生徒会の裏側 2
学院の応接室へと続く廊下を三人は歩いている。 ユリエルもマリウスも、逸る気持ちを抑え切れていないのが歩調から分かってしまう。体は大きくなったが、まだまだ幼い部分が見え隠れする二人にランスロットは気付かれないように微笑んだ。それと同時に、久々に見る彼らはランスロットと目線が変わらないほど大きく成長しており、次に会うときには身長も体格も追い抜かれてしまうんだろうなと少し複雑な心境でもあった。
「突然のお呼出になってしまい申し訳ありませんでした」
「いや、良いんだ。俺たちもウィルに会えて嬉しいしな。丁度マリウスとも話していたところだったんだ」
「本日はもうお会いできないのかと思っていました」
「ふふ、ウィリアム様がお会いしたがっているのですから、アーサー様が会わせないはずないじゃありませんか。それにウィリアム様にはお二人のことを内緒にしておりますので、驚かれると思いますよ」
「ウィルに言ってないのか」
「驚かせたいとのアーサー様のご意向です」
「大佐の考えそうなことだな…」
大佐はそういう人だったとユリエルは思い出した。
目的の応接室に近付くにつれて二人は緊張してきた。つい一年前までお茶をしたり訓練をしたりと交流のあった三人だが、今はそれも無い。自分達が成長しているのは実感しているし、そう言われる機会も多い。それと同時にウィリアムも成長している訳で、彼の成長した姿の美しさを想像しただけで心が躍るようだ。そんな気持ちを悟られまいと、ユリエルは会話で誤摩化そうとした。勿論そんな彼の気持ちもランスロットにはお見通しだが、二人は気付いていない。
「ウィルに変わりは無いか」
「ええ、特にお変わりも無くお元気ですよ。教師としてお越し下さるテオ様のもと、勉学も訓練も順調にこなしております。ルシアン様もご同席されていますので、お二人に会えばとてもお喜びになると思いますよ」
「ルーも来ているのか!ますます楽しみだな」
「ルシアン様の成長を見れるなんて…こんなに嬉しいことはありません」
どんどんテンションの上がる二人に、理事長や大佐だけではなく虎太郎やリヴィエ大尉にハイナーまで来ていると伝えたらどんな反応になるか楽しみではあったが、あまり脅しては可哀想かと思いランスロットは黙っておくことにした。
ランスロットがドアをノックすると、中から理事長の声がした。
「どうぞ」
「失礼致します。お二人をお連れ致しました」
そう言ってドアを開け中に入ると、あちこちから視線が飛んできた。だがそんなことは気にならず、ユリエルとマリウスの視界に飛び込んできたのはソファーに座る成長したウィリアムの姿だった。
美しい銀色の髪は肩を過ぎたあたりまでまっすぐ伸ばされており、手入れが行き届いているのが分かるほど艶があり美しい。その昔、この容姿から天使だと賛美された頃から美しさは変わらない。透き通るように白い肌に、澄んだ青い瞳がよく映える。少し丸みの帯びた柔らかそうな輪郭から、すっきりとした少年のそれに変化しており、記憶していた姿より少し大人びた面立ちに成長している。マリウスは少年と青年の狭間の色っぽさを持ち合わせているが、ウィリアムは成長してもなお永遠に少年の様な危うさが漂っている。生来華奢な体つきだが、背が伸びた分を取り戻せていないように線が細い。成長すれば少しは男っぽく見えるようになるだろうかとよくウィリアムはこぼしていたが、彼の願いは叶いそうにも無いようだ。こんなウィリアムが学院に入学したらどんなに周りが騒がしくなるのだろうかと、二人は頭を抱えそうになった。
そんな二人の葛藤を知ってか知らずか、当の本人は嬉しそうに立ち上がるとこちらに駆け寄ってきた。その拍子に膝から白い毛玉が落ちたが、何かは確認できなかった。
「ユーリ!マリウス!」
目の前にかけて来たウィリアムは、最後に会った時から随分背が伸びていた。といっても、平均より大分大きい二人から見れば、平均的に成長しているウィリアムは小さく頼りない印象のままだ。
「二人とも久しぶりだね、会えて嬉しいよ!」
「俺もだウィル」
「わ、私もお会いできて嬉しいです!」
興奮気味に頬を赤らめて見上げるウィリアムに、いつもは冷静なマリウスもたじたじだ。
「こんなに喜んでもらえるなんて、吃驚させた甲斐があったよ」
そう言って笑うアーサーに、二人は背筋を伸ばした。
「お久しぶりですエインズワース大佐、今回はこのような席を設けていただきありがとうございます」
「そんなかしこまらないで、二人にも喜んでもらえたみたいで嬉しいよ」
「アーサー様、お久しぶりです。ウィリアム様のお元気な姿を見ることができて本当に嬉しいです…」
「マリウスも、大きくなったね」
マリウスの頭を撫でるアーサーを見て拗ねたように声を上げたのはルシアンだった。
「ユーリ!マリウス!僕もいるよ!」
もう~!と気付いてくれない二人に頬を膨らませて抗議するルシアンに、二人は思わず微笑んでしまった。
「すまんなルー、お前に会えて嬉しいぞ?」
そう言ってまだまだ小さいルシアンの体をユリエルが抱き上げるが、ルシアンはツーンとして顔を背けている。が、腕はしっかりとユリエルの首に巻き付いているので、あまり意味をなしてはいない。そんな小さな反抗が可愛らしく、部屋にいる誰もが微笑んだ。
「さあ、二人を呼んだのはお昼でも食べながらゆっくり話そうと思ったからなんだ」
「私も今期生徒会の将来有望な生徒とお話ししたいな」
「そ、そんな…理事長の期待に添えるようなことをお話できるか分かりませんが…」
「ははは、ただ楽しく話すだけだから緊張しないで。さあ食事を用意させてある部屋へ移動しよう」
理事長の言葉に幾分肩の力が抜けたようなマリウスを見かねて、ウィリアムは彼の背中をそっと擦った。