生徒会の裏側
no:side
「ふあ〜!緊張した〜!」
退場した途端に、そう言って体を反らして伸びをするメディを見てマリウスはため息をついた。
「マリウスなんだよ、そのため息は」
「いえ別に。ただ、もう少し威厳を持ってほしいと思っただけですよ」
「うっ…」
自覚しているのか、メディは苦い顔をして黙った。
壇上を降りると、外からは見えない地下の待合室に入った。壇上に上がる予定のある生徒や教師が待機する為に作られた部屋だ。待合室と言っても中はそれなりに整っていて、イメージ的にはホテルのロビーのような雰囲気だ。薄い茶色の、毛足の短い柔らかい絨毯が全面に敷かれた床はふかふかしていて気持ちがいいし、並べられている二人掛けのソファーはおそらく使い回しの物だろうが、元が良いので気にならない。細かく様々な花が刺繍されている光沢のある生地が少し乙女チックだが、肌触りは良いし文句は出ない。
木目の小さい丸テーブルを囲むように二人掛けのソファーが四つ設置されている。そのソファーにヴィクトル、メディとレヴァン、ユリエルとマリウス、そしてロランというように分かれて座る。何となく決まっている訳ではないがいつもこう分かれる。
「さて、今日から正式に生徒会役員ということだから、候補生の時以上に自覚を持って行動するようにね」
ヴィクトルはいつものようにやる気があるのか無いのか分からないような眠たそうな目で、二年生に言い聞かせる。
「それでこれからの仕事なんだけど、君達には候補生選びをしてもらいます。期限は第一期魔法試験がある二ヶ月後まで。四人で学年全員調べるのは骨が折れる作業だから、初めての共同作業だと思って力を合わせて優秀な人材を集めるように」
それに四人が返事をすると、丁度式が終了したようで外が騒がしくなった。
「生徒が全員撤収したら僕たちもそれぞれの教室に移動しますか」
そう言ってヴィクトルは目を瞑ってソファーに凭れ掛かってしまった。彼はやはり自由な人だと、二年生達は思った。
沈黙に耐えきれなくなったメディが隣のレヴァンに話しかけるのを見てから、ユリエルがマリウスに話しかけた。
「ウィル、入学式には来てるんだろう?」
「はい、父からは参加するという風に聞いています」
「そうだよな…まあ護衛付きだろうから感知できなくて当たり前だが、気配すら無かったぞ」
「優秀な護衛なんでしょう。安心じゃないですか」
「まあな…俺たちには会わずに帰るのか」
「さあ…そこまでは聞いていません。しばらくお会いしていないので一目お目にかかりたいですが、それは私達には決められませんから…」
「お互い歯がゆいな」
「…ええ、本当に」
マリウスとユリエルはお互い視線を交わすと、苦笑いした。
そろそろかと全員が外に出ると、そこに男性が立っていた。
「あ、あの…」
最初に外に出たメディが男性にそう尋ねると、後ろから彼に呼びかける声がした。
「ランスロット、どうしてここに」
「お久しぶりですユリエル様、それと…大きくなりましたね、マリウス」
「ランスロットさん…」
ユリエルもマリウスも驚いたように立ち尽くしている。普段落ち着き払っている二人を見慣れているメディは、珍しいものを見るように二人を見つめた。
「えっと、二人の知り合いかな?」
その状況を打破したのはロランだった。その問いかけにユリエルとマリウスがどう答えていいか迷っていると、ランスロットが代わりに答えた。
「そんなところです。お二人を少々お借りしたいのですがよろしいですか?先生方の許可は取ってありますので」
「許可を貰っているのなら反対する理由はありません」
「ありがとうございます。ではお二人とも行きましょうか」
ランスロットがそう言って背を向け歩き出そうとしたところにユリエルが問うた。
「ランスロット、それは…」
「はい、お待ちかねですよ」
「っ、ああ」
少し顔を赤くさせたユリエルとにこやかなマリウスに、メディとロランはぽかんとしながら三人の背中を見送った。ヴィクトルは相変わらず眠そうだが、レヴァンの目はその三人にまっすぐ向けられていた。