新しい家族 3
「ウィル!起きて大丈夫なの?」
「ありがとうティア。もう大丈夫だよ、心配かけてごめんね」
「お兄様!本当に大丈夫…?」
「ルーもありがとう、本当に大丈夫だよ」
「さあ、その話は食べながらでも。せっかくの夕食が冷めてしまいますよ」
俺を見つけるなり走り寄ってきたティアとルーをランスロットがなだめて席に着かせ、夕食が始まった。
本当だったらルーもランスロットもとっくに屋敷に帰っている時間だが、俺が倒れて運ばれているのをティアと外で遊んでいたルーに見つかってしまい、頑として帰宅を拒否したらしい。
「お兄様の目が覚めるまで帰らない!」
ルーにそう言われてしまえば、使用人であるランスロットは従わざるをえない。仕事で毎日は合うことができない父と、離れた場所で暮らす兄に文句も言わず勉強に励んでいるルーの、時々しか言わないわがままに勝てる使用人などエインズワースには存在しないのだが。
「今日はみんなで晩ご飯楽しいね!」
そうニコニコしながら隣で用意されたシチューを食べるルーはとても上機嫌だ。そのルーの前にティアが座り、ティアの隣、つまり俺の前にはミーナが座っている。テオは所謂、お誕生日席に座っており、俺はルーとテオに挟まれる形だ。ちなみにルドルフとアマリアは大抵アマリアの部屋で食べているので、一緒に食べる機会は他のみんなよりは少ない。ランスロットはエインズワースの家でしているように、給仕に努めている。
「ウィル、じゃあ話してくれる?その精霊のこと」
食事もほとんど食べ終え、落ち着いてきた頃にティアがそう切り出した。
「うん、みんなに紹介するね。今日僕と契約してくれた虎太郎だよ。新しい家族として一緒に暮らしていくから、よろしくね」
そう言って、ずっと膝の上で丸くなっていた虎太郎を持ち上げてみんなに披露した。隣のルーはずっと気になっていたらしく、目をキラキラさせながら虎太郎を見ている。
「新しい家族ってことは、僕の弟ってこと?」
ルーは今にも虎太郎に飛びかからん勢いでこちらに体を寄せている。
「う〜ん、まあそういうことになるかな…」
精霊の実年齢が分からないので断言できないが、まあそういうことにしておけばみんなと馴染むのも早いだろう。
「失礼ですが、コタロー、とはあまり聞き慣れない名前ですね」
ちょっとビクッとした。そりゃあ日本名だし、この世界じゃ中々ない名前なのは分かってる。でも今の俺にはその名前が特別な繋がりに思えて、ちょっと嬉しかったりもするのだ。ただ、そこを突っつかれるとやはり痛い。
「うん…確かに聞き慣れない名前だけど、ちゃんと意味があるんだよ。でもそれは僕と虎太郎の秘密」
ねー、と虎太郎に話しかけると頬を舐めて応えてくれた。若干言い訳が苦しいが仕方ない。
「え〜!ずるいよ!僕にも教えて!コタローは僕の弟なんだから!」
頬を膨らませて俺の腕にしがみついてくるルーには頭を撫でて誤摩化した。
「それにしても初めて見る精霊ですね。仕事柄山や川に行くことがあるので、他の方達より多くの精霊を見ていると思うのですが…このような美しい色の獣型の精霊は初めて見ました」
ミーナが興味深そうに虎太郎を見つめている。
「私も初めて見ました。精霊関係の文献は全て読んだと思うのですが、見たことがありません」
テオも興味津々といった感じで虎太郎を見つめていた。俺にとってはとても馴染みのある姿なのだが、こっちの世界だと珍しいのか。これで「虎太郎」と漢字で書いて、こいつは虎だと説明してもさらに謎を深める結果になりそうだ。正直に名前の由来を言わなくて正解だった。
「まだまだ子どもだから、これから段々大きくなると思うよ。そうしたら貫祿がでてかっこ良くなるぞ〜」
みんなの視線を誤摩化すように、虎太郎のお腹に顔を埋めうりうりする。
「お兄様!僕も!僕も!」
もう待ちきれないというように手を伸ばすルーにゆっくりと虎太郎を預ける。
「虎太郎、今日からお前のお兄ちゃんになる俺の弟のルシアンだ。仲良くしてやってくれな。ルーも、お兄ちゃんになるんだから、虎太郎のことよろしく頼むぞ」
「うん!任せて!僕お兄ちゃんになった!」
興奮気味で文法が滅茶苦茶だがそれも可愛いから許そう。椅子の上に座ったルーの膝の上に抱っこされた虎太郎だが、落ち着かない様子だ。生き物を抱っこなどしたことがないだろうルーに抱き方を教えてやると虎太郎もルーに慣れて、ルーの顔をペロペロと舐めた。ルーもそれをくすぐったそうに受け入れており、仲良くなったようでホッとした。
「コタロー、僕はティアって言うんだ。よろしくね」
ルーの椅子の傍までやってきたティアは虎太郎の前に跪き、前足を優しく握って握手するように自己紹介した。虎太郎はそれにも応え、ティアの指を舐めた。それからミーナやテオ、ランスロットも挨拶をし、初日にして虎太郎はみんなに受け入れられた。