大人達の思惑
no:side
エインズワース邸、応接室に大人達が集まっていた。
応接室は深いワインレッドの絨毯に、絨毯に合わせた色の赤と金の刺繍が入った三人がけの大きなソファーが二脚。その間に木目の落ち着いた長方形のテーブルが置かれている。天井も壁も白で、貴族にしては控え目だがセンスのいいガラスのシャンデリアが上から下げられている。
そのソファの一方にアーサーは座っていた。
「ウィルの訓練の方はどう?順調かな?」
「本人が魔力コントロールを欠かしていなかったおかげで、魔法の方は順調です。この調子なら魔法学院の方にも間に合うかと。体力も入院していた分は取り戻せていますが、もともと体術が得意ではないようで…飲み込みは良いので、これからの本人次第だと思います」
「そう、上手くいってるようで良かった。体術についてはトリシアに似てしまったようだね」
そう言って紅茶を飲むアーサーの前に座っているのはノエルだった。ランスロットとアルバートはアーサーの座っているソファの後ろに待機している。
「その魔法学院のことなんだけど、少し相談があってね」
「…そう言われるだろうと思っていました」
「話が早いね」
ふふと笑うアーサーに、ノエルは底知れない寒気を感じた。目の前にいる男は、小さな二人の子どもの父親である前に、軍に属する大佐である。本来ならこの若さで大佐など、考えられない話である。ワイアット、ローランドと並んで学院を卒業した後に軍に入り、とんでもないスピードで出世した男だ。ローランドは軍を辞めてしまったが、ワイアットに影で指示を送っているのは間違いなくアーサーである。ワイアットもああ見えてキレる方だが、この人は底が知れない。大佐で留まっているのも、考えあってのことだろう。
「それで、ウィルの学院入りを少し遅らせたいんだ」
「はあ、そう言われると思っていました」
よく考えれば、この男が国の中枢が管理する魔法学院におとなしくウィルを引き渡すなどあり得ない話だ。
「遅らせると言っても、寮に入るのを遅らせたいんだ。中等部の教育は受けさせたいと思っているし。だから一人、学院の中にこちらでウィルにつける教師を用意した。彼について光魔法の特別カリキュラムという名目で単位取得、という形が理想かな」
「…わかりました。中等部についてはそれで話を通します。問題は高等部です。どうしますか?教師が中に居てもすべてはカバーできませんし、親しくしているブラウニング中将のご子息やこの家のマリウスは年が一つ上ですから、何かと不便なのでは」
「そうなんだよ、さすがにこちらでは信用できる子どもまでは用意できそうになくて」
わざとらしく肩を落とすアーサーに、ノエルが続ける。
「私の方でよければ、ウィルと一緒に居られ、実力もあり国が手を出せない信用の置ける人材が居ます」
「助かるよ、そう言ってもらえると」
最初からこれを提案させるつもりだったくせに。と、ノエルは心の中で毒づく。この親に育てられて、ウィルもルーも純粋に育っているのが奇跡だと感じていた。
「じゃあ、よろしく頼むね」
「はい」
この人は俺に、俺達についてどこまで調べているのか。とにかく今日はあまり眠れそうにない。ノエルは心の中でため息をつきながら、その部屋を後にした。