少しのおあずけ
みんなとの挨拶が済んだところで、俺は父様に呼ばれて別室に移った。
部屋には俺と父様、テオにアルバートの四人しか居ない。
「今回テオを紹介したのは、今年から入学する魔法学院におけるウィルの待遇が決定したからだ」
「待遇…?」
今年で十三歳になる俺は、一ヶ月後には全寮制の魔法学院への入学が決定している。入学案内も来ていたし、そこに異論は無いのだけど。
「本当なら、入学と同時に入寮して学院で授業を受けることになるんだけれど、ウィルの場合は特殊だし精霊について学ぶには、今の特別研究室のほうが適切だ。光魔法を学ぶのなら、結局は個別で授業を受けることになると思う。セキュリティも国の中ではトップクラスだが、今住んでいる屋敷ほどの安全は保証できない。だから、魔法学院への入学は高等部まで待ってもらうことになった。勿論、高等部への入学の為に中等部卒業に必要な単位をテオのもとで取得するのが条件だけど」
「この屋敷で授業を受けるってことですか…?」
「そういうことになるね。さすがに私でも学校に警備を送ることはできないからね。ウィルの安全の為に必要なことだと納得して欲しい」
これはきっと、父様がいろんな機関と交渉して実現した結果なのだとわかる。魔法学院への入学を送らせるなんて聞いたことが無いし、学院の教授を家庭教師のように屋敷に招くなんてことも、常識じゃ考えられないことだ。そんな父様の努力を踏みにじるまねはしたくなかった。それに、自分の今の実力を考えればそれが最善だ。
「わかりました。よろしくお願いします、テオ」
「お任せください」
「入学の時期に合わせて、一ヶ月後から授業を始めてもらうつもりだよ。それまでに、ウィルのレベルなんかを見るために簡単なテストや、授業方針の打ち合わせをしようと思ってる。それでいいかい?」
「テスト…」
「そんな不安な顔をしなくても大丈夫だ、ウィルはもう高等部レベルの勉強を終えている。気楽に挑めば良いさ」
「…はい」
テストもそうだが、マリウスやユーリが通う魔法学院に、早く行ってみたいという気持ちも少なからずあったのだ。それが先延ばしになったというのが少し残念でもあった。
「高等部まで入寮はお預けだが、入学式くらいウィルも見に行きたいだろう。入学式なら保護者が居ても不自然ではないし、ノエルも卒業生として堂々と学院に入ることができる。ウィルもそろそろ外に出る準備をしなければならないし、予行演習ということで、学院に行ってみるかい?」
父様が僕の手を握りウィンクをした。
「行きたいです!」
「じゃあそれまでは訓練に励むようにね」
「ありがとう、父様…」
入学式についての話を少しすると、まだ仕事が残っているからとアルバートを連れて帰っていった。テオと俺は広間に戻り、マリウスとユーリの近況について話した。
「じゃあ、マリウスもユーリも今期の成績が良ければ生徒会に入るってこと?」
「そうですね、二人ともよく頑張っているので、教師の方々からも、勿論生徒からも評判が良いんですよ。本人達が拒否しなければ、生徒会への推薦が決まるでしょうね」
「すごい…生徒会って、学院の中で最高の生徒機関でしょ?初等部からの生徒に混じって成績上位なんて…僕も負けてられないな…」
「ウィリアム様でしたら、高等部からでも十分に成果を出すことができますよ。あの二人が居れば学院にもすぐ馴染めるでしょうし」
ランスロットがお茶を差し出しながら、励ましてくれた。
「ランスロットも学院の卒業生だよね?学院ってどんな感じだった?楽しかった?」
「そうですね…私はとりわけ成績が良かった訳ではないので、本当に普通の学生生活という感じでした。同じくらいの年の子どもに囲まれて過ごすことが少なかったので、最初は戸惑いましたが良い友人にも恵まれましたし、良い経験だったと思います。勿論、レベルの高い授業内容で、単位を取得できなければ即留年、ということもありますので遊びと勉強の時間のバランスを保つのが最初は難しいかもしれません」
「寮生活か…そこが一番不安だな…」
「寮は実際に暮らしてみないと想像もできませんよね。学院自体が男女別々の立地になっているので、学院の敷地内に教師以外の異性が居ないのは落ち着きませんでした。学校でもプライベートでも男だらけで、中々に辛かった覚えがあります」
「貴方は男だらけなのが嫌なのではなく、美しいものに囲まれていないのが落ち着かなかっただけなのでは…」
ランスロットがあきれたようにテオを見た。
「そ、そういえばテオは研究者だって行ってたけど、何の研究をしているの?」
「光因子と精霊の関係性についての研究です。自分の光魔法について調べ始めたのと、精霊の授業を受けたのがきっかけでのめり込んでしまいました」
「精霊の授業なんてあるんだ…」
「はい、それについて入学式までに説明するようアーサー様から伺っております。明日お話ししようと思っていたのですが、どうせですし今説明致しましょうか?」
「はい!ぜひお願いします」
「わかりました。ではでは場所を移動しましょう。すいませんが、この屋敷で魔法を使用してもいい部屋に案内してもらえますか?」
「では、練習場に行きましょう」