入学式へ 3
「それでは最後に、今年度の中等部生徒会役員の紹介に移りたいと思います。今年は三年生二人が継続していくのに加えて、二年生から四人の役員が選出されました」
そう教師が言うと、壇上の下手から四人の生徒が出てきた。向かって右から、背の高い眼鏡をかけた黒髪短髪の知的な生徒、その隣は彼と比べると随分小柄だ。ピンク色のくせっ毛をふわふわとさせた可愛らしい生徒、そして彼の隣に並んでいるのがマリウスとユーリだった。
記憶にある彼らの姿とはやはり違っていて、二人とも身長がかなり伸びている。俺と並ぶと頭一個分違うかもしれない。体格はまだまだ成長途中特有の線の細さを感じさせるが、この調子だと俺が入学する頃には対格差が歴然としそうだ。
マリウスは赤みがかったウルフカットのような髪型は変わらず、襟足が少し長めになったように思える。青年と少年の絶妙な色っぽさとでも言おうか、元々の素材と合わさってとんでもない仕上がりになっているなと冷静に思う。俺の傍で生活していたときは笑顔を絶やさなかったからかチャラさを感じていたが、無表情で立っていると顔が整っているだけに能面のような不気味ささえ感じる。一方ユーリは、印象こそそれほど変わらないものの、眼差しの鋭さが増し、この歳の子どもにあるまじき風格が漂っている。出会ったときは見えた幼さは面影もなく、知らない男の人のようで少し気後れする。
「向かって右から、レヴァン・デュカキス、メディ・カナール、マリウス・ビーン、ユリエル・ブラウニング、以上四名が今期から生徒会役員となりました。それぞれ挨拶を一言ずつどうぞ」
そう言われてレヴァンと紹介された生徒が一歩前に出た。
「レヴァン・デュカキスです。精一杯努めさせていただきます」
そう言って軽くお辞儀をすると一歩下がる。きっと人気のある生徒なんだろう、挨拶が終わったと同時にすごい拍手と歓声が上がった。次に小柄な彼が前に出た。
「メディ・カナールです!至らない点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします!」
勢い良く頭を下げるとまた歓声が上がった。
「頑張れよ先輩!」
「あんまり失敗すんなよ〜!」
「う、うるせーぞ!」
彼の人気はレヴァンとはまた違うようだ。だが人を引きつける魅力があるのは確かだ。今のやり取りで会場が笑いに包まれたが、司会の教師が咳払いをするとまた静かになった。そしてとうとうマリウスの番だ。
「マリウス・ビーンです。生徒会役員として職務を努め上げたいと思います。よろしくお願いします」
抑揚のない声でそう告げると、流れるようなお辞儀をして下がった。あまりにも流れが優雅なので、会場の拍手が一拍遅れた。その空気を全く気にしていないようにユーリが前に出た。
「ユリエル・ブラウニングだ。よろしく頼む」
短くそう言うとさっさともとの位置に戻ってしまった。マリウスにも言えることだが、二人とも生徒の代表を務めるのだからもっと愛想良くした方が良いと思う。話す機会があれば言っておこう。
四人の挨拶が終わると、また生徒が二名出てきた。おそらく去年度から引き続き役員をしている三年生だろう。
「ではこの式の最後に、今年度生徒会長から挨拶をお願いします」
そう教師に挨拶されて壇上の中央に立ったのはこれまた背の高い、暗い茶髪を顎の下あたりまで右側だけ伸ばし、襟足にかけてだんだんと短くなっている。背も高く、先の四人に比べると体つきもしっかりしている。
「今年度の生徒会会長に就任しましたヴィクトル・コンティーニです。前年度から引き続き、ロラン・バンデラスと共に生徒会を運営して行くことになりました。新しく役員となった四人と力を合わせて努めて行きたいと思います。皆さんご協力のほどよろしくお願いします」
そう言ってかれはぺこりと頭を下げた。司会の教師の隣に立っていた、深緑色の長い髪の毛を三つ編みにして眼鏡をかけている落ち着いた雰囲気の生徒も頭を下げた。彼がロランか。生徒会長のヴィクトルと共に役員達が退場する。終始ヴィクトルの目に生気が無いことが気がかりだが、それ以外はバランスのとれた良いチームになる素質を持っていると思う。
「これで入学式を終わりとします。退場は一年生から順番に———」
そう司会が言った瞬間に緊張の糸が解け、会場がざわざわし始めた。
「私達は他の生徒が全て退場してから移動するよ。その後は理事長と少しお話ししながらお昼を食べよう」
「はい」
「ご飯!」
式の最中は大人しくしていたルーも、わくわくとした表情で脚をプラプラさせている。だがその元気のいい声のおかげで、数人がこちらを向いた。まあ向いたとしても角度とカーテンのおかげで中は見えないのだが。
「ルー、まだみんないるから静かにね」
「あう…ごめんなさい…」
そういってしょぼんとするルーだが、その姿も可愛らしすぎてもうなんでも許してしまいそうだ。ルーの頭を撫でながら生徒がいなくなるのを待った。