新しい家族
「そう言えば、貴方の名前を聞いてもいい?」
「はい、私はルーナといいます」
「ルーナ…良い名前だね」
「ありがとうございます、昔、人間にいただいた名前なのです。私達は名前が無いものが多いので、いただいた名前を褒められるととても嬉しいのでございます」
「そうなんだ…ルーナって女性名だけど、その、」
「ああ、私達はあまり性にこだわりが無いのです。私自身は無性ですが、この名前も私を女性だと思っていた人間がつけてくれたものです」
「性が無いんだ…」
「女性的なものや男性的なものもおりますが、精霊は自然の中で生まれ自然の中で生きるので、番を作ることも無いですし欲求も精神的なものに限られますので、性にこだわる必要が無いのです」
「そういうもんなんだ…」
ルーナと話していると、不意に誰かに呼ばれたような感覚があった。
「もっとお話していたいのですが、もう時間のようです。肝心の契約のお話をしましょう」
「はい」
「最初に、先ほどした昔話はあまり人に話さないでください。貴方が特別だと色んな人が気付いてしまうのは得策ではありません。貴方がこの人なら大丈夫だと思った人にだけ話してください」
「うん、わかった」
「そして、これが重要なのですが、私は貴方と直接契約することはできません」
「えっ」
「私は魔物からも人間からも狙われやすい身です。貴方と契約すると、今度は貴方の身が危ないのです。なので、分身と契約していただきたいのです」
「それは良いけど、大丈夫?ルーナが危険になることはない?」
「はい、それは大丈夫です。私は分身を通じて貴方だけと繋がることができます。分身は貴方だけを慕い、家族のような存在になるでしょう、私の子どもとも言える分身を、お任せしても良いですか?」
「勿論、大事にする」
ルーナはふわりと笑うと俺のおでこと自分のおでこをくっつけた。
「何か、貴方には大事にしていた生き物がいましたか?」
「…はい…」
そう言われて思い出す。俺が小さい頃、おばあちゃんの家に白い猫がいた。大きさが違えば虎として本領を発揮していただろうと思うくらいには凶暴で手をつけられなかったアイツは、おばあちゃんにだけは懐いてて、俺はいつも馬鹿にされてたっけ。でも、俺が泣いてるといつの間にか後ろにいて俺の背中を暖めてくれた。おばあちゃんが亡くなったその晩に姿を消してしまったけど、それすらもアイツらしくて家族みんなで笑ってしまった。
「とても美しい生き物ですね、気高くて、強くて、それでいて優しい。そのものの名前を教えていただけますか」
白くてふわふわの虎模様で。あの性格だったから、おばあちゃんは本物の虎みたいだって言って。
「虎太郎…」
小さい虎みたいな猫だから、虎太郎だねって。
「虎太郎…その名の通り、気高く、強い、貴方の家族のような存在になることを祈っています」
ルーナはそうにこりと笑うと、顔を離して空間に溶け込むように消えていった。