取する為に襲いかかっている魔獣が存在するのは事実だが、それを目的として人間界に出向く悪魔は存在しない。大抵が魔王の命令で探索に行く者、たまたまスポットに遭遇した者、気まぐれに人間をつまみ食いする者、行動に差はあれど悪意に差はない。どれもこれも悪意の無い行いだ。精霊使いと対話をしようにも、それを精霊が許してはくれない。さらに言うならば人間自体が関わりを拒否している。その状況が悪い方向に流れて行き、今の対立の構図が出来上がってしまったのだ。
悪魔も悪魔で、人間に対する価値を食べることくらいしか見出せないため扱いが雑になりがちだ。精霊使いを捕まえる命令の為なら周りの人間くらい殺しても大丈夫だろうと考える者が大多数で、その振る舞いがまた敵を作るという悪循環に陥っている。しかし、人間を家畜くらいにしか思っていない悪魔がほとんどの中では、その考えを改めさせるのは困難だ。そうしている間にスポットが現れる頻度も増え、範囲も広がっている。魔獣が人間を食べ、力をつけ、その魔獣を従えて王の座を奪おうと反乱軍が結成される。それをひとつひとつ潰していくのも骨の折れる作業である。スポットが出現するようになってからそんな輩が湧いて出てくる。
正直、スポットなど閉じて永遠に封印してしまいたい。アレのせいでここ最近じっくり休んだ記憶が無い。他の悪魔のように、破壊して搾取して乱暴に解決して行けば今の半分以上の時間で済むんだろう。だがそれをしてしまえば後々の活動に響くことを知っていた。だからこそ、こんなに時間かけて探っているのだ。
「ここも違ったか」
こんな生活も、もう少しで終わる。今まで真っ暗なトンネルに居るような気分だったが、やっと終わりが見えてきた。
「後もう少しだ…あれが手に入れば…」
目的を果たした地を後にして、次の目的地に向かいだした。