入学式へ
テオのもとで授業を受けるにあたって、筆記テストと実技テストを受けた。筆記テストは拍子抜けするくらい簡単で、テオにすごく褒められてしまった。実技は光魔法の基礎はできているが、体力の無さと接近戦の不得意さを見抜かれてしまい、授業ではそこを重点的にやると言われた。元々運動は得意ではないため、少し楽しみだった実技の訓練がしばらく憂鬱になった。
「では今日はここまでにしましょう」
「え?午後の実技の訓練は…」
「ふふ、明日は入学式ですよ?」
「あっ」
そういうことか。でもそれと午後の休講と何の関係が…。
そう疑問に思っていると、教室代わりにしている俺の部屋のドアがノックされた。
「ウィル、入るよ」
そういって入ってきたのは父様だった。
「父様、どうしたんですか?」
「明日の入学式に出席する準備をしようと思ってね」
「準備…?」
そう言って、父様は後ろに控えていたアルバートから服を受け取った。
「ウィルも着てみたいんじゃないかと思ってね、用意したんだ」
父様が手にしていたのは、中等部の制服だった。中等部の制服はクリーム色っぽいホワイトのブレザーにグレーのスラックスだ。高等部の制服はグレーとホワイトがミックスされたブレザーにブラックのスラックスで、中等部に比べて落ち着いた雰囲気になっており、生地も成長を見越し丈夫さを重視して作られる中等部の物とは違い、上質で過ごしやすい物になっているのだとテオに教えてもらった。
「でも、ほとんど着ないんだろうし作らなくてもよかったのに」
「私が見たかっただけだから気にすることはないよ。それに入学式に行くならこの格好の方が目立たないかと思って」
「たしかに…」
それは一理ある。目をキラキラさせた父様に着替えさせられ、丈や裾を確認すると明日までに直させるね、と言って父様は帰って行った。
「明日は待ちに待った入学式ですね、正式に参加できないのが残念ですが…」
「はい、僕もできればみんなと参加したかったです。でも明日はマリウスやユーリを見ることができると言われたので、二人に会うのが楽しみです。二人とも忙しくなければお話したいんですけど…なにせ、もう一年以上会っていないので」
「入学式のプログラムに生徒会の任命式と新生徒会のお披露目が行われると聞いているので、二人とも壇上に上がるんじゃないでしょうか。入学式の後は授業もないですし、お話くらいはきっとできますよ。それでなくともウィリアム様のためならお時間を作ってくれるでしょう」
テオが帰ったので、広間に戻ってランスロットにお茶を淹れてもらっていた。授業中は邪魔をしないようにとティアに預かってもらっている虎太郎も、今は俺の膝の上でご機嫌だ。
「二人とも大きくなってそうだな…僕なんかまだまだなのに」
「ウィリアム様も随分大きくなりましたよ。あの二人はどちらもお父上が大柄な方でいらっしゃるので、確かに立派に成長しているかもしれませんね」
「はあ…一歳しか違わないのに…なんだかな…」
ため息をつく俺にランスロットは優しい眼差しを向けている。やめて…そんな目で見ないで…。ランスロットには年頃の男の子らしい悩みくらいに思われていそうだ。実際、人生二回目なんだから背の高いイケメンになってみたかったという願望かから来る妬みなのだが。だってどう考えてもウィリアムの顔じゃイケメンというより美人にしかならなそうで、俺の願いは叶いそうにない。
「さあ、明日は朝からお出かけの準備で忙しくなりますから、今日は早めにお休みいたしましょう」
入学式が楽しみで久々にピクニックの前日気分を味わった俺は、ほとんど眠れず、もぞもぞしていたおかげで虎太郎も起きてしまい、二人揃って寝不足である。
朝食を済ませると、ランスロットによって昨日のうちに届いていたという直された制服に着替えさせられた。前回着たときに比べると丈も裾もぴったりで、参加する訳ではないが入学式気分に背筋が伸びた。そうやって自室の鏡の前で自分の制服姿を見ていると、ドアを元気よく叩く音が聞こえた。
「お兄様!おはようございます!入っても良いですか?」
「いいよ」
そう言って入ってきたルーは、少しおめかししていた。白いシャツに深緑のジャケットと半ズボン、上着の中にも同色のベストを着ていて、アクセントにワインレッドのネクタイをしている。グレーのハイソックスに茶色のオペラパンプス。いつもパーティーに参加するときの格好だ。
「おはようお兄様、それが学院の制服?とっても似合ってる!」
「おはようルー、ありがとう」
俺の周りをくるくる回るルーが可愛くてくすくす笑っていると、開けっ放しのドアから父様とアルバートもやってきた。
「おはようウィル。直した制服の着心地はどうかな」
「おはよう父様、ちょうどいいよ。とっても動きやすい」
「よかった。さあ、準備ができたからそろそろ出かけよう。外で待ってる人も居るしね」
「外で待ってる人…?」
「ふふ、楽しみにしておいで」