動き出したそれぞれ
スポットの向こう側、魔獣や魔物たちが住む世界でもまた、頭を抱える者が居た。
この世界を統べているいわば魔王の城で、ベリトは上司に報告をしていた。
「ベリト、お前を追い払った鍵が居たというのは本当か」
「…うん、とってもいい匂いだったからちょっと味見しようと思ったら暴れられちゃって〜。俺とは戦えるような要因が居ないときを狙ったのになんか邪魔も沢山入るし…さんざんだった〜」
はああ、大きくため息をつくベリト。そのベリトの様子に、サレオスと呼ばれたもう一人がため息を返した。
「味見なんかせずに早く連れて帰れば良かったんだ。お前の仕事にはいつも穴が多い…」
頭を抱えるのはベリトよりも大きい男。百九十は超えているだろう身長に、傭兵のようなしっかりとした体つき。無駄なものや過剰な筋肉は体が勝手にそぎ落としていくので、すらっとしている。短い黒髪に鋭い目つき。悪魔の特徴である赤い目に睨まれると普通の人間など動けなくなるほどに圧倒されるだろう。眉間のしわが彼をよりいっそうストイックに見せている。
「だってだって〜、鍵を間近で見るの初めてだったからさ、他の人間と何が違うのかなってずっと疑問だったの。でも実際に見てわかったよ、あれは中身が全然違う。他の人間なんか比べ物にならないよ〜」
「伝承通り、ということか。今度は俺が確かめにいかなければならないな」
「計画が無かったら俺がぱくっといっちゃいたいところなんだけどな〜」
そんなことをいうベリトに半ばサレオスがあきれていると、不意に声がした。
「その鍵が現れたというのは本当か」
現れたのはこの世界の全てのものを統べる、魔王だった。
「はい、久しぶりの鍵の出現に少しばたつきましたが、存在は確認しています。今回の鍵はまだ幼いながらにとても力が強く、ベリトが負傷して戻ってきました」
二人は素早く跪き、サレオスが報告した。
「ベリトを負傷させたのか…それは期待できるな。その後の居場所は補足できているのか」
「残念ながら精霊の庇護下に移っていしまい、場所は特定できません。しかし、精霊の反応からして相当に力の強い鍵のようです」
「まだ幼いならいくらでも探す手段はある。こちらの世界にはあれが存在しないことが分かった。物探しのついでだ。私が探しにいこう」
「み、自らですか?」
「ああ、計画のためには私が人間の世界に行くことが重要なんだ。留守を任せたぞ」
計画は、動き出したばかり。