エインズワースの天使
日も暮れてきたので、衣装に着替えて馬車に乗り込んだ。
「父様、僕、おかしくない?」
「おかしくないよ、とっても似合ってる」
「おにいさまきれい!」
ありがとう弟よ、でも嬉しくない。
俺が着ているのは変形タキシード。濃紺の上着とベストの縁は白と黒。中のシャツはシンプルな白で半ズボンは上着と同色で折り返し部分は黒になっている。ハイソックスは地が濃紺で上部に黒のボーダーが2本はいっている。靴はシンプルにエナメルのオペラパンプス。
俺の肩まである銀色のストレートヘアーとブルーの瞳にマッチしていて、父のセンスの良さが伺えた。
ルーは俺と色違いの衣装で、濃い緑色だ。クセっ毛のプラチナブロンドとよくあっていてとても可愛らしい。天使だ。
父は至って普通のタキシードだ。普通のタキシードなのに何でこんなにかっこいいんだと
問いただしたくなるくらいかっこいい。
悶々としている間に、ブラウニング家に到着した。
馬車から降りると、立派な屋敷が目の前に現れた。馬車から見えていたが、目の前にたってみると迫力がすごい。
「行くよウィル、ルー」
父はルーの手を引き、僕の背中を促しながら屋敷に入っていった。
僕たちが入った瞬間、にぎやかだった会場が静まり返った。
やっぱりなんか変だったかな。
不安になって父の袖をつかんで体を隠した。すると父は頭をなでてくれた。
「どうぞみなさん、お続けください」
父がそういうと時間が動き出したかのようにざわざわし始めた。
「珍しい!エインズワース公爵がいらっしゃるとは!」
「相変わらずお美しい…」
「一緒にいるのは息子さんかな?何とお可愛らしい…」
「お二人揃うとまるで天使のようだわ…」
一瞬静かになったものの、別に俺たちが何か粗そうをした訳じゃなさそうで安心した。てかいま誰か天使っていわなかった?ルーは確かに天使だけど!
周りの大人たちの目がギラギラしていて父から離れられない。おとなこわい…。
いつになく俺がおびえていることに気づいてくれたのか、ずっと俺の頭をなでてくれている。
父様大好き。ルーは気にせずおいしそうにケーキを食べている。こいつ大物になるぞ。
僕の元気が無いと心配したルーと一緒にスイーツを食べていると、父を呼ぶ声が聞こえた。
「アーサー!よく来たな!夜会嫌いのお前が」
うししと笑うのは、父と同じくらいの年齢の男性だった。体型は父よりしっかりしていて、背もさらに高い。ローランドよりは小さいか。いや、ローランドが大きすぎるんだな。ブラウンの髪は短く、整った顔にひと好きのする笑顔を浮かべて近づいてきた。
「誤解を招くような言い方をするなよ、家族との時間を大切にしているだけだ」
「はいはい、すいません。で、今日は自慢の息子を紹介してもらえるんだろうな?」
俺とルーを見てにっこりと笑う彼になんだかほっとした。おそらく、彼が父の言っていたワイアット・ブラウニング公爵なのだ。
「紹介してやるから待ってろ、うちの子は繊細なんだ。あんまり近づくな」
「どういう意味だよ」
父とそんなに年齢がかわらないように見えるのに、たしか――中将とはすごい。しかし俺は知っている。
強大な魔力を持つものは、平均的に年を取るのが遅いのだ。見かけにだまされてはいけない。
この人も父もそれなりに年を取っているはずなのだ。
「長男のウィリアムと、次男のルシアンだ。ほら、挨拶しなさい二人とも」
「は、初めまして。ウィリアム・エインズワースです」
「るしあん、です」
俺は心細くて父にぴったりとくっついたまま。ルシアンは名前を言うと父の背中に隠れてしまった。
「かっ」
ワイアットが目をカッと見開いてこちらに顔を寄せてきた。びっくりして思いっきり父の袖を握ってしまった。しわになってしまったかも。
「可愛いいいい!」
彼はしゃがんで僕の左手をとり、破顔した。
「こりゃあ誰にも見せたくない気持ち分かるなあ。俺はワイアット・ブラウニング。ワイアットって呼んでくれ」
え、今呼ばなきゃいけない感じ…?気乗りしないけど、ワイアットの目が爛々としていて断りにくい。
父に助けを求めるように見上げると。にこりとしながらうなずいた。
「ワ、ワイアットさん…?」
首を傾げながら言ってみた。
「………アーサー、一人俺にくれないか…」
「あげるわけないだろう。お前にだって反抗期じゃない可愛い息子がまだいるだろう」
「エディソンは俺になかなか懐いてくれなくてな…ユリエルが最近反抗期だし…久々にこんなピュアな生き物を目の当たりにしたから涙が…」
「大げさな奴め…」
はあ、父がため息をついた。
「そうだそうだ、ユリエルを紹介しないとな。おーい!ユリエル!ちょっと来い!」
ワイアットは今日の主役でもあるユリエルを呼び寄せた。少し緊張する。同年代の子に会うこと自体数えるほどしかなかったし、こんなかしこまった場所で初対面とか経験無いんですけど!!