応接室にて
生徒が全て教室に移動するのを待ってから、俺たちは応接室に通された。
「お久しぶりです、キヴェカス准将」
「久しぶりだなアーサー、それと准将はやめろ。軍を辞めてから何年経ってると思ってるんだ」
「すみません、ついクセで」
父様と握手を交わしているのは学院理事長のイレルミ・キヴェカス。短めの黒髪で前髪を右側に流して両サイドを撫で付け、口の上にひげを生やしているダンディなおじさんだ。元軍人だっただけあって体格もよく、背だけなら父様より大きい。軍人と聞くと少し不安を覚えるが、学院と国との橋渡し役として長年運営を任されており、彼が理事に着任してから学院周辺で起きる魔獣関係の事件が激減したと評判だ。
「初めましてだね、ウィリアム君」
「始めまして理事長」
「キヴェカスでいいよ」
「は、はあ…」
学院のトップということでかなり緊張したが、結構フランクな人のようだ。
一通り挨拶し終わると、ノエルの前で動きが止まった。
「…久しぶりだね、ノエル」
「お久しぶりですキヴェカス准将」
「ローランドとは…連絡を取ってるのかい?」
「いえ、卒業以来お会いしていません」
ノエルはそう言うだけで手を差し出そうとはしない。目も合わせないノエルにヒヤヒヤしたが、理事長は一瞬寂しそうな顔をしただけですぐに元の顔に戻り、俺たちの方に向き直った。え?ローランドには一回会ってるよね…?ノエルはガン無視してたけど…やっぱり二人には何か因縁があるんだろうか…。
疑問に思う俺を置いて、話は進む。
「本日は無理を聞いてくださってありがとうございました」
「まあ、精霊使いの扱いに関してはそれなりに心得ているつもりだ。自分の息子だったらと思うとな…それに今までの件を考えるとこういう対応は当然だろ。人生に一回しかない入学式を見れないのも可哀想だしな」
応接室のソファーに促されて座ると、虎太郎が膝に乗ってきた。この場所が最近の虎太郎の定位置になりつつある。
応接室の間取りはエインズワース邸のそれとほとんど同じだ。違うのは赤で統一されている俺の家とは違って、深い緑で落ち着いた雰囲気になっていることくらいだ。広さも倍ほど違うが…。雰囲気は緑で控えめな感じがするが、高そうな絵画が壁に飾られていたり、高そうな白い花瓶に綺麗な花が生けてあったりと、やはり学院の理事長室然とした趣がある。
そんな応接室のソファーの片側に理事長が座り、反対側には俺を真ん中にして左に父様、右にルーが座った。ランスロットは用があるとかで不在なので、ノエル、ハイナーが座らずにドア付近で立っている。
「学院はどうだい?時間があれば案内したいんだけどね…」
「い、いえ!十分雰囲気を知ることができました。学校生活を送れないのは残念ですが、楽しみは高等部まで取っておきます」
「その時はぜひ案内させてほしいな」
「そんな、恐縮です…」
「ははは」
「僕も入学が楽しみです!」
「ルシアン君の噂も聞いているよ。私も入学が楽しみだ」
「えへへ〜」
肝が据わっているのか、学院の理事長にも物怖じせず話すルーには本当に感心する。キヴェカスさんもルーに優しく応対してくれて、良い人だなあと思う。
みんなでしばらく話していると、ドアをノックする音が聞こえた。
「やっと来たね。どうぞ」