美しき父
「父様!」
「ただいま、ウィル」
夜まで帰ってこないと思っていた父がドアを開けて練習場に入ってきた。小走りで近寄るとわきに手を入れられ軽々と持ち上げられる。
「父様、今日は早かったね」
「最近はスポットが出現する頻度が少なくなっているからね、人員に余裕があるのさ。
それよりウィル、今日は夜会へ行こう。ルーも一緒に三人で」
「夜会…ですか…」
家で引きこもっていることが多い俺は人見知りがものすごく激しい。みづきだった時も人見知りすぎて友達があまりいなかったのに、見慣れない外国人がたくさんいる場所へなどとてもじゃないが行きたくない。
「ウィルもいずれエインズワースを継ぐかもしれないんだ。そろそろ顔を出さないとね。それに今回の夜会はブラウニング家の長男ユリエルのお披露目でもあるんだ。年の近い子ならウィルも友達になれるかと思ったんだけど…」
「い、行きます!僕もエインズワース家の長男として、出席します!」
父のこの顔に弱いのは自覚している。
百八十センチほどの高身長に、すらっとした手足。軍の大佐だけあり体もちゃんと鍛えている。
さらさらのダークグレーの髪を軽くサイドで流し、涼しげなヘイゼルの瞳に見つめられれば、老若男女がひれ伏したくなるような美しさだ。そんな父にウルウルした瞳で見つめられたら行きたくないなんて言えなくなってしまう。
「よかった!この日のために衣装を用意させたんだ。ルーとお揃いだよ。ブラウニング家のワイアットとは腐れ縁でね。付き合いが長いんだ。それにとてもいいやつだし、きっとウィルもユリエルと仲良くできるさ」
「た、楽しみです」
笑顔が引きつってしまったのは許してほしい。
「そうと決まれば午後の体術訓練はキャンセルして、一緒にお風呂に入ってお茶にしよう。夜会の準備をしなければね」
「そ、そんな…ローランドさんに悪いですよ」
「ローランドも1日くらい許してくれるさ。ね、ローランド」
「アーサーの頼みとありゃあ断るわけにはいかないな」
ローランドがやれやれと肩をすくめている。
「じゃあルーも呼んでお風呂に入ろうか」
「い、一緒にお風呂に入る必要は無いんじゃ…」
「大事なコミュニケーションだよ。ただでさえ一緒にいられる時間が少ないんだから」
そういいながら俺のほほにキスをする父に抱えられたまま、ルーの部屋に向かった。
「おとうさま!」
「ルー!」
父を見るなり嬉しそうに走り寄って体当たりしてくるルシアンを片手で軽々と受け止め、俺を抱えるのとは反対の腕で持ち上げた。
「ルー、今日は夜にお出かけするから今からみんなでお風呂に入ろう」
「おでかけ?るーもいっていいの?」
「今日は特別だ。三人でパーティーに行こう」
「ぱーてぃー!」
キャッキャと喜ぶ弟を見ていると、まあたまにはいっか、と思えた