虎太郎の成長
入学式を終えてから、俺はテオの授業をほぼ毎日受けていた。
というのも、学力の方は問題ないのだが、光の魔法は他の属性に比べて精神力を必要とされる。俺の場合は精神力の前に体力が圧倒的になさすぎる為、魔法訓練の前に基礎体力作りの訓練から始まった。そのせいもあり、最初の予定から大幅に魔法訓練だけ遅れているのだ。テオには申し訳ないが、基礎体力の訓練をした後の俺は魔法訓練できるほどの気力が無くなってしまうため、本当に少しずつしか進められていない。
「すみませんテオ…僕がもう少し運動が得意だったらもっと早く次に進めるんですが…」
「良いんですよ、ウィルは座学の時間を無くしても全く問題ないレベルですし、誰にでも得意不得意があります。不得意なことを克服する手助けをするのが私の役目ですから、焦らなくても大丈夫ですよ」
テオはこう言ってくれるが、やはり納得はできない。こうしている間にも、ユーリやマリウスはどんどん成長している。久々に会った彼らは自分とは段違いに成長しているように見え、早く彼らに追いつきたい。隣に並べるようになりたい。そんな思いが強くなっていた。だが、そんな思いが空回りしているかのように自分の思い通りにはいかない。
「今日はこの辺にしましょう。しっかりと体を休めることも訓練の一部ですよ」
「…はい」
納得していない気持ちは見透かされているんだろう。少し苦笑いしながらテオは俺の頭を優しく撫でて、学院に戻っていった。
「……はあ」
自室に戻ってくると、俺はベッドに倒れ込んだ。そうすると、授業中は俺の部屋で大人しく寝ている虎太郎が俺の傍に寄ってきた。
「中々上手くいかないな…」
虎太郎の頭を撫でていると、最近ちゃんと話せるようになった虎太郎が話しかけてくる。
『お兄様元気出して…?今は上手くいかなくても、お兄様なら絶対できるようになるから!』
しっぽを俺の腕に巻き付けてすり寄ってくる虎太郎に癒された俺は、そのまま眠ってしまった。
『お兄様の為に僕ができること…』
そう虎太郎が呟く頃には、夢の中だった。
そうして次の授業の日がやってきた。動きやすい服に着替えて、準備運動しながら待っていると訓練場のドアが開いた。テオが来たのかと思い顔を上げたが、俺はそのまま固まってしまった。
「どうしたんだ虎太郎、こんなところで」
『あのね…僕、お兄様の為に何ができるかルーナに相談したの…』
「ルーナに?」
『うん、そしたらね、ルーナが教えてくれたの!お兄様の魔力が大きすぎるから、一人で調節するのが難しくてよけいな体力を使っちゃってるんだって、だからね、”一人”じゃなくて”二人”で魔力を調節すれば、問題ないって!』
「それってどういう…」
『だからね、あのね…僕もお兄様と一緒に訓練する!』
そう言うと、虎太郎の体が光りだした。
「え!?虎太郎!?」
眩しくて目を瞑る。次に目を開けたときには虎太郎の姿が消えていた。
「虎太郎!どこいったんだ!」
『お兄様!ここ!僕はここだよ!』
なんと、俺の体から声が聞こえる。おそるおそる右腕をあげると、手首の部分に白い水晶でできた太めの腕輪が嵌っていた。まさかこれが虎太郎…?
「虎太郎…おまえこんなことできたのか…」
『お兄様の役に立ちたいってルーナにお願いしたら、やり方を教えてくれたの!これで力のコントロールを僕が手伝えるよ!』
「…そうか…俺の為に…ありがとな、虎太郎」
『うん!一緒に頑張ろうね、お兄様!』
意気揚々と訓練に挑んだ俺達だったが、虎太郎自体が俺の魔力のコントロールに馴染むまでまだ数日かかることを知って二人揃って落胆することになるのはまた別の話だ。